熊本市の大西一史市長は11月22日、熊本市電の上下分離方式への移行を延期すると発表した。事故やトラブルが続発していることを受け、上下分離の前に安全体制の再構築を図る必要があると判断した。
熊本市は熊本市電の経営改善を目的に上下分離方式の経営体制への移行を計画。7月には軌道運送事業者として一般財団法人の熊本市公共交通公社を設立した。上下分離後は熊本市が施設や車両を保有し、公共交通公社が同市から施設や車両を借り入れて電車を運行する。
路面電車で上下分離を導入する場合、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」(地域交通法)に基づいて軌道運送高度化実施計画を国に申請し、認定を受ける必要がある。熊本市は申請に向け実施計画の作成を進めており、来年2025年4月から上下分離方式の経営に移行する計画だった。
その一方、熊本市電では今年2024年に入ってから電車の脱線に加え、走行中の電車のドアが開いたり信号を無視したりするなどの事故・トラブルが続発。外部有識者によるインシデント検証委員会が5月に設置されたほか、9月には国土交通省の九州運輸局が熊本市交通局に対し改善指示を発出した。検証委は2024年内にも最終報告書を提出するとみられ、2025年1月には交通局が安全対策チームを設置する予定だ。
大西市長は2024年11月22日の記者会見で「安全の再構築を担保するため、運輸局の改善指示や今後取りまとめられる予定の外部検証委員会の最終報告を踏まえ、(実施計画の)内容を改めて精査するよう指示した」と表明。これにより実施計画の申請が遅れることから「上下分離を延期せざるを得ない状況」と話した。
上下分離の実施時期をいつまで延期するかについて、大西市長は「今後の日程はまだ決まっていない」としつつ「1年近くは延期せざるをえないのではないかと見込んでいる」と話した。
熊本市電では11月24日に新型車両の2400形電車でデビューする予定。実施計画には市電の延伸計画(仮称・東町線)に加え、新型車両の今後の導入計画も含まれる。大西市長は「延伸と実施計画の精査は直接にはリンクしない。車両の更新は安全面で見直すということになれば計画も変わっていくが、来年(2025年)導入する新型車両2編成は止めるということでなく、影響のないところはちゃんと前に進めていく」と話した。
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