明知鉄道のSL復活「蒸気機関車+気動車」想定 運行形態や費用試算など明らかに



岐阜県恵那市は3月18日、明知鉄道でのSL列車の復活運行について、想定する運行形態や蒸気機関車の復元や運行にかかる費用の試算などを明らかにした。蒸気機関車が気動車を牽引して走る方式を採用する。

釜石線で運行されていた「SL銀河」。蒸気機関車が気動車を牽引して走っていた。【撮影:草町義和】

恵那市観光協会や明知鉄道などで構成される「SL復元検討委員会」で報告した。SL列車は蒸気機関車1両と気動車2両(定員192人)の3両編成を想定。営業列車1往復として恵那・岩村・明知の3駅に停車する。営業日数は休日を中心に年間150日程度。運賃収入は一人1000円、乗車率8割として年間約4600万円とした。

準備開始から営業運行開始までの期間は約4~5年を想定した。まず1年ほどかけて事前調査を実施。ボイラーの調査やカーブの最小半径の確認などを行う。これにより復元可能と判断した場合は約2~3年かけて蒸気機関車のボイラー修理や走行装置の修理、運転士の養成、SL列車の運行を想定した軌道の整備などを実施する。その後、約1年の試験運行を経て営業を開始する。

営業開始までの想定スケジュール。【画像:恵那市】

導入費用は10億7500万円。車両関係で約6億9100万円かかるほか、人材育成で約1億6600万円、試験運行で約1000万円、保線関係で約6700万円、付帯設備で約1億4000万円かかるとした。2014年時点の試算(5億6800万円)の約1.9倍になった。

年間の運行費用も2014年の試算(9000万円)の約1.6倍になる1億4600円に。維持管理に約2200万円、人件費に約2400万円かかるほか、全般検査などで6年あたり約6億円の費用が発生するとした。単純に運賃収入から運行経費を差し引くと年間約1億円の赤字になる。

経済波及効果については4ケースで年間の生産誘発額を試算。地域の積極的な参画がないケースで1億100万円(乗客一人あたり約1500円の消費)、岐阜県の平均的な消費単価まで押し上げケース(乗客一人あたり約5000円の消費)では1億9500万円とした。

一方、宿泊客や外国人、乗客以外の観客の誘客に取り組んだケース(乗客など一人あたり約1万5000円の消費)では、6億3900万円に。これに加えて高付加価値の商品・サービスを提供したケース(乗客など一人あたり約2万1000円の消費)は11億5600万円とした。

恵那市は同市がSL列車の運行主体になり、明知鉄道に運行を委託する体制を想定。運行には1億円の支出が必要としつつ、地域の創意工夫と行動次第では、それを上回る経済波及効果を得られる可能性があると結論付けた。

検討委は今年2024年11月に運行の可否を判断する考え。運行可能と判断された場合、営業運行の開始は早くても2029年ごろになりそうだ。

明知鉄道は中央本線の恵那駅で分岐して明智駅までを結ぶ25.1kmの明知線を運営する第三セクター。1985年、国鉄から同線の経営を引き継いだ。C12形蒸気機関車が国鉄時代の1973年まで運行されていた。

明知鉄道の明智駅構内で保存されているC12形の244号機。【画像:読者提供】

リニア中央新幹線の具体化に伴い、静態保存されているC12形を動態復元して走らせる構想が2012年に浮上した。その後構想は立ち消えになっていたが、昨年2023年11月に検討委が設立。具体化に向けた検討が再開されていた。

SL列車は通常、動力を搭載しておらず自走できない客車を蒸気機関車が牽引する。2014年から2023年までJR釜石線(岩手県)で運行されたSL列車「SL銀河」は、蒸気機関車が自走可能な気動車を牽引。釜石線には急勾配があることから、トラブル発生時の動力を確保するため客車の代わりに気動車を牽引していた。明知線にも最大33パーミルの急勾配がある。

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