三岐鉄道北勢線のあり方「存続2案」「廃止1案」検討深度化へ 存続優位も黒字化困難



厳しい経営が続く北勢線(三重県)で「今後のあり方」の検討が進んでいる。運営会社の三岐鉄道と沿線市町で構成される「北勢線事業運営協議会」の5月27日の会合で基礎調査の結果が報告され、協議会は鉄道存続の2案と鉄道廃止の1案に絞って検討を深めることを確認した。

三岐鉄道が運営する北勢線。【画像:ネライト/写真AC】

北勢線はJR関西本線・近鉄名古屋線の桑名駅に隣接する西桑名駅(桑名市)から阿下喜駅(いなべ市)まで20.4kmを結ぶ鉄道。単線電化路線で762mmという特殊な軌間(ナローゲージ)を採用しており、小型の電車が走っている。

基礎調査の報告書によると、北勢線の将来像として「鉄道存続」と「鉄道廃止」の合計10案を設定。鉄道存続案は大きく分けて「現状維持」と「改軌」の二つとし、改軌案はさらに「改軌」「電化設備撤去」「鉄道自動運転」「DMV」「LRT」に細分化した。鉄道廃止案は鉄道敷地の活用案として「BRT」と「自動隊列走行バス」、一般道を走行する路線バスとして「連節バス」と「大型・中型バス」を設定した。

検討の深度化を図ることが決まったのは鉄道存続の「現状維持」「改軌」と鉄道廃止の「BRT」の合計3案。現状維持案は軌間を現状のナローゲージのままとし、1編成3両の新造車両を導入する。既存施設をすべて活用できるが、特殊な規格を採用しているため中古資材の活用によるコスト減が難しい。

現在の利用者数を輸送できる車両数は8編成24両で、運転士一人あたりの定員は約180人。全線の所要時間は43分程度とし、現在の最短時間より数分ほど短縮することを見込む。

現状維持案は改軌せず新造車両への更新のみ行う。【撮影:草町義和】

改軌は軌間を近鉄名古屋線などと同じ1435mmに拡幅し、1編成2両の他路線中古車両を導入する。全線で改軌工事が必要で橋梁やホームなどの改修も必要。一方で輸送力を向上できるほか、中古資材の活用が容易という利点がある。

改軌は近鉄名古屋線などと同じ1435mm軌間の採用を想定する。【画像:エリザベス/写真AC】

必要な車両数は8編成16両で運転士一人あたりの定員は約200人を想定。定員の増加による快適性の向上が期待できるとした。全線の所要時間も改軌によるカーブの通過速度の向上でさらなる改善が期待できるとしている。

BRTは鉄道を廃止したうえで線路敷地をバス専用道に改築し、連節バスを運行するもの。必要な車両数は23両で、運転士一人あたりの定員は約70人と鉄道に比べ大幅に減る。全線の所要時間も70分程度と大幅に増加する。さらにバス運転士は慢性的な人手不足で、既存事業者は「受託困難」との意向を示しているという。

線路敷をバス専用道に改築してバスを運行するBRT(写真はかしてつBRT)。【撮影:草町義和】

導入費は現状維持が約120億円(うち国庫補助約50億円)で最も安く、これに改軌の約190億円(うち国庫補助約70億円)が続く。BRTは最も高い約270億円(うち国庫補助約80億円)とした。累積損益は2025~2045年度で推計したところ、現状維持で約150億円の赤字。改軌は約190億円の赤字で、BRTは約250億円の赤字とした。鉄道存続の現状維持案が優位だが、3案とも赤字運営で黒字化は困難だ。

協議会は今後、3案について詳細を検討したうえで一つに絞り込む方針。

北勢線はかつて近鉄が運営していたが、自動車交通の深度化や過疎化で利用者が減少。さらに特殊な軌間を採用していることから運営コストが高く、2000年に近鉄が廃止の意向を示した。2003年には近隣で鉄道路線を運営する三岐鉄道が経営を引き継いでいる。

三岐鉄道への経営移管後の利用者数の推移。【画像:北勢線事業運営協議会・中央復建コンサルタンツ】

年間利用者数は2003年度で約206万1000人だったが、沿線自治体の支援による施設改良とサービス向上で2005年度以降は増加。コロナ禍前の2019年度で約255万2000人だった。しかしコロナ禍で2020年度は約200万6000人、2021年度は約192万3000人に減少。2022年度は約208万人4000人に回復したが、コロナ禍前の水準には戻っていない。

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