ユネスコ機関「初代門司駅遺構の破壊を中止しろ」緊急声明 跡地に公共施設の計画



国際記念物遺跡会議(ICOMOS=イコモス)のテレサ・パトリシオ会長は6月25日、JR門司港駅(北九州市門司区)の周辺で出土した「初代門司駅」の遺構について、日本の文部科学大臣や北九州市などに対して遺構の取り壊しの中止や開発の再検討を求める緊急声明を発表した。

門司港駅の現在の駅舎。この写真の左側に初代門司駅の遺構が出土した門司港地域複合公共施設の予定地がある。【画像:22kengin22/写真AC】

北九州市は門司区内に点在する区役所庁舎や図書館などの施設が老朽化していることから、門司港駅や九州鉄道記念館などがある場所に「門司港地域複合公共施設」を整備して集約することを計画している。しかし複合公共施設の予定地でレンガの基礎など初代門司駅の遺構が見つかったことから、保存を求める声が高まっている。

門司港地域複合公共施設の予定地(赤枠)と複合公共施設への集約対象の施設の位置。【画像:北九州市】

緊急声明は門司が19世紀後半、近代的港湾や鉄道ターミナルの整備によりアジアの中核都市の一つになったとし、初代門司駅の遺構は「多くの学者がこの都市の起源の証人として評価している」とした。

そのうえで「たとえ発掘と記録のあとであっても重要な遺跡を破壊することは日本の文化遺産保護政策に反する」「このような行為は残念な前例になり、国内外の文化遺産保護の取り組みを危険にさらす」などと主張。「初代門司駅の遺構の破壊の決定をただちに中止し、開発計画を再検討し、包括的な保存を優先するよう緊急に要請する」としている。

イコモスはフランスのパリに本部を置く、国際連合教育科学文化機関(UNESCO=ユネスコ)の諮問機関。ユネスコのヴェニス憲章に基づき歴史的建造物など世界各地の文化遺産の保存に関する情報収集や、世界文化遺産の登録に関する調査を行っている。

開発などで文化遺産が危機的状況に陥っている場合、法的拘束力はないが開発の中止などを勧告する「ヘリテージ・アラート」を発出することがある。2022年2月には日本初の鉄道の施設である高輪築堤(東京都)の遺構について、再開発で危機的状況にあるとして全面的な保存を求めるヘリテージ・アラートを発出した。

現在の門司港駅は1891年、九州鉄道の門司駅として開業。関門海峡の連絡船と九州の鉄道の接続地点として発展し、1907年の九州鉄道の国有化で鹿児島本線の起点駅になった。1942年、本州と九州を関門トンネルで結ぶ山陽本線の延伸開業に先立ち、門司駅が門司港駅に改称され、関門トンネルに接続する大里駅が門司駅に改称された。

複合公共施設の建設をめぐっては2023年3月、試掘調査で初代門司駅の関連施設の一部を発見。これを受けて同年9月に発掘調査を実施し、駅舎の石垣や機関車庫の基礎部分になるレンガなどが確認された。

初代門司駅に関連する遺構の出土状況。【画像:北九州市】
発掘調査で確認された機関車庫の基礎。【画像:北九州市】

北九州市は今年2024年1月に遺構の一部を移築して保存する方針を発表。2月に市議会に提出した2023年度補正予算案に移築費用を盛り込んだ。しかし現地保存を求める一部の市議が修正動議を提出し、移築費用を削除する修正案が賛成多数で可決された。

このため北九州市は方針を転換し、追加の発掘調査と記録保存を実施したうえで複合公共施設を建設することに。2024年度補正予算案に追加の発掘調査費(2850万円)と複合公共施設の整備事業費(8億444万円)を計上するとともに、複合公共施設の2027年度までの整備費(123億3400万円)を債務負担行為として設定し、市議会は6月14日に賛成多数で可決した。

北九州市は7月から記録保存のための追加発掘調査に着手し、終了後ただちに複合公共施設の工事に着手する考え。しかし遺構の保存を求める声も依然として根強く、同市の計画通りに進むかどうかは不透明な情勢だ。

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