水害による一部区間の運休から2年半、大井川鉄道(静岡県)が運営する大井川本線の全線復旧が決まった。静岡県や沿線自治体の島田市・川根本町、大井川鉄道などで構成される「大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会」は3月28日、運休中の川根温泉笹間渡~千頭の19.5kmについて、2028年度中に運行を再開するとした確認書に合意した。

工事が順調に進めば4年後の2029年春には再開するとみられる。復旧などにかかる費用のうち、本来は鉄道事業者側が負担する分も地元の静岡県や沿線自治体が支援する。
確認書によると、工事期間は本年度2025年度から2028年度まで。災害復旧工事に加え、鉄道としての安全運行に必要な機能回復工事も実施する。費用総額はこれまで22億円とされていたが21億円とし、内訳は災害復旧が4億8000万円、機能回復が16億2000万円になる。
災害復旧費は全額公費負担。国と静岡県が1億2000万円ずつ補助し、島田市と川根本町も合計2億4000万円を補助する。機能回復費は国と静岡県が5億4000万円ずつ補助し、川根本町も1億8000万円を補助。さらに静岡県が2億7000万円を貸し付け、島田市も9000万円を貸し付けるという。
静岡県の鈴木康友知事と島田市の染谷絹代市長、川根本町の薗田靖邦町長は確認書の合意について「(大井川鉄道が)地域に不可欠な資源であること、新型コロナに加え2022年台風15号で経営が悪化していること、沿線地域の復旧への強い思いがあること等を踏まえたもの」としたうえで「今後、静岡県、島田市、川根本町は、確認書に沿って、大井川鉄道の全線復旧に向けてしっかりと支援していく」とコメントした。

大井川本線はJR東海道本線の金谷駅から大井川に沿って千頭駅までの39.5kmを結ぶ鉄道路線。2022年9月の台風15号で路盤流出や土砂流入などの大きな被害が発生し、ほぼ川根本町内の川根温泉笹間渡~千頭が現在も運休中だ。これに加えて施設の老朽化が進んでおり、運行を再開する場合は老朽化した施設の修繕も必要な状況になっていた。


鉄道軌道整備法に基づく補助制度をそのまま適用した場合、災害復旧費は国と地方公共団体が半分を補助し、機能回復費も国と地方公共団体が3分の2を補助するが、残りは鉄道事業者が負担しなければならない。大井川本線の場合、約8億円が大井川鉄道の負担分になる。
しかし大井川鉄道はコロナ禍による利用者の減少に加え、2022年9月以前にも災害による運休と復旧を繰り返して厳しい経営が続いていたことから、自力復旧は困難と判断。2023年1月、静岡県に公的支援を要請し、同県が検討会を設置して復旧の枠組みなどを協議、検討していた。今回の確認書では、大井川鉄道の負担分も静岡県や沿線自治体が補助、または貸付によって負担することを盛り込んでおり、大井川鉄道が最終的に負担しなければならない金額は3億6000万円に抑えられている。

大井川本線の利用者の多くはSL列車などを利用する観光客。定期券を使って日常的に利用している地元の定期客は全体の15%と少ない。その一方で検討会による経済波及効果の分析結果によると、川根本町を訪れる観光客の消費支出総額は2018年度で19億2900万円だったのに対し、コロナ禍と一部区間の不通が影響している2023年度は13億5900万円で4億5600万円減少したという。

地元利用が少なくても鉄道の運休による観光客の減少が地域経済への大きな打撃になっていることから、大井川鉄道の負担分も静岡県や沿線自治体が支援することでまとまったといえる。
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