新検測車に改造「キハ220-1102」どんな車両? 改造繰り返した「少し豪華車」



JR九州は新しい多機能検測車「BIG EYE(ビッグアイ)」を導入する。11月から来年2024年3月まで走行試験を行い、システムの検証や性能評価を実施。この結果を踏まえて実際に導入するかどうか検討する計画だ。

キハ220-1102を改造した多機能検測車「BIG EYE」。【画像:ninochan555/写真AC】

「BIG EYE」は新しい検測車だが新造・新型の車両ではなく、26年前に製造された「キハ220-1102」という気動車を改造した。なぜ、この車両が「BIG EYE」に改造されたのだろうか。

キハ220-1102はキハ200系と呼ばれる気動車群の1両。筑豊本線・篠栗線の快速列車用として1991~2004年に製造されたキハ200形と、熊本エリアなどの普通列車用として1997~2009年に製造されたキハ220形がある。キハ200形は2両編成で、キハ220形は1両単位で運用できるよう車体両端に運転台を設置。キハ220形のキハ220-1102は1997年に製造され、当初は熊本エリアの普通列車で運用されていた。

製造から7年が経過した2004年、九州新幹線・新八代~鹿児島中央の開業にあわせ、鹿児島中央駅で連絡する指宿枕崎線で特別快速「なのはなDX」の運行が開始。観光客の利用に対応するため指定席車を連結することになり、キハ220-1102を指定席車に改造して導入することになった。

座席が木製の回転式リクライニングシートに交換されたほか、片側3カ所ある客用ドアのうち中央1カ所を閉鎖。この閉鎖した部分を展望スペースとし、天地に広がる大型の窓を設けて眺望性を高めた。車体も赤から黄色をベースにしたデザインに変わった。

運行開始翌日(2004年3月14日)の「なのはなDX」。写真先頭が指定席車のキハ220-1102。【撮影:草町義和】
キハ220-1102の座席は「なのはなDX」指定席車として木製の回転式リクライニングシートに交換された。【撮影:草町義和】

「少し豪華」になったキハ220-1102だったが、「なのはなDX」としての活躍はわずか7年で終了する。九州新幹線・博多~鹿児島中央の全線が開業した2011年、指宿枕崎線に特急「指宿のたまて箱」がデビューし、これに伴い「なのはなDX」が廃止。キハ220-1102は再び熊本エリアに戻って普通列車で使われるようになった。

その際、車体の塗装も赤に戻り、座席はリクライニング機構を固定してリクライニングできないようになった。とはいえ座席自体は「なのはなDX」のころのまま。大型窓の展望スペースもそのままで、「少し豪華」な雰囲気は維持された。「なのはなDX」とは異なり指定席券がなくても乗れるようになり、「ちょっとお得」な感のある車両になったともいえる。このほか、一部の座席を撤去してトイレや車椅子スペースが設けられた。

熊本エリアに戻ったあとのキハ220-1102。車体中央の展望スペースはそのままだ。【画像:Hyolee2/wikimedia.org/CC BY-SA 4.0】

2020年7月、いわゆる「令和2年7月豪雨」が発生する。熊本エリアの肥薩線は路盤の崩壊や橋梁の流失など被害が甚大で、このとき肥薩線の人吉駅構内にいたキハ220-1102も水没。使用不能の状態になってしまう。

あれから3年が過ぎたいまも、肥薩線は八代~吉松が運休中。路線の存廃も含め再開のめどは立っていない。一方、キハ220-1102は人吉駅にしばらく留置されていたが、2021年3月にはJR九州の車両工場である小倉総合車両センターに運び込まれた。ここで浮上したのが検測車への改造だった。

鉄道には旅客や貨物を運ぶ営業用の車両だけでなく、新しい技術の評価を行うための試験車や乗務員訓練用の車両など、さまざまな事業用車が存在する。検測車も事業用車の一種で、線路を走りながらレールや架線などの施設に異常がないかチェックする。

JR九州は1987年の発足時、高速軌道検測車のマヤ34形事業用客車(マヤ34 2009)を国鉄から継承し、線路の状態のチェックに使っていた。自走できない客車のため、使用時には機関車が牽引して走る。しかしマヤ34 2009は1978年の製造から40年以上が過ぎ、老朽化が進んでいた。JR九州によると、マヤ34 2009の置き換えの話が以前からあったという。

老朽化のため置き換えの話が浮上していたマヤ34 2009(中央)。【画像:ninochan555/写真AC】

この話が出ているなかでキハ220-1102が使用不能になったことから、検測車として活用する案が浮上した。JR九州は鉄道プレスネットの取材に対し、「技術面、費用面等最も効果的な考えを模索した結果、(キハ220-1102を)リニューアルする計画に至りました」と話した。

こうしてキハ220-1102の改造がスタートした。気動車としての走行システムは従来通り液体式だが、蓄電地やブレーキ制御装置など冠水して使えなくなった複数の機器を交換。軌道検測装置や部材検査支援カメラ装置、建築限界測定装置などを車内外に設置、搭載した。これまでは車両の記号番号を変えることなく改造を繰り返していたが、今回の検測車への改造では「BE220-1」に変わった。

完成したBE220-1「BIG EYE」。【画像:JR九州】
先頭部にカメラなどを設置。側面には軌道変位を表現した波形のラインが描かれている。【画像:JR九州】

ちなみにJR九州は2020年、普通列車用の811系電車2編成に検査用のカメラシステムを搭載した線路施設の検査車両「RED EYE(レッドアイ)」を導入している。「RED EYE」は従来通り旅客列車の営業運転でも使われているが、BE220-1「BIG EYE」は検測専用で一般客が乗ることはできない。

カメラなどが設置されていない側の先頭部。ヘッドライトの部分は「目玉」をモチーフにしたデザインが施されている。【画像:JR九州】

JR九州によると、「BIG EYE」の車両やロゴのデザインは建築業務を行っている社員のあいだでコンペを実施。側面には軌道の変位(ゆがみ)を表現した波形をあしらい、前面や背面は「お子さまをはじめとしたお客さまにも親しみをもって頂きたいという想い」から「目玉」や「牛」のモチーフにしたデザインを施したという。

業務用だから関係者以外の目に触れることも少ないはずだが、その割にはデザインに力を入れている。車両基地の公開イベントなどで見られる機会を増やそうとの意図があるのかもしれない。

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