東武鉄道は3月12日、伊勢崎線(東武スカイツリーライン)の竹ノ塚駅(東京都足立区)で新しい駅舎と緩行線(おもに各駅停車の列車が走る線路)の高架ホームを報道関係者に公開した。同駅付近で行われている連続立体交差事業(連立事業)により整備されたもの。3月20日の始発列車から緩行線が高架化される。
ユニークな「子供トイレ」
新駅舎は上り急行線と上下緩行線が一体化した高架橋に整備された。1階が改札階で2階がホーム階。デザインコンセプトは「明るい、シンプル、自然的」で、2018年9月に実施したアンケートで寄せられた意見を反映させたという。
東側からホーム階の防風壁を見ると、駅前広場に面してガラス張りの大きな開口部が設けられており、自然光を採り入れているのが分かる。北側(谷塚寄り)にある1階の出入口へ向かうと、正面に自動改札機のスペースがあり、その左側に自動券売機のスペースとウォークインカウンター(有人改札)が設けられている。ただし3月12日時点では券売機と改札機は未設置だ。
改札内コンコースに入ると、目の前に階段・エレベーターが二つ向かい合って設置されており、その奥にも階段がある。エレベーターは向かい合う二つの階段・エレベーターのあいだに設置。20人乗りの大型で、ストレッチャーも搭載できる。ガラス壁にすることで明るく開放感があるデザインにしたという。コンコースの西側も一部がガラス張りになっていて、取材時点では仮設の地上ホームを発着する列車の姿が見えた。
コンコースの奥にはスペースを広く取ったトイレが設けられた。バリアフリー整備ガイドラインやアンケート結果を踏まえて整備したという。とくにユニークなのが子供用トイレとおむつ替えコーナーで、電車を模した箱型のスペースに設置されていた。トイレの待合スペースには木材のベンチが設置されており、足立区の姉妹都市である栃木県鹿沼市の木材を用いている。
ホームドアは当面「開いた状態」
階段を上がって新しい高架ホームへ。島式ホームの東側に上り緩行線が接しており、さららにその東側には上り急行線がある。西側も下り緩行線が接しており、さらにその西側には1線分くらいのスペースを空けて下り急行線の高架橋が見える。急行線の高架橋は2020年9月までに上下線とも使用開始しており、取材中何度となく列車が通り過ぎていった。
ホーム天井は木組みを採用。これによりデザインコンセプトの「自然的」を表現した。この木組みは鹿沼産だけでなく他の地域で産出された木材も使用している。また、屋根には透明な板(ポリカーボネート材)を一定間隔で設置しており、ホーム上に自然光を取り込んでいる。
ホームドアは上り緩行線側が設置済みだが、下り緩行線側はこれから設置工事が行われる。実際にホームドアを使用開始するのは、上下緩行線とも高架化からほぼ1カ月後の今年2022年4月16日の予定だ。当面はホームドアが開いた状態になるため、東武鉄道は警備員を配置するなどして安全確保を図る。
竹ノ塚駅へのホームドアは当初、高架化にあわせて整備される計画だった。しかし世界的な半導体製造の逼迫(ひっぱく)でホームドアに必要な部品の一部が入手困難になり、設置工事が遅れた。
ただ東武鉄道の関係者によると、ホームドアの設置から使用開始までには実車を使った試験を行う必要がある。竹ノ塚駅の場合、高架線への切替後でないと実車試験が行えない。そのため高架化と同時のホームドア使用開始はそもそもありえず、高架化から1カ月後の使用開始は「(半導体不足の影響といえるかどうか)何とも言えない」とのことだった。
ちなみに、既設の駅にホームドアを設置する場合は通常、列車でホームドアの部材を運ぶことが多いが、竹ノ塚駅の高架ホームは高架線への切替が行われるまで列車が入線できない。上り緩行線ホームに設置済みのホームドアは、前述した大型エレベーターで地上からホームまで運んだという。
工事が順調に進んだ「別の理由」
この高架化は、足立区を事業主体とする連立事業として計画されたもの。竹ノ塚駅を中心とした約1.7kmの区間で線路を高架化し、同駅の緩行線ホームを高架化するとともに前後2カ所にある「開かずの踏切」を解消して道路渋滞の緩和や市街地の一体化を図る。急行線の高架化が2020年9月までに完了しており、今回の緩行線の高架化で踏切がついに解消される。
各地で実施された連立事業の多くは、当初予定された事業期間より遅れて完了したものが多い。なかには10年、20年と大幅に遅れた連立事業もある。ただ、竹ノ塚駅付近の連立事業は比較的順調に進み、高架化完了は当初計画(2021年3月)の1年遅れで抑えられた。これは高架化の工事で使用した鉄板が線路内に埋まったままになっていることが判明し、撤去工事に時間がかかったためだが、10年や20年の遅れに比べたら「ほぼ予定通り」。ある意味では異例ともいえる。
しかも、事業開始前の竹ノ塚駅は複線の急行線と緩行線が地上に並ぶ複々線で、駅舎も高架化工事に支障する橋上駅舎だった。このため工程が複雑になったことを考慮すれば、驚異的なスピードで工事が進んだといっても過言ではないだろう。
東武鉄道の関係者は「行政のバックアップが強力だった」と話す。その背景にはやはり、2005年に発生した竹ノ塚駅南側の踏切での死傷事故があったのだろう。また、かつての連立事業は都道府県や政令指定都市を事業主体としていたが、2005年度には特別区や人ロ20万人以上の都市も事業主体となって連立事業を実施することが可能になり、手続きのスピードアップが図られている。
ただ東武鉄道の関係者によると、それだけが理由ではない。
高架化の工事では通常、高架橋を建設する土地を確保するか、あるいは高架橋の工事を行っているあいだに列車を走らせる仮設の線路(仮線)の土地を確保しなければならない。つまり用地買収を新たに行わなければならず、計画の進展は地権者との協議に大きく左右されやすい。連立事業が遅れる原因の多くは、用地買収の難航だ。
しかし竹ノ塚駅付近の場合、もともと線路が多かったのが幸いした。複々線の線路のほかにも、車庫線(竹ノ塚駅の南側)や列車の留置・待避などに使用する中線(竹ノ塚駅構内)、引上線(竹ノ塚駅北側)があった。これらの線路を減らすことで高架橋を建設するスペースを捻出したため、買収が必要になった土地は鉄道施設用地に限れば、わずか2件で済んだという。
竹ノ塚駅の上下緩行線は2022年3月20日から高架化されるが、工事はまだ終わらない。東武鉄道によると、今後は2022年度から現在の仮線を撤去。その後、引上線の高架化工事を行う。事業の完了は2023年度の予定だ。
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