ローカル線の議論「3度目の法改正」でどう変わる? 「再構築」対象となる路線は



7月1日、「地域公共交通活性化再生法」の改正法が一部施行された。施行されたのは自動運転の実証実験など「DX」や電気自動車の導入などカーボンニュートラル実現に向けた「GX」に関する規定だが、10月1日には鉄道に関する規定も施行される予定。これにより、いわゆる「ローカル線」の見直しが加速することになりそうだ。

のどかな景色を走るローカル線の列車。【画像:ぴーうさ/写真AC】

「公有民営」などで活性化目指す

地域公共交通活性化再生法は2007年5月に成立し、同年10月1日に施行された法律だ。正式には「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」と呼ぶ。

日本の人口は2005年に戦後初めて減少し、人口減少時代に突入。また少子化により地方交通の重要顧客である通学客も大幅に減少している。この結果、地方の小規模交通事業者の経営環境は悪化し、存続の危機を迎えた。

一方で高齢化社会においては地域の足の重要性は増す。しかし2000年以降、鉄道やバスの需給調整規制が廃止されたことで、サービスの質と量は交通事業者の経営判断にゆだねることとなり、路線の廃止・縮小が進んだ。

そこで市町村を中心に幅広い関係者の参加する協議会を設置して「地域公共交通総合連携計画」を決定。この計画のもと鉄道の上下分離(公有民営方式)など「鉄道事業再構築事業」、鉄道・バスの乗り継ぎ改善など「乗継円滑化事業」、バス高速輸送システム(BRT)の整備など「道路運送高度化事業」を策定し、国から法律・予算の特例措置が受けられるようになった。

活性化に一定の成果

鉄道事業再構築事業の第1号は、自主再建を断念した福井鉄道と福井県、福井市を中心とした沿線自治体が2009年に着手したもので、国と自治体が福井鉄道を財政支援し、安全対策や利便性向上を推進した。再建は達成され、後のえちぜん鉄道との相互直通運転などに繋がっている。

鉄道事業再構築事業の第1号となった福井鉄道。【撮影:草町義和】

また同年、鳥取県の若桜町と八頭町は、旧国鉄特定地方交通線を引き継いだ若桜鉄道の鉄道用地・施設を譲り受けて保有し、若桜鉄道に無償で貸し付ける公有民営方式に移行。同制度では初めての認定となった。

若桜鉄道は沿線自治体が施設を保有する公有民営方式に移行した。【画像:赤い靴下/写真AC】

その後もさらなる人口減少の進展を受け、2014年には取り組みをより実行的なものとするための法改正が行われ、地域公共交通総合連携計画を、まちづくりと連携することで面的な公共交通ネットワークを再構築する「地域公共交通網形成計画」に発展させた。

さらに2020年には地域公共交通網形成計画を発展させたマスタープランとしての「地域公共交通計画」の作成を全自治体に努力義務を課す法改正がなされ、過疎地の市町村等がバス・タクシー事業者の支援のもと、自家用有償旅客運送や鉄道・バスの貨客混載、MaaS導入を円滑に行う仕組みが作られた。

旅客列車で宅配便荷物を運ぶ貨客混載(北越急行ほくほく線)。【撮影:草町義和】

こうして2014年から2021年5月末までに651件の地域公共交通網形成計画・地域公共交通計画が作成されるなど、一定の成果を収めた。

国も関与して「再構築」を協議

しかし、人口減少・少子高齢化は加速しており、運輸業の担い手不足も深刻化している。そこにコロナ禍が襲い、運賃収入のみによる独立採算を前提に交通サービスを存続させるのは困難な状況になった。2007年以来、16年で3度目の法改正は事業環境、交通サービスが悪化の一途を辿るなか、後手に対応を重ねてきた結果ともいえる。

今回の改正内容は、これまでよりも一歩踏み込んだ内容になったと言えるだろう。

交通の再編には自治体や公共交通事業者、地域などさまざまな主体の意思統一が必要だ。そこで法律の第1条(目的規定)に、「地域公共交通の活性化及び再生のための地域における主体的な取組及び創意工夫『並びに地域の関係者の連携と協働を推進』」すると追加し、地域の関わりを明確化した。また第4条(国等の努力義務)には「関係者相互間の連携と協働の促進」を追加し、協議に積極的に関わることが定められた。

そのうえで、ローカル鉄道の再構築に関する仕組みとして、地方公共団体または鉄道事業者からの要請に基づき国土交通大臣が「再構築協議会」を設置して議論し、「再構築方針」を作成する制度を創設した。

これまでは(建前であったとしても)鉄道の機能・利便性向上や活用を掲げていたが、大量輸送という鉄道の特性が発揮できていない路線について、鉄道存続とBRT・バス転換のどちらが公共政策的意義を実現できるかを議論する再構築協議会は、鉄道の存廃を左右する存在となる。

まず「1000人未満」協議へ

今年2023年6月3日の中国新聞朝刊は国交省関係者への取材として、再構築協議会の対象となるのは旧国鉄特定地方交通線と同様、1日平均の通過人員(輸送密度)が4000人未満の「鉄道の特性が十分に発揮できない」区間と報じている。

中国山地は利用者の少ないローカル線が多い。写真は輸送密度が10人未満の区間もある芸備線。【画像:ぴーうさ/写真AC】

そのなかでも1000人未満の区間は「対策が急務」として、自発的な動きが無い場合は、国は自治体に協議会の設置を働き掛けるとしている。国は中立的な立場で協議に参加し、3年を目途に方針を決定する。

この記事では明記していないが、法改正の方向性を検討した2022年の国交省検討会の議論をふまえれば、特急列車や貨物列車が運行する幹線ネットワークを形成する路線は除外されると考えられる。

国交省の検討会が提言した時点で、協議会の仮称は「特定線区再構築協議会」とされていたことが示すように、「特定」と「4000人」の組み合わせは、国鉄再建の記憶を否応なく呼び起こす。

国鉄再建の一環で廃止された名寄本線の上興部駅跡。【撮影:草町義和】

「存廃」より公共交通全体の議論を

JR東日本が公表している線区別輸送密度を見ると、1987年度は195線区中128線区が輸送密度4000人以上で、1000人未満は18線区にすぎなかった。しかしコロナ禍が本格化する前の2019年度は202線中、半数近い95線区が輸送密度4000人を下回っており、このうち50線区が1000人未満だ。

陸羽東線・鳴子温泉~最上の輸送密度は100人を割り込んでいる。【画像:しげあき/写真AC】

確かに厳しい状況だが、国鉄改革から40年近い時間が流れ、鉄道を取り巻く環境は大きく変化している。前提条件である鉄道とバスの運行コストは大きく変わっており、「4000人」ばかりクローズアップされると話をややこしくしかねない。

無論、基準を下回る路線を廃止するという乱暴な話ではないし、一定の輸送密度を保っている路線であっても、手を打てるうちに議論を進めるのは重要なことだ。鉄道を存続するか、廃止するかではなく、地域にとって利用しやすく、かつ持続可能な公共交通をどのように作り上げるかが本題である。

鉄道の存廃ではなく利用しやすく持続可能な公共交通を作り上げることが重要だ(写真は1985年に廃止された国鉄倉吉線の代替バス)。【撮影:草町義和】

まず着手する1000人未満の路線には、500人あるいは200人未満の線区も少なくない。そのなかには結果として鉄道廃止の道を選ばざるを得ない線区も出てくるだろう。こうした廃線事案ばかり注目されることで、次に控える(考え方によっては最も重要な岐路に立つ)路線の議論が及び腰にならぬよう、国はビジョンの提示と協議のかじ取りを進めてほしい。

資料:JR東日本の輸送密度(2019年度で4000人未満の線区)

作成:鉄道プレスネット
(特急)=特急列車が定期的に運行されている線区
(貨物)=貨物列車が定期的に運行されている線区
※一部線区は参考値(災害運休などによる代行輸送や振替輸送を実施)

■4000人未満~3000人以上
線名区間営業キロ
(km)
輸送密度
(人/日)
1987年度
輸送密度
(人/日)
2019年度
常磐線原ノ町~岩沼(特急)56.88,8503,924
磐越西線五泉~新津9.96,2523,921
信越本線直江津~犀潟(特急)(貨物)7.114,3853,837
大糸線豊科~信濃大町(特急)23.76,9073,777
上越線渋川~水上(貨物)38.06,4533,746
青梅線青梅~奥多摩18.76,0063,715
陸羽東線小牛田~古川9.48,9263,714
上越線六日町~宮内(貨物)50.85,8263,615
内房線君津~館山47.612,7063,599
信越本線犀潟~長岡(特急)(貨物)65.914,1293,418
小海線中込~小諸13.45,0993,387
仙山線愛子~羽前千歳42.85,3693,374
成田線佐原~松岸(貨物)35.44,3163,038
中央本線岡谷~辰野9.54,0973,021
■3000人未満~2000人以上
線名区間営業キロ
(km)
輸送密度
(人/日)
1987年度
輸送密度
(人/日)
2019年度
八高線高麗川~倉賀野60.92,8332,994
弥彦線吉田~東三条12.56,5662,927
東北本線黒磯~新白河(貨物)22.17,4802,923
奥羽本線追分~東能代(特急)(貨物)43.77,7402,916
磐越西線郡山~会津若松64.65,9482,904
上越線越後湯沢~六日町(貨物)17.64,0092,879
吾妻線渋川~長野原草津口(特急)42.04,5062,803
八戸線八戸~鮫(貨物)11.86,0792,640
水郡線上菅谷~常陸太田9.53,2332,540
東北本線小牛田~一ノ関(貨物)50.15,7812,424
羽越本線羽後本荘~秋田(特急)(貨物)42.85,5692,339
磐越東線小野新町~郡山45.53,6602,242
羽越本線鶴岡~酒田(特急)(貨物)27.56,1092,109
■2000人未満~1000人以上
線名区間営業キロ
(km)
輸送密度
(人/日)
1987年度
輸送密度
(人/日)
2019年度
磐越西線会津若松~喜多方16.63,9871,790
男鹿線追分~男鹿26.44,6101,781
奥羽本線湯沢~大曲36.65,4041,704
飯山線豊野~飯山19.23,3681,696
羽越本線村上~鶴岡(特急)(貨物)80.05,6901,695
内房線館山~安房鴨川33.54,5361,596
外房線勝浦~安房鴨川(特急)22.44,9761,543
五能線五所川原~川部21.53,1371,507
奥羽本線東能代~大館(特急)(貨物)47.55,1961,485
烏山線宝積寺~烏山20.42,5591,430
久留里線木更津~久留里22.64,4461,425
羽越本線新津~新発田(貨物)26.06,9171,300
鹿島線香取~鹿島サッカースタジアム(貨物)17.42,5491,207
石巻線小牛田~女川(貨物)44.73,2471,193
奥羽本線大館~弘前(特急)(貨物)44.24,1751,165
小海線小海~中込17.22,2721,164
只見線会津若松~会津坂下21.61,9621,122
上越線水上~越後湯沢(貨物)35.13,2671,010
■1000人未満~500人以上
線名区間営業キロ
(km)
輸送密度
(人/日)
1987年度
輸送密度
(人/日)
2019年度
五能線東能代~能代3.93,527975
水郡線磐城塙~安積永盛56.21,608952
陸羽東線古川~鳴子温泉35.52,740949
釜石線花巻~遠野46.02,034897
左沢線寒河江~左沢9.01,356875
水郡線常陸大宮~常陸大子32.22,458830
米坂線米沢~今泉23.01,966776
大糸線信濃大町~白馬(特急)24.62,668762
大船渡線一ノ関~気仙沼 62.01,547754
津軽線青森~中小国(貨物)31.410,813720
越後線柏崎~吉田49.81,861719
上越線越後湯沢~ガーラ湯沢 ※季節営業・特急のみ1.8618
釜石線遠野~釜石44.21,759583
五能線深浦~五所川原58.81,290548
中央本線辰野~塩尻18.21,824547
花輪線鹿角花輪~大館37.21,646537
磐越西線喜多方~野沢25.01,992534
大湊線野辺地~大湊58.4965533
磐越西線津川~五泉28.72,233528
弥彦線弥彦~吉田4.91,429521
飯山線飯山~戸狩野沢温泉8.32,171503
■500人未満~200人以上
線名区間営業キロ
(km)
輸送密度
(人/日)
1987年度
輸送密度
(人/日)
2019年度
小海線小淵沢~小海48.31,038450
北上線北上~ほっとゆだ35.21,413435
花輪線好摩~荒屋新町37.61,561418
奥羽本線新庄~湯沢61.84,047416
飯山線津南~越後川口38.8949405
山田線盛岡~上米内9.9844358
陸羽東線最上~新庄28.51,273343
陸羽西線新庄~余目43.02,185343
吾妻線長野原草津口~大前13.3791320
五能線能代~深浦63.0764309
米坂線今泉~小国35.3833298
磐越東線いわき~小野新町40.11,036273
気仙沼線前谷地~柳津17.51,357232
大糸線白馬~南小谷10.41,719215
■200人未満
線名区間営業キロ
(km)
輸送密度
(人/日)
1987年度
輸送密度
(人/日)
2019年度
米坂線小国~坂町32.4864169
山田線上米内~宮古92.2720154
水郡線常陸大子~磐城塙25.7788152
北上線ほっとゆだ~横手25.9813132
磐越西線野沢~津川30.81,142124
津軽線中小国~三厩24.4415107
飯山線戸狩野沢温泉~津南30.4822106
只見線只見~小出46.8369101
久留里線久留里~上総亀山9.682385
陸羽東線鳴子温泉~最上20.745679
花輪線荒屋新町~鹿角花輪32.191578
只見線会津川口~只見27.618427

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