京成本線の荒川橋りょう「架替」動き出す 着工に向け進む「準備」のいま



京成電鉄は本年度2021年度の鉄道事業設備投資計画で、京成本線荒川橋りょう(東京都足立区・葛飾区)の「架替工事の推進」を盛り込んだ。用地買収などの準備はすでに始まっており、そう遠くない時期に工事も始まる可能性が高まっている。11月18日に現地を訪ねた。

京成本線の荒川橋りょう。写真の右側に新しい橋りょうが建設される。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

点在する「予定地」

京成上野駅から京成本線の普通列車に乗って、荒川の東側にある堀切菖蒲園駅へ。京成関屋駅を発車してしばらくすると荒川橋りょうに入り、広大な川面が窓の外に広がった。荒川の東側には綾瀬川が並行して流れているため、荒川橋りょうを過ぎるとすぐに綾瀬川橋りょう。この橋りょうを抜けて少し走ると堀切菖蒲園駅に到着した。

ここから京成本線の線路にできるだけ沿うようにして西へ歩を進める。線路はやや高い盛土に敷かれているため、道路からはレールが見えない。綾瀬川橋りょうの近くまで来ると、盛土の北側には防護シートとパイプ柵で覆われた空き地があった。パイプ柵には「京成本線 橋梁架替 予定地 立入厳禁」と記された看板が取り付けられている。

堀切菖蒲園駅から荒川方面に延びる京成本線の盛土。【撮影:鉄道プレスネット編集部】
線路の脇にある「予定地」。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

この場所は川から少し離れているが、新しい橋りょうは現在の橋りょうの上流(北側)に整備されるため、新橋りょうの前後にも既存の線路に接続するための「アプローチ部」を整備する必要がある。この空き地はそのために確保された敷地だ。

ここから綾瀬川と荒川を渡る道路橋(堀切橋)に移動すると、京成本線の綾瀬川橋りょうと荒川橋りょうの姿が見えた。さびが目立つものの、大柄なワーレントラス桁が美しい。線路は堀切橋より低い位置にあり、それどころか堤防よりも低い。そのため、堤防は線路がある部分だけ切り欠かれた状態だ。線路の両脇には洪水対策として、「パラペット」と呼ばれるコンクリートの防護壁が設置されていた。

堀切橋から見た荒川橋りょう。【撮影:鉄道プレスネット編集部】
堤防の切り欠かれた部分にパラペット(白いコンクリート壁)が整備された。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

頻繁に通過する京成の列車を脇に見ながら堀切橋を西へ歩く。ときおり、橋の下を船が通り抜けていくのが見えた。桁下の空間はかなり狭く、小型船でなければ通過できない。

荒川橋りょうをくぐる船。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

右岸(西側)の線路は東武鉄道伊勢崎線(東武スカイツリーライン)との交差部まで高架橋、交差部から京成関屋駅までは盛土だ。高架橋の北側にあった民家が数軒なくなっており、防護シートとパイプ柵で覆われた空き地が点在していた。

右岸寄りの高架橋の脇にも「予定地」があった。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

国土交通省の関東地方整備局が公表した資料によると、用地買収率(契約進ちょく率)は昨年2020年4月1日時点で約3%。今年2021年9月1日時点では約26%に上昇している。

上流側に「高い橋りょう」

京成電鉄は設備投資計画の発表に先立つ7月、荒川橋りょう・綾瀬川橋りょうの架替工事に関する事後調査計画書を東京都に提出した。それによると、事業区間は足立区千住曙町(京成関屋駅)から荒川・綾瀬川を経て葛飾区堀切4丁目(堀切菖蒲園駅の手前)まで約1.5km。構造物ごとの距離は橋りょう区間が約0.6kmで、アプローチ部は高架橋区間が約0.7km、擁壁・盛土区間が約0.2kmだ。

荒川橋りょう架替事業の平面図(上)と縦断図(下)。線路を北側にずらして堤防より高い橋りょうを新設する。【画像:京成電鉄/東京都】

京成関屋駅から東武スカイツリーライン交差部までは、現在の盛土からやや北にずらすようにして高架橋を整備。交差部から新橋りょうまでは、現在の高架橋の北側に新しい高架橋を整備する。新橋りょうも現橋りょうの上流(北側)へ15mのところに整備。線路はいまより3.7m高くし、堤防より高い位置にする。

新橋りょうから事業区間の終点までは、新橋りょう側の区間で盛土を撤去して高架橋に建設し直し、終点側は盛土を改築して擁壁・盛土区間とする。高架橋に建設し直す部分では、線路をいったん南側の仮線に移してから高架橋を建設する仮線工法を採用する。

最初は堤防より高かったが…

京成本線の荒川橋りょうは1931年3月に完成。同年12月19日の日暮里~青砥間開業にあわせ使用を開始した。現在は1日に約14万人の旅客が通っている。橋りょうの高さは水位基準面から約5.9m。国の計画堤防高より約3.7m低い。

京成本線荒川橋りょう(左)は隣の堀切橋に比べ低い。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

国土交通省などによると、完成当時の荒川橋りょうは堤防より高い位置にあった。しかし戦後の高度経済成長期、地下水の過剰なくみ上げで広域的な地盤沈下が発生。最大で約4.5mの沈下が確認された場所もあった。

地盤沈下で低くなった堤防はかさ上げされたが、京成本線と交差している部分は橋りょうが支障し、かさ上げできないまま現在に至っている。増水時には線路がある低い部分から水があふれ、堤防が決壊する危険性が高まっているという。

2019年の台風19号では、荒川流域の平均雨量がカスリーン台風(1947年)を上回って戦後最大に。水位は桁下に迫る高さまで上昇した。こうしたこともあり、暫定策として土のうを設置。さらに切り欠き部にパラペットを整備することになり、今年2021年9月までに完成した。

ただ、パラペットはあくまで暫定策でしかない。抜本的には線路の位置を高くした、新しい橋りょうへの架け替えが必要だ。

かつては京成押上線の荒川橋りょうも同じように低い位置にあり、1986年には船が橋りょうに衝突する事故も発生している。このため1992年から新橋りょうへの架替工事が始まり、1999年までに線路の切替が完了。2002年には旧橋りょうの撤去などを含む、すべての工事が完了した。

一方、京成本線の荒川橋りょうは2004年度から架替の調査・検討が始まった。これまで詳細設計が遅れるなどして計画は進んでいなかったが、2016年度から現地測量や用地調査が開始。2019年度からは用地買収も始まった。準備は少しずつだが進んでいる。

また、2019年の台風19号を受け、沿川の墨田・江東・足立・葛飾・江戸川の5区が早期整備を国交省に要望。昨年2020年11月には国交省の関東地方整備局や京成電鉄、東京都、沿川区で構成される事業調整連絡会議が発足し、着工の機運が高まってきた。

水上バスの展望スペースから見た京成本線の荒川橋りょう(2011年)。桁下は頭のすぐ上だ。【撮影:草町義和】

現在は2022年度下半期の着工を目指し、準備や調整が進められている。計画書によると、仮線への切替は上り線が2026年、下り線が2028年の見込み。新橋りょうへの切替は下り線が2031年、上り線が2034年の見込みだ。その後、現橋りょうの撤去工事などを進め、事業完了は2038年度を想定している。

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