幻に終わった特急つばめ「走りながら連結」米国事故は映画に、鹿島でもドラマ撮影



走行中に2本の列車を物理的に連結、分離する技術の開発をイスラエルの新興企業が進めている。この企業が公表しているフィールド試験の動画を見る限り、2本の列車が同時に走りながら連結するレベルには至ってないようで、技術開発が今後どこまで進むのか気になるところだ。

走行中に連結、分離すること自体は古くから例があり、とくに走行中の分離は営業運行でも実際に行われている。とはいえ停車時の分離に比べると安全上のリスクはどうしても高くなり、限定的にしか使われていない特殊な運用手法といえる。

日本の鉄道の場合、1930年に東海道本線の東京~神戸で特急「燕(つばめ)」が運行開始。東京~神戸の所要時間は特急列車でも11時間半ほどかかっていたが、「燕」は補助機関車の切り離しを走行中に行うなどして2時間半ほど短縮し、所要時間を9時間としている。

C51形蒸気機関車が牽引する戦前の特急「燕」。【撮影:杵屋栄二】

このころ、東海道本線の神奈川・静岡県境部は熱海経由ではなく、急勾配が多い現在の御殿場線経由。急勾配の区間では列車の後部に補助機関車を連結する必要があり、駅などに停車して補助機関車を連結、分離していた。そこで国鉄は補助機関車の分離を走行中に行うことで停車時間を節約し、所要時間を短縮することにしたのだ。

ちなみに「燕」の時間短縮策はこれだけではない。当時の東海道本線は東京~国府津が電化されており、この区間は電気機関車が牽引。国府津駅で電気機関車を蒸気機関車に交換していた。「燕」は交換時間をなくすため、東京駅から蒸気機関車が牽引。また、蒸気機関車で使う水は駅に停車したときに補給しているが、「燕」は水槽車を連結することで給水停車の時間も節約している。

このほか、山陽本線・瀬野~八本松にある急勾配区間、通称「セノハチ」では上り貨物列車の後部に補助機関車を連結しており、走行中の分離も2002年まで行っていた。現在は広島貨物ターミナル駅で補助機関車を連結し、西条駅で切り離している。

山陽本線「セノハチ」で貨物列車の後方に連結された補助機関車(機関車は現在更新されている)。【画像:taso583/写真AC】

走行中の連結は2本の列車の速度を精密に制御する必要があり、分離以上に難しい。海外も含めて営業運行で常用的に行われた例はないとみられる。ただ「燕」の補助機関車の場合、計画段階では走行中の連結も考えられていた。

『機関車100年 日本の鉄道』(1968年、毎日新聞社)によると、沼津機関区に所属する「折紙付きのベテラン(機関士)たち」を選抜。「新鶴見駅の構内」(正確には新鶴見操車場の構内と思われる)で走行中の連結や分離を含む訓練を行っていたようだ。「その作業は、一月もたたないうちに会心とはゆかないまでも、どうやらやりこなせるようになって来た」という。

しかし、国鉄としては安全上の懸念を拭えなかったのか、訓練は当然中止に。補助機関車の連結は駅に30秒だけ停車して行うことになり、走行中の連結は幻に終わった。訓練を続けてきた機関士は突然の通達に「そんな、馬鹿な。ここまでやって来て、わしたちの腕を信用して下さらんとでもいうのですか」と上司にくってかかったという。

海外では特殊な例だが2001年、米国オハイオ州でCSXトランスポーテーションの貨物列車の暴走事故が発生した際、走行中の連結が行われている。

この貨物列車は機関士などの乗務員が乗っていない状態で暴走。列車の先にある急カーブで脱線した場合、貨車に積まれていた化合物が爆発するおそれがあり、急カーブの手前で停止させる必要があった。そこで後方から別の機関車で接近。100km/h程度の速度で走りながら連結し、ブレーキをかけた。これにより暴走した列車は減速。先頭の機関車に機関士が飛び乗ってエンジン停止操作を行った。

『奇跡体験!アンビリバボー』の再現ドラマで使われた鹿島鉄道DD902(2006年)。ドラマ撮影時は暴走した貨物列車の会社名(CSX)や牽引機の番号(8888)で装飾された。車体の形状などは実際に暴走した車両とは異なる。【撮影:草町義和】

ちなみにこの事故は、2010年に公開された映画『アンストッパブル』のモチーフになっている。日本でも2007年、情報バラエティ番組『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ)で暴走事故の再現ドラマが放送されており、撮影では鹿島鉄道(鉄道事業は2007年廃止)のDD902ディーゼル機関車などが使われた。

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