「沖縄鉄軌道」費用便益比また「1」下回る 内閣府2021年度調査、BRT連携案も



内閣府は7月22日、沖縄本島の中南部を縦断する鉄道構想「沖縄鉄軌道」の2021年度の調査報告書を公表した。過去に調査した案の精査やほかの公共交通と連携した案の検討などを実施。費用便益比(B/C)は前年度2020年度の調査に引き続き「1」を下回り、社会的な経済効果が事業費を下回る結果になった。

2021年度の調査では、過去の調査で設定した条件を基本にコスト縮減策や最近の物価変動などを盛り込んで概算事業費を精査。保安装置として無線式列車制御システム(CBTC)を採用することを想定した。

沖縄鉄軌道の構想ルート(一例)。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

報告書によると、CBTCを導入した場合、普通鉄道、スマート・リニアメトロ、粘着駆動方式小型鉄道、高速AGT、HSSTのいずれの場合も、自動列車制御装置(ATC)に比べ事業費が約1%低減する効果があるとした。

概算事業費は6560億~1兆250億円に。工費の高騰などにより、2020年度の調査(2019年度価格)に比べ3~5%上昇した。40年間の累積損益はいずれのケースも赤字で最大7180億円、最小でも2350億円に。B/Cは過去調査に比べ0.02~0.05減少し、最小で0.50、最大でも0.71となった。

道路上に敷設した併用軌道を走れる路面電車タイプのトラムトレインを採用した場合、B/Cは0.67~0.84と試算された。概算事業費は3400億~4850億円。40年間の累積損益は1440~2400億円の赤字だ。専用敷地を走るほかの鉄軌道システムに比べ優位な結果となった。ただし報告書は政策目標である「那覇市と名護市1時間圏」をトラムトレインでは達成できず交通渋滞を悪化させる可能性もあるとし、導入可能性は低いとしている。

おもなケースの事業費や需要予測、累積損失、B/Cは次の通り。

●幹線骨格軸(モデルルート)の精査
ルート:うるま・国道330号+空港接続線
概算事業費:9090億円
需要予測値(2020年度):1日9万3000人
累積損失(40年間):6420億円
B/C(50年間):0.50

●北部支線軸を考慮
ルート:うるま・国道330号+空港接続線+北部支線(1)(名護~沖縄美ら海水族館)
概算事業費:1兆250億円
需要予測値(2020年度):1日10万2000人
累積損失(40年間):7180億円
B/C(50年間):0.54

●小型システム(スマート・リニアメトロ)
ルート:うるま・国道330号+空港接続線
概算事業費:7130億円
需要予測値(2020年度):1日10万7000人
累積損失(40年間):3960億円
B/C(50年間):0.63

●小型システム(粘着駆動方式小型鉄道)
ルート:うるま・国道330号+空港接続線
概算事業費:7080億円
需要予測値(2020年度):1日10万7000人
累積損失(40年間):4000億円
B/C(50年間):0.64

●小型システム(高速AGT)
ルート:うるま・国道58号+空港接続線
概算事業費:6980億円
需要予測値(2020年度):1日10万7000人
累積損失(40年間):2350億円
B/C(50年間):0.69

●小型システム(HSST)
ルート:うるま・国道58号+空港接続線
概算事業費:6560億円
需要予測値(2020年度):1日10万9000人
累積損失(40年間):3040億円
B/C(50年間):0.71

●トラムトレイン:幹線骨格軸(モデルルート)の精査
ルート:うるま・国道58号+空港接続線
概算事業費:4850億円
需要予測値(2020年度):1日8万8000人
累積損失(40年間):2400億円
B/C(50年間):0.67

●トラムトレイン:コスト縮減方策等の組み合わせ
ルート:うるま・国道58号+空港接続線
概算事業費:3400億円
需要予測値(2020年度):1日8万人
累積損失(40年間):1440億円
B/C(50年間):0.84

BRTとモノレール増強組み合わせた案も

今回の調査では糸満~那覇~名護のルートについて、バス高速輸送システム(BRT)と既設の沖縄都市モノレール線(ゆいレール)を組み合わせた案が新たに検討された。この案もB/Cは「1」を大幅に下回っている。

2021年度の調査ではBRTやモノレールを組み合わせた案も検討された。写真はインドネシアの首都ジャカルタのBRT。【撮影:草町義和】

糸満市役所から那覇市内の赤嶺駅までは、国道331号(小禄バイパス・豊見城道路・糸満道路)を導入空間とするBRTを導入。片側車線が2車線以上の区間ではBRTの専用レーンを設ける。赤嶺駅からおもろまち駅(新都心)はゆいレールの輸送力強化(4両編成化)を図り、おもろまち~名護のみ普通鉄道を整備するものとした。

BRT(赤)とゆいレールの輸送力強化(黒)、普通鉄道(青)の整備を組み合わせた案。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

所要時間はBRT整備区間が約17分、ゆいレール活用区間が約17分、普通鉄道整備区間が約50分(快速)。政策目標の那覇~名護1時間圏内の達成は困難とした。概算事業費は合計約6839億円に。BRT整備に約45億円、ゆいレールの輸送力増強に約564億円、普通鉄道の整備に約6230億円かかるとした。

採算性はBRT整備区間が開業初年度から黒字化するとした。ただし経費は沖縄県内のバス事業者の平均値を採用しており、本土並みの人件費や諸経費を想定した場合は採算性の確保が難しくなる。普通鉄道の整備区間は開業初年度から大幅な赤字で、開業40年後には約4640億円の赤字になるとした。B/CはBRT・モノレール・普通鉄道の一括で0.59。全線を普通鉄道で整備するケースに比べ0.09向上した。

沖縄鉄軌道の構想は内閣府と沖縄県がそれぞれ調査を実施している。このうち内閣府は2010年度と2011年度に調査を実施したところ、概算事業費や累積赤字が多額でB/Cも「1」を大幅に下回った。そのため2012年度以降はコスト縮減策を中心に調査を進めている。

内閣府は今回の調査結果で「コスト縮減はほぼ限界に達している」「更なるコスト縮減を実現するためには、物理的に工事量を減らしていくことも必要」としている。今後は整備区間の大幅な縮小などを視野に入れた検討が行われる可能性もありそうだ。

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