JR貨物の脱線事故「過去20年で18件」旅客会社に問題があったケースも



運輸安全委員会(JTSB)が事故調査報告書を公表済みか調査中のJR貨物の脱線事故は、過去20年間で18件発生している。いずれも死傷者はいない。

脱線の原因は必ずしも断定できるものではないが、1件は調査中で3件は直接の原因が規模の大きい自然災害といえる。残る14件のうち7件が車両側(部品の脱落や操作ミスなど)、5件が線路側(線路のゆがみなど)で、車両・線路の両方に起因するものが2件と考えられる。

JR貨物は基本的にはJR旅客6社から線路を借りる形で貨物列車を運行しているため、線路側に起因がある事故は「JR貨物の事故」とはいえない面もある。JR旅客6社の地域別で見ると、18件のうち半数の9件がJR北海道エリアで発生している。

この9件のうち少なくとも5件は線路側に起因しているとみられる。とくに2013年9月に発生した函館本線・大沼駅の脱線事故では、JR北海道が線路点検データを改竄(かいざん)していたことが明らかに。同社の経営体質の問題が露呈する結果となった。

今年2024年7月に発生した山陽本線・新山口駅の脱線事故は調査中だが、この調査の過程で、JR貨物が輪軸の組立作業の際に作業データを改竄していたことが発覚。さらにほかの鉄道事業者や車両メーカーも同様の不正行為を行っていたことが分かっている。

JR貨物の過去20年間の脱線事故

●2007年1月7日:根室本線・新狩勝信号場(北海道新得町)

17両編成中8両目(後台車全2軸)と9両目(前台車全2軸)が脱線。氷のように固まった圧雪がレールに付着し、車輪のフランジが乗り上げたとみられる。

●2009年9月9日:東海道本線・吹田信号場(大阪府吹田市)

機関車1両+コンテナ貨車24両編成中の9両目(前台車全2軸)が脱線。ポイントの分岐線側へ進行中、非常ブレーキが作動。まだ作動していない後部貨車側からの力を受け、空車だった貨車の前台車が持ち上げられたとみられる。

●2009年12月19日:日豊本線・宗太郎~市棚(宮崎県延岡市)

11両編成中の10両目(後台車の全2軸)が脱線。軌道の保守が不十分だった可能性がある。

日豊本線の脱線事故。【画像:運輸安全委員会】

●2011年3月10日:成田線・久住~滑河(千葉県成田市)

滑河駅構内への進入時に10両編成中の8両目と9両目が分離して9両目が脱線横転。10両目も脱線。貨車の軸ばねが経年劣化で硬くなっていたことや軌道のゆがみがやや大きかったことで脱線したとみられる。

成田線の脱線事故では貨車が横転した。【画像:運輸安全委員会】

●2011年3月11日:常磐線・浜吉田~山下(宮城県山元町)

東日本大震災の津波で貨車が押し流されて脱線した。

津波で押し流されたコンテナ貨車。機関車(右)は線路上に残った。【画像:運輸安全委員会】

●2011年3月11日:東北本線・長町駅(仙台市)

東日本大震災の地震動で脱線。

●2011年12月27日:東海道本線・岐阜貨物ターミナル駅(岐阜市)

27両編成中の12両目と13両目が分離し、12両目(後台車全2軸)と13両目(前台車全2軸)が脱線。駅に到着後の荷役作業の際、貨車とコンテナを固定する装置が分離されていない状態で貨車ごとフォークリフトで持ち上げて脱線し、それに気づかないまま発車したためとみられる。

●2012年2月16日:石勝線・東追分駅(北海道安平町)

ブレーキ操作を行ったが所定の場所に停止できずに駅の安全側線に侵入し、車止めを突破して16両編成中の5両目が脱線。ブレーキ装置に雪がこびりついてブレーキの効きが悪くなっていたためとみられる。

●2012年4月26日:江差線・泉沢~釜谷(北海道木古内町)

20両編成中の18両目が一時脱線したが、その後復帰。五稜郭駅の到着時に18両目から煙が出ていたことや、枕木に脱線の痕跡が見つかったことから脱線が判明した。コンテナ内の積荷がアンバランスな状態になっていたことから、レールに乗り上がり脱線したとみられる。

●2012年9月11日:江差線・釜谷~泉沢(北海道木古内町)

21両編成中の9両目と10両目のブレーキ管ホースの連結器が外れ、9両目(後台車全2軸)が脱線。レールのゆがみが比較的大きかったのに加え車両の特性や積荷が比較的軽かったなど複合的な要因で大きな横揺れが生じ、レールに乗り上がり脱線したとみられる。

●2013年8月17日:函館本線・八雲~山越(北海道八雲町)

21両編成中、1両目機関車(中間台車全2軸)と3・4両目(前台車第2軸)が脱線。5両目(前台車第2軸)が浮き上がった。河川の氾濫で道床が流出し、軌道が変形したところを貨物列車が通り抜けて脱線したとみられる。

●2013年9月19日:函館本線・大沼駅(北海道七飯町)

18両編成中の6両目(後台車全2軸)と7両目(前台車全2軸)、8両目(全4軸)、9両目(前台車全2軸)が脱線。軌間も含めレールに整備基準値を大幅に超える大きなゆがみがあったことから脱線したとみられる。

この事故の発生後、JR北海道がレールのゆがみを把握していながら放置していたことや、検査データを改竄していたことが発覚した。

大沼駅での脱線事故。JR北海道の経営体質を露呈させた。【画像:運輸安全委員会】

●2014年6月22日:江差線・泉沢~札苅(北海道木古内町)

21両編成中の20両目(後台車全2軸)が脱線し、20両目と21両目が分離した。軌道に大きなゆがみがあったことで横揺れが大きくなり、レールに乗り上がり脱線したとみられる。JR北海道は軌道のゆがみと早期補修の必要性を認識できていなかった。

●2017年2月23日:室蘭本線・北入江信号場(北海道洞爺湖町)

19両編成中の1両目機関車(全6軸のうち第5・6軸)が脱線。走行中に台車の部品が脱落したのが原因とみられる。

●2018年2月24日:石勝線・トマム駅(北海道占冠村)

17両編成中の3両目(前台車第1軸)がトマム駅で一時的に脱線したとみられ、列車の通過から約2時間後に脱線の痕跡が見つかった。線路上に堆積していた氷雪で車輪が押し上げられた状態になり脱線したとみられる。

●2021年7月24日:常磐線・隅田川駅(東京都荒川区)

機関車が貨車を押して走る推進運転中の事故で、20両編成中の3両目(前台車全2軸)が脱線。推進運転時のルールの理解に誤りがあり、本来の操作を行っていなかったことから車両が本来とは異なる動きをして脱線したとみられる。

●2021年12月28日:山陽本線・瀬野~八本松(広島市)

25両編成中の12両目(前台車の全2軸)が脱線。コンテナ内の積荷の偏りが原因とみられる。

●2024年7月24日:山陽本線・新山口駅(山口市)

24両編成中の1両目機関車(1軸)が脱線。 ※調査中

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