鉄道の指標「輸送密度」とは ローカル線の廃止基準、分かりやすいが課題も



JR西日本は4月11日、利用者の減少で経営が困難になっているローカル線について「地域の皆様と各線区の実態や課題を共有することで、より具体的な議論をさせていただくため」として、輸送密度(2019年度)が2000人未満の線区の経営状況に関する情報を開示した。

ホームに人の気配がない越美北線の終点・九頭竜湖駅。同線の輸送密度は260人(2020年度)で経営は厳しい。【撮影:草町義和】

同社は言葉では明確に表現していないが、端的に言えば2000人未満の線区について、上下分離方式の導入や鉄道を廃止してバスに転換することなども視野に入れ、地元と協議する方針を掲げたといえるだろう。

ところで鉄道の存廃問題が浮上するとき、必ずといっていいほど出てくる数字が「輸送密度」だ。「輸送密度が100人だから鉄道を維持するのは厳しい」というように使われる。そもそもこの輸送密度とは、何を示す数字なのか。

全体の「平均値」を示す

鉄道の旅客輸送量を表す数字で、最も分かりやすいのは「輸送人員」だろう。単純に客の数をカウントしたものだ。

しかし、客のすべてが路線の起点駅から終点駅まで乗るわけではない。途中駅での乗り降りもあり、実際に何人運んでいるかは区間ごとに変わってくる。起点のA駅からB駅まで混雑していても、B駅からC駅まではガラガラということもありえる。輸送人員だけでは、その路線の全体像を正確に、かつ分かりやすく表現することができない。

そこで、どの区間でも人数が同じになるよう利用者の乗車距離を並べ直し、平均の数字を見る。この平均値が「輸送密度」といえるもので、「平均通過人員」などと呼ばれることもある。

全長10kmで輸送人員が10人の架空路線(上)。各人の利用距離を並べ直してどの区間でも人数が同じになるようにしたのが輸送密度(下)といえる。【作成:草町義和・鉄道プレスネット】

実際に輸送密度を算出する場合、輸送人員と乗車距離を掛けた数字(輸送人キロ)を、路線の営業距離で割る。

たとえば上記の架空の路線(全長10km・輸送人員は10人)の場合、旅客Aは10km利用しているので10人キロ、旅客Bは6人キロ、旅客Cは3人キロ……となり、輸送人キロの合計は50人キロ。これを路線全体の距離(10km)で割ると、輸送密度は5人になる。

なお、国土交通省などが公表している輸送人キロは年間の数字だが、輸送密度の数字は通常1日平均だ。この場合の計算式は、年間輸送人キロ÷路線全体の営業距離÷365日(うるう年は366日)になる。

万能ではない指標

輸送密度は路線の全体的な輸送状況を分かりやすく表現でき、距離が異なる路線とも比較しやすい。日本民営鉄道協会(民鉄協)は「鉄道の線区別の輸送効率を知るために非常に重要な指標」としている。

輸送密度を基準に廃止された鉄道路線も多い。輸送密度が小さい路線は収入も少ないことが多く、維持するのが難しいためだ。1980年代には国鉄再建法に基づき利用者が少ない国鉄線を廃止することになり、原則として輸送密度が4000人未満の路線を「特定地方交通線」に指定。鉄路を廃止してバスに転換したり、第三セクターなど国鉄以外の事業者に引き継がせたりした。

ただ、この輸送密度も万能の指標とはいえないという課題がある。

距離の長い路線の場合、利用者が多い区間と少ない区間が混在していることが多い。たとえばJR西日本の芸備線(全長159.1km、岡山県・広島県)の場合、2020年度の輸送密度は全体では1140人。これを区間別の輸送密度で見ると、広島都市圏の下深川~広島間14.2kmは8444人で幹線クラスだ。一方、岡山県と広島県の県境近くで広島県内の山岳地帯を通る東城~備後落合間の25.8kmはわずか9人。同じ線内でも8000人以上の開きがある。

芸備線の備後落合駅。同駅を含む東城~備後落合間は2020年度の輸送密度が9人だが、広島寄りの区間は輸送密度が8000人を超える。【画像:アクセルF/写真AC】

しかし、国鉄再建法による特定地方交通線の指定では路線全体の輸送密度を基準にしたため、利用者が多い区間も含めて廃止されるケースがあった。逆に利用者が少ない区間があるのに全体の輸送密度が大きかったため、廃止を免れた路線もある。当時としては不合理な選定が行われたといわざるを得ない。

JR西日本が今回公表した2000人未満の線区の経営状況では、たとえば山陰本線なら路線の全区間ではなく、2000人以上の京都~城崎温泉間と鳥取~出雲市間を除外。2000人未満の各区間をピックアップしており、路線全体で一律に判断することを避けていると考えられる。

また、輸送密度は基本的に1日平均の数字になるため、ラッシュ時間帯とそれ以外の時間帯の輸送量を分けて見ることができない。全体の輸送密度は小さくても、ラッシュ時にはバスでは運びきれないほどの輸送量の場合もある。実際、国鉄再建法に基づく特定地方交通線の選定では、ピーク時の乗客が一方向1時間あたり1000人を超える路線の場合、輸送密度が4000人未満であっても対象外にするといった除外規定を設けていた。

このように、輸送密度だけで見ると路線の実態を見誤る可能性はある。とはいえ、輸送実態を把握するうえで重要な指標であることも確かだ。輸送密度を単純に「敵視」するのではなく、輸送密度も含め、さまざまな観点から検討することが望まれる。

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