富士トラム「磁気誘導」優位に 導入コストはLRTの半分以下、輸送力はバスの2~3倍



富士山有料道路(富士スバルライン)に誘導装置付きゴムタイヤ交通システムを整備する「富士トラム(仮称)」の構想について、山梨県は6月5日、昨年度2024年度に実施した調査・検討結果を公表した。導入コストはLRTの半分以下になるとしている。

富士トラムはゴムタイヤで道路を走行するが、車外の路面標示などを車両側の装置で読み取ることで所定の方向に誘導されて走る。路面電車のように路面にレールを敷設する必要はない。車両は1編成の長さを30mとして低床式・3車体連節を想定。座席数は2編成連結で120席とし、連節バス1編成(33~58席)の約2.1~3.6倍を見込む。

富士トラムを構成する各要素技術。【画像:山梨県】

動力源は蓄電池や燃料電池、水素エンジンなどを比較。いずれも給電時間や低温下での使用に課題があり、蓄電池や水素利用の燃料電池などを併用するのが効果的とした。

誘導方式は、磁気誘導式を「自動運転のため運転手の技量に左右されず安全性が高い」と評価。一方で白線誘導式は「自動運転が可能だが、悪天候時・積雪時には他のシステムの併用が必要」とし、磁気誘導式が優位とした。

磁気誘導式は、路面に一定の間隔で設置した磁気マーカー(直径3cm)を読み取る方式。日本のトヨタ自動車が開発した「IMTS」や韓国の鉄道技術研究院が開発した「バイモーダルトラム」で採用されており、現在は自動車の自動運転の補助装置としても開発が進められている。白線誘導式は中国中車が開発した智軌(ART)で採用された方式。路面標示の白線を読み取ることで車両を誘導する。中国の上海や株洲などの都市に導入実績がある。

磁気誘導式を採用したトヨタ自動車のIMTS。【撮影:草町義和】
白線誘導式を採用した中国中車のART。【画像:中国中車】

自動運転の実現可能性については、山間部の運行で災害・緊急時への対応を考慮し、係員が添乗する「条件付き自動運転」の導入が考えられるとした。鉄道の自動運転では「GoA3」、自動車の自動運転では「レベル3」に相当する。

導入コストは路面電車方式の軽量軌道交通(LRT)が1340億円なのに対し、富士トラムは半分以下の618億円と試算した。費用の内訳を見ると、軌道・誘導装置の整備費は鉄レールを敷設するLRTが340億円なのに対し、富士トラムは磁気誘導式の場合で99%減の3億円に。駅施設や電力施設、通信設備もLRTに比べ大幅に減少する。

導入コストの総額と内訳。【画像:山梨県】

年間維持コストはLRTが32億7000万円としたのに対し、富士トラムは動力源や水素価格の変動で大きく変わる。最小値(電気車)はLRTより安い29億1000万円だが、最大値(水素車で現在の水素価格)は49億円でLRTより大幅に高い。

年間維持コストの比較。【画像:山梨県】

山梨県は富士山の環境負荷軽減を目的として、LRTによる登山鉄道を富士スバルラインに整備することを構想。これに対して地元の富士吉田市などは、レールの敷設による自然環境破壊などを懸念して反対した。昨年2024年11月に山梨県は登山鉄道の整備を断念し、レールの敷設が不要な富士トラムの構想を新たに提示。これまでほかの交通システムとの比較や事業費などの検討を進めていた。

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