茨城県は2月25日、つくばエクスプレス線(TX)の延伸構想について、同県としての事業計画素案を公表した。2年近く前に公表した推計では土浦への延伸について黒字化は困難としていたが、今回の素案では43年で累積黒字になるとし、さらに東京延伸と一体整備すれば27年で累積黒字になるとした。

土浦延伸計画は、つくば~新土浦の約10km。新土浦駅はJR土浦駅に隣接して整備し、中間駅は従来想定の2駅から減らして1駅とした。つくば~新土浦の所要時間は約9分で運賃は340円。つくば発着の全列車が乗り入れるものとし、新土浦駅とJR土浦駅の乗換時間は約4分と想定した。開業目標は2045年とした。
守谷~土浦の所要時間は現在(取手経由)約49分なのに対し、21分短い約28分に。東京~土浦では現在の常磐線快速の約74分に対し、TX利用(秋葉原経由)なら9分短い約65分になる。
概算事業費は約1320億円。内訳は建設費を約920億円、用地費を約140億円、税・諸経費等を約170億円、車両費を約90億円とした。中間2駅を想定した2023年6月の延伸方面決定時(約1400億円)より80億円減少した。
事業スキームは、公的機関が整備主体となって線路施設を整備して列車を運行する営業主体に貸し付け、営業主体は受益相当額を施設使用料として整備主体に払う受益活用型上下分離の導入を想定。補助制度は既存の都市鉄道利便増進事業費補助(速達性向上事業)を活用する。
需要推計は従来の手法である四段階推計法に加え、新たな手法である応用都市経済モデルでも調査した。四段階推計法では利用者数が1日1万人で累積資金の黒字転換は困難とし、費用便益比(B/C)も0.83で社会的な経済効果が事業費を下回った。一方、応用都市経済モデルによる推計では1日の利用者数が2万2000~2万5000人に。開業から43年で累積黒字に転換し、B/Cも1.6で社会的経済効果が事業費を上回るとした。
「一体整備」なら黒字転換さらに短縮
事業計画素案ではこのほか、東京駅への延伸も含めた東京~土浦の一体整備のケースも盛り込んだ。東京駅延伸計画の整備区間は秋葉原~新東京の約2kmで、所要時間は約3分、運賃は170円。新東京駅とJR東京駅の乗換時間は約8分とし、秋葉原発着の全列車が乗り入れるものと想定した。東京~土浦の所要時間は約57分。現在の常磐線快速より17分短縮される。概算事業費は約1750億円。土浦延伸計画と同様に都市鉄道利便増進事業として実施することを想定した。
土浦延伸計画に中間駅の周辺開発を加え、さらに東京駅延伸計画と一体で整備する場合、延伸区間の需要予測は応用都市経済モデルの適用でつくば~新土浦が1日2万~2万6000人、秋葉原~新東京は1日13万3000人と試算。累積黒字への転換は開業から約27年後で土浦延伸の単独整備より16年縮小する。B/Cは1.35とした。

新線の需要を予測する場合、現在は四段階推計法を用いるのが一般的。交通量を地域内・地域間・交通手段・経路別の四つに分けて順に推計する。これに対して応用都市経済モデルでは土地利用と交通利用を同時に考慮する。
茨城県によると、TXの茨城側の延伸方面を土浦に決定(2023年6月)したときの需要予測は四段階推計法で実施。鉄道を延伸しても交通の発生量や地域間の流動は将来も変わらない前提で推計した。
その一方、現在のTXの利用者数は四段階推計法を用いた開業時の需要予測を上回っている。このため事業計画素案では「延伸効果をより地域の実態に合った形で的確に需要予測へ反映させることが期待できる」として応用都市経済モデルによる需要予測を実施したという。
TXは2005年に開業。この時点の需要予測では2025年度の1日平均利用者数が31万5000人になるとしていたが、実際は2013年度に31万5000人を達成している。コロナ禍が本格化する前の2019年度は40万人近くまで膨れあがった。
茨城県は今回公表した事業計画素案について「県独自の調査に基づく概算値であり、直ちに事業化判断に使用できるものではありません」としつつ、延伸の実現に向け議論を進める考え。2030年ごろまで延伸計画素案の「磨き上げ」を進め、具体的な計画内容を決定する方針だ。
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