山陽新幹線「筑豊新駅」構想どうなった? 小倉~博多、別の場所も浮上



九州の福岡県内だがJR西日本が運営している山陽新幹線の小倉~博多間。途中に駅はなく、その距離は55.9km(実キロベース)ある。新幹線の駅間距離としては、青函トンネルを通る北海道新幹線・奥津軽いまべつ~木古内間の74.8kmと東海道新幹線・米原~京都間の68.1kmに次いで長い。

山陽新幹線の列車。【画像:nozomi500/写真AC】

そうしたこともあり、小倉~博多間では筑豊エリアの直方市植木地区に新駅を整備しようという構想が古くからある。場所は筑豊本線(福北ゆたか線)との交差部で、同線の筑前植木駅から北側(鞍手・折尾寄り)へ約480mの地点。地元では「筑豊駅」「筑豊新駅」「東福岡駅」などと呼ばれている。

構想は国鉄時代から

筑豊エリアはかつて日本有数の石炭産出量を誇っていた炭田地帯。戦後はエネルギー源の石炭から石油へのシフトで衰退し、1976年までにすべての炭鉱が閉鎖された。その後は北九州市や福岡市の郊外住宅地としての位置付けが強まり、通勤や通学の交通アクセス改善が課題になっていた。

新駅の設置運動は遅くとも国鉄時代の1984年頃から民間主導で始まったようだ。国鉄分割民営化後の1988年、直方商工会議所が新駅の設置に向け特別委員会を設置。2年後の1990年には促進協議会を設立して設置運動を本格化させた。

この頃、直方市に隣接する宮田町(現在の宮若市)にトヨタ自動車の工場を建設することが決まり、これを機に新駅の整備を求める声が大きくなった。また、1988年には東海道・山陽新幹線で地元負担の請願駅として新駅が複数開業しており、こうした動きに刺激された面もあったとみられる。

1991年には、JR西日本の投資計画室長が促進協の総会で講演し、新駅の研究を進めていることを明らかにした。「予定地は経営や地形的、技術的に条件をクリアしているが、近くで九州自動車道と立体交差していて遠賀川橋りょうも近い。これを避けて建設するため建設費が割高になりそうだ」「新幹線通勤などで利用者が増えると思う」と話し、地元自治体を窓口に協議する意向を示した。

新駅(赤)の整備構想がある山陽新幹線の小倉~博多間。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

この頃の想定では、隣接駅からの距離と所要時間は小倉駅から21kmで10分、博多駅から35kmで15分。通過線を設けた相対式ホーム2面4線を整備して「こだま」専用の駅とし、建設費は80億~100億円程度。東海道・山陽新幹線の新駅と同様、地元が建設費を負担することが条件だった。

ほかの新駅より高額な建設費

1992年には福岡県や直方市も動きだし、調査費を計上して基礎調査を行った。ところが1993年に報告された調査結果では、建設費が従来想定の2倍ほどになる160億~180億円とされた。ほかの新幹線新駅の建設費は50億~100億円程度だが、筑豊新駅は予定地の線路がカーブしているという構造上の問題から線路を長くする必要があり、建設費が膨れあがったという。

このため福岡県と直方市は慎重姿勢を強めたが、民間主導の促進協は「費用の多さを理由に行政が駅設置を断念したら民意に反する。筑豊の再浮揚は望めない」などとして反発した。

1995年、直方市は市長の私的諮問機関として検討協議会を設置。新駅を設置する場合の問題点や解決策を話し合うことにした。しかし、1996年に開かれた市民からの意見聴取会では、地元の雇用拡大につながるなどとした賛成意見のほか市民負担の増大などを懸念した反対意見も挙がり、地元の考えが集約されているとはいえなかった。

1997年には、北九州市や直方市など当時の22市町村が策定した福岡県北東部地方拠点都市地域の基本計画を福岡県が承認し、新幹線新駅の設置が盛り込まれた。しかし具体化に向けた検討は進まず。設置運動も事実上の休止状態になる。

この頃には、筑豊エリアを通る在来線(筑豊本線・篠栗線)を地元負担で電化することが決定。2001年に「福北ゆたか線」として電車の運転が始まった。これにより北九州市や福岡市へのアクセスがある程度改善されたことも、新駅の検討が沈静化した背景にあったとみられる。

直方隣接の市町でも構想

直方市は2006年にも新駅の調査を実施したが、建設費の見込みはさらに膨れあがって201億円に。当時の直方市長は新駅の誘致活動を引き続き行うとしつつ、財政が厳しく手が出せないとして事実上凍結する考えを示した。直方市の第6次総合計画(2021~2030年度)でも、新駅の設置について「引き続き検討を行います」との文言が入っているが、具体的にどう検討を進めて結論を出すのかなど詳細は記されていない。

こうしたなか、近年は直方市に隣接する自治体で新駅を整備しようという動きが見られるようになった。鞍手町の住民団体は同町内の室木地区に新駅を設ける構想を提言し、2017年には新駅設置を求める約8500人の署名を鞍手町長に提出した。このほか、北九州市でも八幡西区の木屋瀬地区に新駅の設置を求める声がある。

従来案の新駅の位置(赤)と近年取りざたされている案(青)の位置。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット】

ただ、別の場所への建設案はいまのところ民間レベルでの提案にとどまっており、自治体が積極的に取り組んでいるわけではない。そもそも、このエリアの自治体が策定した県北東部地方拠点都市地域の基本計画で直方市植木地区への新駅建設を盛り込んでいる以上、別の場所に建設するなら協議や調整が必要だ。

北九州市は木屋瀬地区の新駅案について今年2021年2月に見解を示しているが、巨額の事業費がかかることや需要の見極めが必要なこと、JRや福岡県、周辺自治体の協力を得る必要があることなどの課題を挙げ、「現時点では実現は非常に厳しい状況」としている。いずれの案を採用するにしても、こうした課題がクリアにならない限り実現の可能性は低そうだ。

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※追記(2021年12月6日22時00分):当初、新幹線の駅間距離の順番に誤りがありました。おわびして訂正いたします。