ローカル線「輸送密度1000人未満」国主導で存廃協議へ 有識者検討会が提言



国土交通省が設置した「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(座長:竹内健蔵東京女子大教授)は7月25日、ローカル線の在り方について提言を取りまとめ公表した。利用者の減少などで厳しい経営が続く路線は国が主導して協議会を設置し、期限を設けて路線の存廃などを決めることを求めた。

特定地方交通線として廃止、バス転換された国鉄(JR北海道が暫定継承)名寄本線の上興部駅跡。同線の輸送密度は1977~1979年度の基準期間で894人だった。【撮影:草町義和】

この提言では利用者の減少などで存続が難しい一方、複数の自治体や経済圏・生活圏にまたがり広域的調整が必要な路線について「特定線区再構築協議会(仮称)」を設置するものとした。JR各社のローカル線については当面、輸送密度が1000人を下回っている線区を協議会設置の「一つの目安」として挙げている。ただしラッシュ1時間の片方の利用者数が大型バス10台分(500人)以上の場合、協議会の設置対象外とした。

協議会は鉄道事業者や自治体からの要請に基づき、国が主体的に関与して設置。都道府県を含む自治体や鉄道事業者などが参加する。対象線区の現状などについて評価を行うほか、鉄道を存続する場合の活性化策、鉄道を廃止する場合の代替交通策などを協議する。必要に応じて対策案の実効性を検証するための実証事業も行う。この協議会で路線の今後についての方針を決定。地域公共交通計画を策定して鉄道の活性化や代替交通の整備などを図るものとした。

一方で「地域公共交通としての利便性と持続可能性を早急に改善する観点から、合理的な期限を設けるべきである」とし、協議開始から最長でも3年以内に沿線自治体と鉄道事業者が合意したうえで対策を決定すべきとした。

国土交通省は少子高齢化による人口減少やマイカーへのシフトなどで各地のローカル線が「危機的状況」にあるとし、公共交通の有識者などで構成される検討会を2月に設置。鉄道事業者や自治体による近年のローカル線活性化の取組などを踏まえ検討を進めていた。

国土交通省は今後、この提言を基本に法令の整備や関係者との調整を進めるとみられる。輸送密度が1000人未満の路線を中心にローカル線の見直しが加速する可能性が高い。

国鉄「特定地方交通線」との違いは

検討会の今回の提言は、国鉄再建法に基づき1980年代に実施されたローカル線の廃止策と似ている部分がある。

同法では原則として基準期間(1977~1979年度)の輸送密度が4000人未満の国鉄線を「特定地方交通線」として廃止対象に指定。一方でラッシュ時の利用者が多い路線や並行道路が未整備の路線などは廃止の対象外とする「除外条項」を設けた。

特定地方交通線に指定された路線は、国鉄と沿線自治体で構成される対策協議会を設置して協議することに。ただし協議開始から2年以内に協議がまとまらなかった場合、国鉄がバス転換を実施する「見切り発車」条項を定めていた。

これにより国鉄83線の計3157.2kmが特定地方交通線に指定された。「見切り発車」は実際には行われなかったが、45線の計1846.5kmが廃止されてバスに転換。残る38線の1310.7kmは第三セクターや私鉄に引き継がれた。

国鉄魚沼線の西小千谷駅。特定地方交通線として1984年に廃止された。【撮影:草町義和】

今回の検討会の提言でも、ラッシュ時の利用者が多い路線は除外しつつ輸送密度を目安に見直し対象の路線を選定し、協議の場を設けることを求めている。協議の期限を示しているのも特定地方交通線の対策協議会と同じだ。

ただし、提言では見直し対象とする線区の輸送密度の目安を特定地方交通線の基準の4分の1に抑えた。国鉄時代に比べローカル線運営のコスト低減が進んでいること、国や自治体による公的支援制度がある程度充実したことを背景に目安を下げたとみられる。協議会の設置対象外の基準となるラッシュ時の利用者数も、特定地方交通線の除外条項では1000人以上だったが、今回の提言ではその半分とした。

存続可能性が高くなる評価手法の導入も

ただ、特定地方交通線の対策協議会と今回の提言の協議会は根本的に異なる部分もある。提言は協議会の設置について「『廃止ありき』『存続ありき』といった前提を置かずに協議する枠組みを創設することが適当」とした。特定地方交通線の対策協議会が「廃止ありき」だったのに対し、路線の存続・廃止の両方とも協議することになる。

提言通りの方向性で協議会が設置されるなら、鉄道を存続する場合の活性化策も協議の対象になる。提言では活性化策の参考例として第三セクター化や分社化、上下分離の導入など経営スキームの刷新を挙げた。施設面では鉄道車両の購入支援や高速化、複線化、駅施設と公共施設の合築化などを提示。営業面では並行バス路線との共同経営化、キャッシュレスの決済システムの導入などを挙げた。

新型車両の導入や増発などで利用者が増えた姫新線の列車。【画像:KUZUHA/写真AC】

一方、鉄道を廃止して代替交通に移行する場合の参考例としてはバス高速輸送システム(BRT)の導入を提示。鉄道に準じた扱いとする「特定BRT」の導入も提言した。鉄道との乗継駅で同一ホームでの乗換ができるようにすることや、鉄道との通し運賃の設定を行うこと、鉄道路線に準じる扱いで時刻表に掲載することなどを特定BRTの要件例として挙げている。

このほか、路線の評価に際しては「クロスセクター効果」の活用も求めた。これは地域公共交通の利用者数や採算だけで路線を評価するのではなく、廃止による影響も含め地域全体で評価しようというものだ。

たとえば年間1億円の赤字を出しているローカル線に対し、自治体が赤字分の財政支援を行っているとする。廃止すれば1億円の財政支出を節減できるが、ローカル線の廃止で病院や学校などへのアクセス交通機関がなくなる。自治体は送迎バスやスクールバスを運行したり、無料タクシー券を配布したりするなどの代替策を講じる必要が生じる。

代替策にかかる費用が1億円を超えるなら、たとえローカル線の利用者が少なく赤字でも、存続させたほうが財政支出は減ることになる。このクロスセクター評価によりローカル線を存続するケースも出てきそうだ。

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