大阪万博アクセス「大阪メトロ中央線延伸」「北港テクノポート線」どっちになるのか



大阪メトロ中央線の列車。4年後には大阪万博会場の夢洲に乗り入れる。【画像:たろとれ/写真AC】

大阪湾の人工島「夢洲(ゆめしま)」で開催される予定の「2025年日本国際博覧会」(大阪万博)。4年後の開催に向け、アクセス交通の整備が進められている。メインのアクセス交通として建設中なのが、大阪メトロ中央線のコスモスクエア駅と夢洲駅(仮称)を結ぶ地下鉄新線だ。

今年2021年5月、この地下鉄新線の事業費が従来の計画より増える見通しとなったことが報じられた。大阪市の大阪港湾局によると、コスモスクエア~夢洲間の残事業費(インフラ部)は250億円だが、夢洲駅開削工事の仮設土留工の補強とシールドマシンの増設(1機→2機)が必要になり、約40億円の増額が見込まれているという。

同局は「今後発注する夢洲駅本体工事やシールド掘進工事の設計を進めており、これにより全体事業費がおおむね固まってくると考えている。工事費を縮減できる要素も含めて検討を進めている」としている。

ところでこの地下鉄新線、報道では「中央線の延伸区間」と呼ばれているが、一部で「北港テクノポート線」という名称も使われている。

3月23日の産経新聞大阪朝刊の記事では「夢洲まで延伸予定の大阪メトロ中央線」と記され、「北港テクノポート線」の文言は出てこない。これに対して5月14日の毎日新聞大阪朝刊は「大阪メトロ中央線延伸部(北港テクノポート線)」と表現している。

現在は「2路線直通」の計画

大阪メトロ中央線の延伸と北港テクノポート線、一体どちらが正しいのか。厳密にいうと、コスモスクエア~夢洲間で建設中なのは、大阪市の第三セクター「大阪港トランスポートシステム」(OTS)が運営するはずの北港テクノポート線だ。

北港テクノポート線は、2008年オリンピックの大阪への招致活動が本格化したのを機に具体化。2000年10月、コスモスクエア駅から夢洲駅と舞洲駅(仮称)を経て新桜島駅(仮称)に至る7.5kmの第1種鉄道事業(線路を保有して列車を運行する事業)の許可をOTSが取得した。翌2001年には工事施行認可を受けている。夢洲の北側にある人工島の舞洲(まいしま)をオリンピックの主会場とし、北港テクノポート線は主会場へのアクセス交通機関になるはずだった。

北港テクノポート線(赤)のルート。大阪万博の開催決定を機にコスモスクエア~夢洲間の工事が再開された。【画像:国土地理院地図、加工:鉄道プレスネット編集部】

計画区間のうちコスモスクエア~夢洲間を結ぶ夢咲トンネルは、鉄道・道路の併用トンネルとして着工。2009年までに完成して道路用スペースの使用が始まった。しかし、北港テクノポート線は2008年オリンピックの招致に失敗したため、工事は凍結。夢咲トンネルの鉄道用スペースもいまは使われていない。

夢洲で大阪万博を開催することが決まったのを機に、コスモスクエア~夢洲間の南ルート3.2kmのみ万博会場へのアクセス路線として計画を再始動することになり、昨年2020年7月に着工した。コスモスクエア駅から夢咲トンネルの夢洲方坑口まで2.3kmは路盤が完成しているため、現在の工事は夢咲トンネル夢洲方坑口から夢洲駅まで0.9kmの区間を中心に進められている。

OTSが北港テクノポート線の第1種鉄道事業許可を受けている以上、経営上は大阪メトロが運営する中央線の延伸区間ではない。ただ、両線はコスモスクエア駅で線路を接続させ、OTSと大阪メトロによる直通運転が行われる計画。実質的には中央線の延伸区間といってもいいだろう。

開業時は中央線に編入?

しかし、コスモスクエア~夢洲間がOTSの北港テクノポート線として開業するかどうかは、まだ分からない。大阪港湾局に開業時の運営形態をどうするか質問したところ「現在はOTSが(北港テクノポート線の)第1種鉄道事業者となっているが、利便性向上の観点から最適な運営形態となるよう検討している」と回答した。

「最適な運営形態」の具体案については回答がなかったが、北港テクノポート線を大阪メトロ中央線に編入する案も検討しているとみられる。運営者が異なる中央線・北港テクノポート線の乗り継ぎでは運賃が2社の合算で割高になりそうだが、北港テクノポート線を中央線に編入すれば大阪メトロ1社の運賃のみ適用されて2社合算より安くなる可能性が高く、大阪港湾局が回答した「利便性向上」につながる。もし編入となれば、正真正銘の中央線の延伸だ。

これには前例がある。中央線の大阪港~コスモスクエア間は1997年に開業しているが、このときの同区間はOTSが第1種鉄道事業者で、路線名も「南港・港区連絡線(テクノポート線)」だった。

しかし、中央線・テクノポート線の相互乗り入れだったため、大阪市営地下鉄(現在の大阪メトロ)の駅からテクノポート線のコスモスクエア方面に向かうと、運賃は大阪市営地下鉄とOTSの合算で割高に。沿線開発が進んでいなかったほか割高な運賃も敬遠されたようで、利用者数は2003年度の時点で開業前想定の6割弱と低迷した。

そこで大阪市は2005年、テクノポート線を中央線に編入。OTSは同線の施設を保有する第3種鉄道事業者に変わり、大阪市営地下鉄がOTSから線路を借りて営業を行う第2種鉄道事業者になった。これによりテクノポート線は中央線の一部になり、運賃も大阪市営地下鉄のものに一本化されて大幅な値下げが図られた。

大阪万博の会場になる人工島の夢洲。【画像:makiroll/写真AC】

北港テクノポート線は2021年6月時点ではOTSの路線として工事中だが、万博開催までにどのような運営形態に変更されるのか、それとも変更されないのか、注目される。

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