JR宇都宮駅と宇都宮東郊の芳賀町を結ぶ、路面電車タイプの軽量軌道交通(LRT)「芳賀・宇都宮LRT」(宇都宮ライトレール線)。全長14.6kmの軌道を宇都宮市と芳賀町が整備し、第三セクターの宇都宮ライトレールが両市町から施設を借りて電車を運行する。
路面電車タイプのLRTは各地で構想されているが、これまでに実現したLRTは既存の路面電車を改良する形のものばかり。「完全新線」のLRTは宇都宮ライトレール線が日本初といえる。昨年2020年には軌道の敷設も始まり、開業への期待が高まっている。
今年2021年1月23日の午後、JR宇都宮線の普通列車に乗って宇都宮駅へ。実際の工事の状況を確かめてみようと、予定ルートに沿って歩いてみることにした。
■鬼怒通りに軌道の姿なく
改札口を抜け、東西自由通路の跨線橋を東に進む。脇のガラス仕切りには「START, 2022 LRT.」の文字が大きく描かれた宣伝シールが貼られているが、「2022」が手すりのパイプにさえぎられて見えにくい。
この跨線橋の東端の下に、島式1面2線のJR宇都宮駅東口停留場が設けられる計画。同停留場を含む駅前広場の大半が柵に覆われているが、跨線橋からは土木工事の進む様子が見える。
ここから東に延びる栃木県道64号(鬼怒通り)の中央部に、複線の併用軌道が敷設される。中央分離帯は撤去済みだが、軌道の工事は始まっていない。ただ、車線の減少を抑えつつ軌道を敷設するため、歩道の幅を1m近く縮小する工事は進んでいた。
ベルモール前停留場予定地の交差点から500mほど歩くと、南側の建物の合間からみえる田んぼのなかにコンクリートの橋脚が数本、並んでいるのが見える。ようやく「鉄道」らしい構想物を見ることができた。宇都宮ライトレール線はここで鬼怒通りを外れ、いわゆる専用軌道になる。
■新幹線のような大きな橋りょう
専用軌道に並行する道路がなく、若干の遠回りをしながら工事現場を眺めていくが、車両基地に隣接する平出町停留場の予定地は、まだ田んぼが広がっているだけ。その先の集落を通り抜ける部分も未着工の部分が多かった。
集落を通り抜けて鬼怒川が近づいてくると、鬼怒川橋梁へのアプローチ部へ。高架橋の橋脚が完成して部分的ながら桁も架かっており、複線軌道の断面が見える。そして鬼怒川の堤防の上に出ると、鬼怒川橋梁の姿が現れた。
ニューマチックケーソン工法と張出し架設工法のコンクリート橋。全長643mで9径間、水面からの高さは20m強という巨体だ。桁は2カ所でつながっていないものの、その巨体を感じさせるには十分な程度に工事が進んでいる。「軽量」軌道というよりは、新幹線の橋梁のようだった。
■レールの敷設が完了した区間も
雨が激しくなったため、日を改めて1月25日に再訪。鬼怒川橋梁の東側から歩き出した。ここも専用軌道が続くルートで、アプローチ部の高架橋や擁壁の工事が進んでいる。
工場などが林立する清原工業団地に入ると、仮称の通り作新学院大学の北側にある作新学院北停留場の予定地で、相対式ホームの整備がほぼ終わっていた。ここから再び併用軌道になり、道路の改修と一体で工事が進んでいる。
北に向きを変えて清原中央通りへ。道路幅が50mで4車線になっているほか、樹木が並ぶ幅広の歩道もある。軌道は東側の歩道を活用して車道から分離したところ敷設され、実質的には専用軌道だ。バラストと枕木、レールの姿があった。停留場の工事も進んでいて、すぐにでも開業できそうな雰囲気だ。
鬼怒通りや国道408号が合流する野高谷町交差点付近で、東に向きを変える。交差点の南東を高架橋で通り抜け、県道64号に進入。テクノポリス西停留場が設けられる刈沼町交差点からは県道69号を進む。
周囲は宇都宮テクノポリスの土地区画整理事業で造成されたニュータウン「ゆいの杜」で、ロードサイド店舗のほか民家も多数見える。終点の本田技研北門停留場までは、道路中央に複線の軌道を設置する併用軌道になるが、ここも宇都宮駅寄りの併用軌道区間と同様、軌道や停留場の本格的な工事は始まっていなかった。場所によって工事が進んでいる部分と進んでいない部分の差が激しい。
宇都宮ライトレール線は着工当初、2022年3月の開業を予定していた。しかし開業が1年後に迫っていた今年2021年1月、開業の延期が発表され、新しい開業予定時期は2023年3月になった。事業費も軟弱地盤に対応するため橋脚の基礎を長くしたり、地盤改良の必要が生じたりして、着工時の見込みだった458億円から1.5倍の684億円に膨らんでいる。
※この記事は『鉄道ジャーナル』2021年4月号(2021年2月20日発売)の記事「宇都宮ライトレールの工事をたどる 『開業1年延期』と『事業費1.5倍』発表」の一部を編集しました。詳細は『鉄道ジャーナル』2021年4月号をご覧ください。
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