山万ユーカリが丘線「顔パス」で乗ってみた 顔認証乗車システム、日本初の本格導入



ユーカリが丘ニュータウン(千葉県佐倉市)を循環する鉄道路線「ユーカリが丘線」を運営する山万は6月15日、顔認証乗車システム「ユーカリPASS」を導入した。あらかじめ顔を登録しておくと、切符やカードをタッチすることなく自動改札機をそのまま通過できるチケットレスサービスで、つまりは「顔パス」だ。これと同時にQRコード乗車券も導入した。

ユーカリが丘ニュータウンを走るユーカリが丘線の列車。【撮影:鉄道プレスネット】

顔認証乗車システムはJR西日本や大阪メトロが実証実験を行っているが、本格的な導入はユーカリが丘線が日本初。導入から1週間が過ぎた6月22日、「顔パス」でユーカリが丘線に乗ってみた。

専用サイトで事前登録

顔認証のユーカリPASSは現在、通勤定期券(割引券を除く)と乗車券に対応。ただし乗車券で顔認証を利用する場合はクレジットカードの登録も必要になる。ちなみにユーカリが丘のコミュニティバス「こあらバス」も、6月15日から顔認証乗車システムを本格導入している。

事前登録の手続きはユーカリPASS専用サイトのほか、定期券は窓口でも受け付けている。今回は専用サイトで顔とクレジットカードを登録し、乗車券でユーカリが線を乗り降りしてみることにした。

まずスマートフォンのウェブブラウザでユーカリが丘ニュータウンの公式ウェブサイトにアクセスし、ユーカリが丘線のページに移動。画面をスクロールしてページの下のほうにある「顔認証乗車システム『ユーカリPASS』新規登録・ログインはこちら」と記されたボタンを押す。

ユーカリが丘線のページの下のほうにユーカリPASSの登録・ログインボタンがある。

ログイン画面でメールアドレスを入力。パスワードはいったん空欄にしておき、一番下の「新規アカウント登録」ボタンを押す。利用規約を確認後、氏名や電話番号、パスワード、生年月日などを入力してアカウントを登録する。

新規登録時はメールアドレスのみ入力して新規アカウント登録ボタンを押す(黒塗りは鉄道プレスネットが加工)。
アカウントの登録が完了した時点の専用サイトの画面。この時点では利用できない。

続いて画面下のメニューから「登録情報」→「顔認証情報 登録・変更」を選択し、スマホのカメラで顔を撮影して登録。さらにメニューから「登録情報」→「決済情報 登録・変更」を選択してクレジットカードの情報を登録する。これで事前の手続きが完了した。

顔の登録画面。

専用サイトの下にあるメニューから「チケット」を選択すると、「山万ユーカリが丘線 普通乗車券」の項目があり、そこに「自動的に顔認証でチケットを購入する」のオン・オフボタンが表示される。このボタンをオンにすれば「顔パス」で改札を通過できる状態になる。

顔とクレジットカードの登録が完了した時点の専用サイトの画面。
「自動的に顔認証でチケットを購入する」をオンにした状態。(黒塗りは鉄道プレスネットが加工)

ちなみにユーカリが丘線の運賃は全線均一制で、乗車券は200円。顔認証・クレジットカード決済で利用した場合、利用月の翌月5日にまとめて請求される。定期券の場合は購入日の請求になる。

最先端のシステムは質素

京成線の列車に乗って13時40分ごろ、ユーカリが丘駅に到着。ユーカリが丘線の改札に向かう。改札口には古びた自動改札機が4通路並ぶ。よく見ると右側の2通路はタブレット端末がくくり付けられている。その下にはQRコードリーダーの姿もあり、磁気式の紙の切符の投入口はふさがれていた。左側の2通路は従来通り磁気式専用だ。ユーカリが丘線は全面的に顔認証・QR乗車券に移行したわけではなく、通学定期券や回数券、1日乗車券などは当面のあいだ磁気式切符になる。

ユーカリが丘線・ユーカリが丘駅の改札口。【撮影:鉄道プレスネット】

本格導入は日本初という最先端のシステムのはずだが、タブレットとQRコードリーダーは一般に市販されているものと同じに見える。タブレットはカメラ付きのようで、これで顔認証を行っているようだ。JR西日本の大阪駅(うめきた)には実証実験用の顔認証改札機が設置されているが、あちらは大柄な門型で、それに比べるとずいぶん質素だ。実用性だけで見れば、これで十分なのだろう。

従来の自動改札機に取り付けられた顔認証用のタブレットとQRコードリーダー。【撮影:鉄道プレスネット】

改札の脇には有人の案内窓口のほか自動券売機3台が並んでいる。ただし右側の券売機は食事券などを発行するタイプの簡易な券売機が置かれて遮られており、中央の券売機は回数券専用に。左側の券売機は使用中止になっていた。

ユーカリが丘駅の券売機。左から磁気式(発売中止)・磁気式(回数券専用)・QR式が並ぶ。【撮影:鉄道プレスネット】

タブレットとQRコードリーダーの写真を撮ろうと自動改札機に近づくと、タブレットから「ピロン」という電子音が聞こえ、画面には「↑通行可 普通乗車券」と表示された。ちょっとでもタブレットカメラの視界に入ると、すぐに顔を捉えて判定に入るようだ。見送りや出迎えなどで自動改札機に近づくときは注意が必要だ。

ちなみに、専用サイトにアクセスして「自動的に顔認証でチケットを購入する」ボタンをオフにしたところ、顔をタブレットのカメラに近づけても「チケットが見つかりません」という警告が表示されるだけになり、反応しなくなった。

専用サイトで自動認証をオフにするとタブレットのカメラに顔が捉えられても反応しなくなった【撮影:鉄道プレスネット】

QR乗車券に不慣れな人も

とりあえず列車に乗って女子大駅に移動。こちらは自動改札機が2通路あり、左側が顔認証・QR乗車券、右側が磁気式乗車券に分けられていた。顔認証・QR乗車券のほうは切符の投入口がふさがれており、投入口の下にQR乗車券の回収箱が設置されている。

女子大駅の改札口。左側の通路は切符の投入口がふさがれてQR乗車券の回収箱が設置されている。【撮影:鉄道プレスネット】

顔認証用のタブレットは入場側にしか設置されていない。そのまま通っていいんだろうかと少し不安を覚えたが、改札機の扉が閉まって警告音が鳴るようなことはなく、そのまま外に出られた。専用サイトの「利用履歴」を見ると、ユーカリが丘駅から乗車券で乗車したことがしっかり記録されていた。

専用サイト「利用履歴」の画面。

その後もいくつかの駅を「顔パス」で乗り降りしてみたが、認証時間はとくに長いということもなく、問題なく通過できた。きちんと時間を計測したわけではないが、クレジットカードなどのタッチ決済と同程度だと思う。あまりにあっさり通れるので少し物足りなさを覚えたほどだ。

顔認証による改札の通過(井野駅)。動画では顔認証の反応が遅いように見えるが、このときは動画を撮影しながら改札を通過しようとしたことで顔の動きが不自然になったためと思われる。【撮影:鉄道プレスネット】

マニア的なたわ言になってしまうが、利用者の顔を個々に判定しているのなら、それぞれの利用者にあわせた案内を流すことも可能なはず。利用者が任意に選んだ音声を専用サイトで登録できるようにし、顔認証改札機の通過時にその音声が流れるようにしたら面白いかもしれない。「社長、お疲れさまです」といった音声が流れたら正真正銘の「顔パス」っぽくなり、その瞬間だけは偉くなった気分になれそうだ。周囲にいる人がどう思うかは知らないが。

最後に地区センター駅からユーカリが丘駅までQR乗車券で利用してみた。地区センター駅の磁気式券売機は閉鎖されており、その脇にQR乗車券の券売機が設置されている。現金を投入してボタンを押すと、食事券のような白くて薄い紙切れが出てきた。券面には「地区センター→200円区間」の表示に加えてQRコードも印刷されている。これをQRコードリーダーにかざすと、顔認証と同じ「ピロン」という音がした。

地区センター駅で購入したQR乗車券。黒塗りした部分にQRコードが印刷されている。【撮影・加工:鉄道プレスネット】

私に続いてQR乗車券を購入した、ユーカリが丘の住人と思われる高齢の女性が自動改札機の前でどうすればいいか分からず立ち往生していたので、改札内への入り方を教えてあげた。導入直後で不慣れなせいもあるだろうが、QRコードリーダーはタブレットの下に隠れるように設置されていて見えにくい。改善が必要と思う。

将来はニュータウン内の店舗にも導入

ユーカリが丘線は京成本線のユーカリが丘駅からユーカリが丘ニュータウンを一周してユーカリが丘駅に戻る全長4.1km(1周5.1km)の路線。ゴムタイヤで走行する新交通システム(AGT)を採用している。ニュータウンを開発した不動産会社の山万が同線も運営しており、1982年から1983年にかけ開業した。

40年以上前の開業時に導入された電車。「こあら号」という愛称が付けられている。【撮影:鉄道プレスネット】

車両は40年以上前の開業時に導入された、「こあら号」という愛称が付けられた電車が現在も運用されている。出改札のシステムも、磁気式の切符を自動改札機に投入する方式が開業時からずっと続いていた。交通系ICカードは導入されていない。

山万の本業である不動産業は黒字だが、ユーカリが丘線だけに限れば赤字経営。このため、交通系ICカードのような高コストの出改札システムに更新するのは難しい面があり、低コストで導入できる顔認証乗車システムやQR乗車券の導入が計画されたといえる。

今後は回数券など磁気式で残る切符も順次、顔認証・QR乗車券に集約される予定。山万などによると、将来的にはユーカリが丘の各店舗でも顔認証システムを用いた決済システムを導入することを検討していくという。

ユーカリが丘のなかを走るユーカリが丘線の列車。【撮影:鉄道プレスネット】

実際に「顔パス」で利用してみると、切符やカードを財布などから出す手間が省けるし、ほぼ毎日乗る定期券の利用者ならその利点が生きてくると思った。ただ正直なところ、たまに乗る程度なら個人情報をわざわざ手間暇かけて登録してまで利用するほどのことなのかとも思う。

実際は定期券利用者が顔認証、それ以外の利用者はQR乗車券というように役割が分担されていくのではないかと思うが、「顔パス」で利用できる範囲がニュータウン内の店舗にも拡大すれば状況は変わるかもしれない。欲を言えば交通系ICカードは難しいとしても、クレジットカードなどのタッチ決済に対応してくれればと思う。

「顔パス改札」全国に普及するか

鉄道における顔認証の乗車システムは2017年、中国で導入されたのが世界初とみられる。日本では大阪メトロが日本初の実証実験を2019年に開始。JR西日本も大阪駅(うめきた)に顔認証改札機を設置し、昨年2023年3月から実証実験を行っている。

大阪駅(うめきた)に設置された顔認証対応の自動改札機。【撮影:草町義和】

一方、山万は大阪メトロより遅く、2021年からユーカリが丘線とこあらバスで実証実験を始めたが、本格導入は大阪メトロやJR西日本に先行した。シンプルな運賃体系で利用者はそれほど多くなく、取り扱う情報量が少ないといったことも、早く本格導入できた背景にあるだろう。

逆にいえば、JR線や大手私鉄、地下鉄ともなれば、運賃体系が複雑なうえに利用者が多く、取り扱う情報量は格段に増える。場合によっては認証時間を実用的な範囲に収められるかどうかにも影響するかもしれない。「顔パス改札」が今後全国に普及するかどうかは、もう少し様子を見る必要がありそうだ。

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