国土交通省は11月19日、「フルフラット座席を備える高速バスの安全性に関するガイドライン」を公表した。寝台と同様のフルフラット席の安全上の要件をまとめたもので、これにより「寝台バス」といえる夜行バスが誕生する可能性が出てきた。
乗車定員11人以上で総重量5t以上の自動車について、走行中にフルフラットの位置までリクライニングした状態で使用する座席が対象。フルフラット席を導入する場合、転落防止プレートや衝撃吸収剤などを備えることや、転落防止措置と保護部材を設けること、2点式座席ベルトなどが備えられていることを導入の条件とした。3点式ベルトは衝突時に乗客の頸部を圧迫するおそれがあることから使用しないものとしている。
このガイドラインは国交省の物流・自動車局と車両安全対策検討会がまとめたもの。実際に衝突試験を実施し、その試験結果を反映させた。
国交省によると、国内の高速バスでは深夜移動ニーズへの対応を目的として、フルフラットの状態までリクライニングした座席を備える大型バスの導入が求められている。このため車両安全対策検討会での審議を踏まえ、ガイドラインを策定したという。
国交省はガイドラインの策定により「フルフラット座席に適した座席ベルトや保護部材等の安全装置を備えたバス車両の開発が促進されることで、ニーズに対応しつつ、安全性の向上が図られることが期待されます」としている。
日本では1960年に札幌市交通局が寝台を備えたバスを開発したが、安全上の問題などから本格導入には至らなかった。現在はリクライニングの傾斜角度が大きい座席を設けたバスは運行されているが、フルフラット席のバスは運行されていない。
海外では1920年代から寝台バスが運行されていたとされ、現在も一部の国で運行されている。完全なフルフラットではなく、腰から上の傾斜角を170度程度に抑えているものが主流とみられる。
中国の場合は1980年代に寝台バスが開発され、1990年ごろから各地で運行されていた。2010年代初頭には約3万台の寝台バスが5000以上の路線で運行されていたとみられ、「寝台バス大国」といえる状況だった。しかし事故発生時の死亡率が非常に高いことから、2011年に寝台バスの製造が事実上禁止に。運賃が鉄道の寝台車と大差ないことも背景にあり、2017年までに消滅したとみられる。
中国政府の公安部の統計によると、2011年のバスの事故総数のうち寝台バスの事故数は1%。これに対し寝台バス事故の死亡者数はバス事故全体の1割を占めていたという。
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