福岡市「新線11ルート」事業費など試算 福岡空港国際線やアイランドシティなど



福岡市は6月18日、市内の鉄道プロジェクトについて概略試算の結果を市議会に報告した。都市交通基本計画の改定に向けた検討の一環。都心部や市内の拠点を結ぶ新線11ルートの概算事業費などを試算し、過去に検討を実施した直通運転化や連続立体交差事業についても再試算を実施した。

福岡市営地下鉄の七隈線。【撮影:草町義和】

試算・再試算の対象は次の通り。

●都心部
・天神~博多ふ頭中央ふ頭
・博多駅~博多ふ頭中央ふ頭
・博多駅~薬院

●広域交通拠点
・福岡空港国内線~福岡空港国際線
・博多駅~福岡空港国際線

●魅力・活力創造拠点
・博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~西部広域拠点(西新・藤崎・シーサイドももち)
・西鉄貝塚線~アイランドシティ
・博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~アイランドシティ
・九大学研都市駅~九州大学伊都キャンパス

●広域拠点・地域拠点
・姪浜~橋本
・南部地域拠点(大橋)~七隈線

●直通運転化(再試算)
・福岡市営地下鉄箱崎線~西鉄貝塚線の直通化

●連続立体交差事業(再試算)
・西鉄井尻駅周辺
・JR香椎駅周辺
・JR笹原駅周辺

試算項目は想定利用者・概算事業費・単年度収支・概算事業費の償還年数・費用対効果(B/C)。導入空間は地下・地上・上空を想定し、一部のルートは地下・上空または上空・地下の2案を試算した。想定機種は地下=地下鉄、上空=モノレールなど、地上=軽量軌道交通(LRT)。ただし西鉄貝塚線~アイランドシティは鉄道高架として試算した。

公的資金の拠出は考慮しておらず収入だけで事業費を償還する形で試算した。このため償還年数が非常に長く、B/Cも非常に小さくなっている。

概略試算が行われた新線の11ルート。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

11ルートのなかで最も1日の利用者数が最も多いとされたのは、博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~西部広域拠点(西新・藤崎・シーサイドももち)の9.5kmで5万1000人。ただし1日1kmあたりでは天神~博多ふ頭中央ふ頭の2.3kmが最多(9000人)になった。

概算事業費は博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~アイランドシティの11.0kmを地下で整備した場合が4430億円で最大。最小は筑肥線の九大学研都市駅と九州大学伊都キャンパスを地上で結ぶ場合の240億円だった。

単年度収支は博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~西部広域拠点(上空)で年間12~16億円の黒字。ほかに天神~博多ふ頭中央ふ頭と博多駅~博多ふ頭中央ふ頭、福岡空港国内線~福岡空港国際線、博多駅~福岡空港国際線、九大学研都市駅~九州大学伊都キャンパス(地上)も黒字と試算された。

一方、赤字になったのは博多駅~薬院と博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~西部広域拠点(地下)、博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~アイランドシティ、九大学研都市駅~九州大学伊都キャンパス(上空)、姪浜~橋本、南部地域拠点(大橋)~七隈線。赤字額の最大は博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~アイランドシティ(地下)の32億円とされた。

費用対効果(B/C)が最も大きいのは、九大学研都市駅~九州大学伊都キャンパス(地上)と姪浜~橋本で0.6とされた。

現在の福岡市都市交通基本計画は2014年5月に策定された。福岡市は「現計画の策定から約10年が経過し、取り巻く社会情勢等に変化が生じている」とし、学識経験者や交通事業者などで構成される福岡市都市交通協議会を2023年11月に設置して改定に向けた手続きを進めている。

福岡市によると、基本計画の改定にあたって市民からの意見を募集したところ、拠点などへのアクセス強化に関する意見が寄せられた。このため現在の計画や市民・議会・有識者からの意見などを踏まえ、拠点などへのアクセス強化について現時点での採算性や費用対効果などの概略試算を行ったという。福岡市は今後「これまで寄せられた意見のほか、今回の概略試算結果や民間主体の取組みなども踏まえながら検討していく」としている。

福岡空港は国内線ターミナルと国際線ターミナル(右上奥)を結ぶルートや博多駅と国際線ターミナルを結ぶルートが試算された。【撮影:草町義和】

<各プロジェクトの概略試算結果>

■天神~博多ふ頭中央ふ頭

距離:2.3km
想定利用者数:2万1000人/日(9000人/日km)
導入空間:地下
概算事業費:880億円
単年度収支:4億円/年
概算事業費の償還年数:220年
費用対効果(B/C):0.2

■博多駅~博多ふ頭中央ふ頭

距離:2.0km
想定利用者数:1万6000人/日(8000人/日km)
導入空間:地下・上空

※地下
概算事業費:1040億円
単年度収支:1億円/年
概算事業費の償還年数:1040年
費用対効果(B/C):0.1

※上空
概算事業費:250~330億円
単年度収支:5~6億円/年
概算事業費の償還年数:42~66年
費用対効果(B/C):0.4~0.6

■博多駅~薬院

距離:2.5km
想定利用者数:4000人/日(2000人/日km)
導入空間:地下
概算事業費:1060億円
単年度収支:▲11億円/年
概算事業費の償還年数:(償還不可)
費用対効果(B/C):0.1

■福岡空港国内線~福岡空港国際線

距離:2.5km
想定利用者数:1万6000人/日(6000人/日km)
導入空間:地下
概算事業費:1050億円
単年度収支:1億円/年
概算事業費の償還年数:1050年
費用対効果(B/C):0.2

■博多駅~福岡空港国際線

距離:3.5km
想定利用者数:2万9000人/日(8000人/日km)
導入空間:地下
概算事業費:1490億円
単年度収支:5億円/年
概算事業費の償還年数:298年
費用対効果(B/C):0.3

■博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~西部広域拠点(西新・藤崎・シーサイドももち)

距離:9.5km
想定利用者数:5万1000人/日(5000人/日km)
導入空間:地下・上空

※地下
概算事業費:3990億円
単年度収支:▲11億円/年
概算事業費の償還年数:(償還不可)
費用対効果(B/C):0.1

※上空
概算事業費:1170~1560億円
単年度収支:12~16億円/年
概算事業費の償還年数:74~130年
費用対効果(B/C):0.3~0.5

■西鉄貝塚線~アイランドシティ

距離:2.0km
想定利用者数:1万2000人/日(6000人/日km)
導入空間:地上
概算事業費:370億円
単年度収支:▲2億円/年
概算事業費の償還年数:(償還不可)
費用対効果(B/C):0.5

■博多駅~博多ふ頭中央ふ頭~アイランドシティ

距離:11.0km
想定利用者数:3万3000人/日(3000人/日km)
導入空間:地下・上空

※地下
概算事業費:4430億円
単年度収支:▲32億円/年
概算事業費の償還年数:(償還不可)
費用対効果(B/C):0.1

※上空
概算事業費:1350~1810億円
単年度収支:▲5億~1億円/年
概算事業費の償還年数:(償還不可)
費用対効果(B/C):0.3~0.5

■九大学研都市駅~九州大学伊都キャンパス

距離:4.5km
想定利用者数:8000人/日(2000人/日km)
導入空間:上空・地上

※上空
概算事業費:550~740億円
単年度収支:▲5億~3億円/年
概算事業費の償還年数:(償還不可)
費用対効果(B/C):0.1以下

※地上
概算事業費:240億円
単年度収支:3億円/年
概算事業費の償還年数:80年
費用対効果(B/C):0.6

■姪浜~橋本

距離:4.5km
想定利用者数:2万7000人/日(6000人/日km)
導入空間:地下
概算事業費:1790億円
単年度収支:▲1億円/年
概算事業費の償還年数:(償還不可)
費用対効果(B/C):0.6

■南部地域拠点(大橋)~七隈線

距離:6.0km
想定利用者数:2万3000人/日(4000人/日km)
導入空間:地下
概算事業費:1920億円
単年度収支:▲8億円/年
概算事業費の償還年数:(償還不可)
費用対効果(B/C):0.2

■福岡市営地下鉄箱崎線~西鉄貝塚線の直通化(再試算)

※3両編成案
概算事業費:350億円
単年度収支:3000万円/年
概算事業費の償還年数:1167年
費用対効果(B/C):0.5

※増結分離案
概算事業費:180億円
単年度収支:6000万円/年
概算事業費の償還年数:300年
費用対効果(B/C):0.4

■西鉄井尻駅周辺の連続立体交差事業(再試算)

概算事業費:380億円
費用対効果(B/C):0.5

■JR香椎駅周辺の連続立体交差事業(再試算)

概算事業費:380億円
費用対効果(B/C):0.5

■JR笹原駅周辺の連続立体交差事業(再試算)

概算事業費:310億円
費用対効果(B/C):0.6

《関連記事》
福岡地下鉄七隈線「次の延伸」は福岡空港の国際線か 市長「総合的に検討」
福岡地下鉄空港線~福北ゆたか線「接続線」全ケース赤字 4ルート基礎調査まとまる