ひたちなか海浜鉄道の湊線(茨城県ひたちなか市)を延伸する計画について、同社筆頭株主のひたちなか市は工事計画の申請を延期する方針を決めた。申請の延期は昨年2022年1月に続き2回目で、開業も遅れる見通し。
湊線はひたちなか市内の勝田~阿字ヶ浦14.3kmを結ぶ鉄道路線。終点の阿字ヶ浦駅の北側にある国営ひたち海浜公園へのアクセス向上策として延伸が計画された。
新線を建設して経営する場合、まず鉄道事業法に基づき鉄道事業許可を取得。その後、詳細な工事計画をまとめた工事施行認可を国土交通大臣が定めた申請期限までに申請する必要がある。やむを得ない事情で期限までに申請できない場合、申請期限の延長を申請することができる。
湊線の場合、阿字ヶ浦~新駅2(仮称、海浜公園西口付近)3.1kmの第1種鉄道事業許可を2021年1月15日に取得。工事施行認可の申請期限は当初、許可取得から1年後の2022年1月14日とされ、2022年度中に着工して2024年春に開業の予定だった。
しかし申請期限直前の2021年12月、ひたちなか市は「新型コロナウイルス感染症の影響で、関係機関等との協議を延期せざるを得ない事態が継続したことから、期限までの申請が厳しい状況」と表明。申請期限の延長を申請し、申請期限は1年以上先の今年2023年3月31日に変更された。
新しい申請期限が迫っていた3月1日、ひたちなか市の大谷明市長は定例市議会で「工事計画にも、コロナ禍や近年の急激な物価高騰などの社会情勢の変化を十分に反映させる必要がある」と述べ、申請を再び延期する方針を示した。
ひたちなか市の企画調整課によると、申請期限の延長申請は3月22日時点で行ってないが、申請期限を迎える3月31日までに申請する予定。新しい申請期限を2024年3月31日とする方向で国やひたちなか海浜鉄道と調整している。工事施行認可の手続きが当初の計画より2年遅れになるため、2024年春の開業は厳しい状況という。
概算で約78億4000万円とされている事業費も近年の物価高騰の影響で増加する見込み。企画調整課は高架橋で計画していた部分を盛土構造に変更するなど、増加額をできるだけ抑える方向で工事計画の検討を進めているとしている。
コロナ禍でも利用者数は過去最高
湊線はかつて茨城交通が運営していたが、利用者の減少が続き経営が悪化したことから存廃問題が浮上。第三セクター化で存続することになり、2008年、ひたちなか市と茨城交通が出資するひたちなか海浜鉄道に経営が移管された。
三セク化後は新駅設置などのサービス向上が推進されており、利用者も増加基調に転じている。年間の輸送実績は2008年度が75万5000人だったのに対し、2019年度は三セク化後で過去最高の106万人になった。2020年度はコロナ禍の影響で71万9000人まで落ち込んでいる。
2021年4月、ひたちなか市内の五つの市立小中学校を統合した美乃浜学園が開校。これに先立つ同年3月、同学園の近くを通る湊線に新駅の美乃浜学園駅が開業した。これにより小中学生が湊線で通学するようになり、利用者が大幅に増加。2021年度の輸送実績は108万6000人で、コロナ禍が続くなかで過去最高記録を更新した。
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