「黒部宇奈月キャニオンルート」鉄道法規上の扱いは? 一般開放に向け準備進む



黒部ダム(富山県)の物資輸送ルート「黒部ルート」で一般開放に向けた準備が進められている。安全対策工事が進展しており、9月からは報道機関向けの先行ツアーが行われている。来年2024年6月30日から「黒部宇奈月キャニオンルート」として旅行商品による一般開放が始まる予定だ。

蓄電地機関車が客車や貨車を牽引して走る上部軌道。一般開放・旅行商品化に際しては安全対策を強化した新しい車両が導入される。【撮影:草町義和】

黒部ルートは黒部峡谷鉄道の終点・欅平駅から黒部川の峡谷地帯を南下し、黒部川第4発電所を経て黒部ダムに至る関西電力の物資輸送ルート。約18kmの全線がほぼトンネルで、欅平寄りから工事用トロッコ電車(下部軌道)と竪坑エレベーター、蓄電地機関車が客車や貨車を牽引する鉄道(上部軌道)、業務用ケーブルカー(インクライン)、道路(黒部トンネル)で構成される。

黒部峡谷鉄道の線路に接続している下部軌道は鉄道法規上、鉄道事業法に基づく専用鉄道の扱い。上部軌道は鉄道事業法上の施設には該当しない。竪坑エレベーターとインクラインは労働安全衛生法に基づき運用されている。

黒部ルート(黒部宇奈月キャニオンルート)の位置。【画像:カシミール3D地理院地図+スーパー地形、加工:未来鉄道データベース】
黒部宇奈月キャニオンルートの乗り物の構成。【画像:富山県】
業務用ケーブルカーのインクライン。【画像:富山県】

他人の需要に応じて旅客や貨物を運送する鉄道を経営する場合、通常は鉄道事業法に基づき鉄道事業の許可を受ける必要がある。一方で東京ディズニーランド(千葉県)のウエスタンリバー鉄道や紀三井寺(和歌山県)のケーブルカーなど、2地点間の輸送を行わない鉄道や輸送規模が小さい鉄道は鉄道事業法が適用されないケースもある。

黒部宇奈月キャニオンルートPR事務局によると、富山県と関西電力は一般開放・旅行商品化に向け国土交通省に確認し、ルート上の鉄道は鉄道事業法に基づく事業許可を必要としない乗り物の扱いで旅行商品による一般開放の準備を進めているという。

国土交通省によると、同省は黒部ルートの一般開放・旅行商品化について「他人の需要に応じた輸送であるか」「輸送する手段が鉄道といえるか」「運行形態に事業性(おもに反復継続性)があるか」を総合的に勘案。2017年、運賃を無料(ガイド料や保険料は別枠)とすることや、輸送能力と速度は現行のままとすること、従来の公募見学会で実施しているソフト面での安全対策(ヘルメット着用など)の順守を参加者が同意することなどの条件下で行われるのなら「鉄道事業法の許可は必要ない」と関係者に伝えたという。

関西電力は現在、一般開放・旅行商品化に向け安全対策工事を実施中。上部軌道のトンネルではモルタル吹付・注入やロックボルト補強に加え、避難通路の整備などが行われている。上部軌道に導入される新しい車両(機関車2両と客車10両)には、非常脱出口装置や自動列車停止装置、緊急列車停止装置を搭載して安全対策を強化する。

黒部ルートは業務用の物資輸送ルートのため、一般の旅行者は公募による見学会(年間約2000人)を除き通ることができない。富山県は観光振興の一環として黒部ルートの一般開放を関西電力に要望。同社は安全上の問題があるとして当初は難色を示していたが、2018年には安全対策工事の実施を条件にした一般開放・旅行商品化協定を富山県と締結した。安全対策工事の実施による一般開放・旅行商品化により、年間の受入人数は従来の公募見学会の5倍となる最大1万人に拡大する。

旅行商品は1日あたり宇奈月発2コースと黒部ダム発2コースの最大4コースが設定され、いずれも出発地点での前泊か到着地点での後泊を含む1泊2日の行程になる。

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