徳島市内のJR線高架化「新計画案」分割整備から一括整備へ、車両基地の移転先も変更



事実上凍結されている徳島市内のJR線高架化計画が、徳島県知事の交代を機に再び動き出している。徳島県は現行計画を一部変更した新しい計画案を取りまとめ、11月28日までに公表した。

高架化計画が事実上凍結されている徳島駅。【画像:nekomi/写真AC】

徳島県が2014年2月に提案した現行計画では、徳島駅の西側から徳島駅と牟岐線の阿波富田駅、二軒屋駅を経て文化の森駅の手前まで約4.2kmを高架化。徳島駅の北側に併設されていて高架化に支障する車両基地は徳島市南部に移転する。このほか、文化の森駅に行き違い線を整備することも盛り込んでいる。

まず国道192号との交差部付近から文化の森駅付近までの約2.9kmを第1期区間として先行整備。車両基地の移転を伴う徳島駅付近の約1.7kmと文化の森駅の行き違い線整備は第2期区間として後回しにする分割整備を行う。第1期区間と第2期区間の境界付近で重複する部分や行き違い線の整備が含まれるため、事業区間の距離は約4.7kmになる。

現行計画の高架化の平面図と縦断面図。【画像:徳島県】

これに対して新計画案では、徳島駅の西側から文化の森駅手前まで一括で整備。文化の森駅の行き違い線は整備しない。事業区間の距離は現行計画より500m短い約4.2km。踏切は12カ所を解消する。

車両基地は牟岐線・徳島~阿波富田の線路脇にあった多目的ホール「徳島市立文化センター」の跡地への移転に変更する。整備方式は高架構造と盛土構造を比較検討し、土地の有効活用の観点から高架構造を採用。高架下空間に商業施設の整備を想定する。

新計画による高架化の平面図と縦断面図。【画像:徳島県】
現在の車両基地と移転先候補地の位置。【画像:徳島県】
車両基地(高架構造)の横断面図。【画像:徳島県】

徳島県によると、現行計画は車両基地の移転先が徳島駅から遠い。車両の回送コストの増大に加え、高架化しない区間の踏切遮断時間も増加する。その一方、新計画案では車両基地の移転先が徳島駅から近く回送コストを抑えることができ、高架構造を採用することで市街地の分断が生じないなどのメリットがあるという。

概算事業費は現行計画の着工準備採択(2006年度)の時点で500億円とされていたが、今回の新計画案の検討に伴い実施した再算定では約800億円に。新計画案はさらに50億円増えて約850億円としている。国の補助を除いた徳島県の負担額は現行計画で約170億円、新計画案で約180億円を想定している。

事業期間は現行計画が17年なのに対し、新計画案は一括整備により4年短い13年に。費用便益比(B/C)は2006年度の時点で2.3とされていたが、今回の発表では現行計画が1.3、新計画案は1.2に縮小している。

車両基地の移転や県市の対立で進まず

徳島市内の鉄道高架化は、高徳線・鮎喰川橋梁~佐古駅~出来島踏切西の約2.8kmと徳島線・佐古駅~城西中学東の約0.9kmが第1期区間として先行着手。1993年に高架線へ切り替えられ、9カ所の踏切が解消された。

徳島市内の鉄道高架化(青=高架化完了、赤=計画)。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

続いて徳島駅の西側から文化の森駅付近までの高架化も計画され、まず徳島駅付近の約1.7kmが限度額立体交差事業として事業採択された。しかしその後、文化の森駅付近まで連続立体交差事業(連立事業)として一体的に事業を進めることが考えられるようになり、限度額立体交差事業は2002年に休止。2006年、連立事業の着工準備が採択された。

この事業で大きな課題になったのが、徳島駅に併設されている車両基地だった。高架化は膨大な費用がかかるため、敷地が広い車両基地などは高架化の対象から外れた場所に移転したほうが事業費を抑えることができる。

この連立事業では、牟岐線の文化の森駅からさらに一つ先の地蔵橋駅近くに車両基地を移転することが考えられた。しかし水害対策に多額の費用が見込まれるうえ、徳島駅から約6km離れていて車両の回送コストがかさむなどの課題があり、検討が進まなかった。

徳島駅に併設されている車両基地。【撮影:草町義和】

このため徳島県は、車両基地の移転が必要な徳島駅付近の高架化を後回しにする分割整備を主張。これに対し徳島市は全区間を一括して都市計画を決定することを主張して対立し、検討が進まなくなった。

2016年には文化センターが車両基地の移転候補先として浮上した。この施設は牟岐線の線路脇にあり、徳島駅からの距離も約800mと短い。2015年には耐震強度不足のため閉館が決まっており、跡地の活用策として車両基地の整備が考えられた。

しかし、この案も騒音などが懸念されたことから提案の域を脱することはなかった。その後、文化センター跡地は徳島県と徳島市が連携して徳島県立の徳島文化芸術ホール(仮称、新ホール)が整備されることに。新ホールへのアクセス向上を図るための新駅も計画された。

文化ホールの跡地には徳島県立の新ホールを整備して新駅も整備されるはずだった。【画像:徳島県】

ところが、昨年2023年4月に実施された徳島県知事選挙で、新ホールの計画縮小や新駅の中止、徳島駅北側の再開発を掲げた後藤田正純氏が当選する。徳島駅の北側は車両基地に遮られる格好で駅と直接つながっていないことから、再開発となれば駅から北側に直接抜けるルートの整備が重要な課題になる。

そこで再び浮上したのが、事実上凍結されていた高架化計画と車両基地の文化センター跡地移転案だった。徳島駅を高架化すれば南北どちらにも出られるようになり、北側へのルートを確保できる。また、新ホールは規模を縮小したうえで徳島駅から西に約300mの藍場浜公園に整備する案が議論されており、これが採用されれば文化センター跡地への車両基地の移転も可能になる。

後藤田知事は11月20日の記者会見で「いままで県市がいつもこじれていた。過去の対立ということではなく、ワンチームで前に進めたいと思っている」と話し、徳島市と連携しながら高架化事業を早期に進めたい意向を示している。

一方、徳島市の遠藤彰良市長は11月20日の記者会見で「市民の皆さんの意見や市議会にも相談して、徳島市としてしっかり検討していきたい」と述べるにとどまった。徳島県議会や徳島市議会でも高架化に慎重な意見を示す議員は多く、徳島県が今回示した新計画案で進むかどうかは不透明だ。

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