阿佐東線DMV「黒字化困難」も収支改善 鉄道・道路直通、ダイヤ案や需要予測など公表



徳島県は8月19日、鉄道と道路の両方を走れるデュアル・モード・ビークル(DMV)の運行計画案や需要・収支予測などを公表した。阿佐海岸鉄道が運営する阿佐東線(徳島県・高知県)を中心に、前後の区間はバスとして道路に乗り入れて運行する。

阿佐海岸鉄道の阿佐東線に導入されるDMV。【画像:徳島県】

運行計画案などによると、ルートは阿波海南文化村~阿波海南~海部~宍喰~甲浦~海の駅東洋町~宍喰温泉間の15.8km。このうち阿波海南~海部間1.5kmは現在のJR牟岐線、海部~甲浦間8.5kmは阿佐東線を走り、前後の阿波海南文化村~阿波海南間1.2kmと甲浦~宍喰温泉間4.6kmは道路を走る。

牟岐線は現在、DMVの導入区間を含む牟岐~阿波海南~海部間が運休中(バス代行)で、信号設備の改修工事が行われている。DMVの導入後は阿波海南~海部間の運営を阿佐海岸鉄道が引き継ぎ、阿佐東線に編入する。現在の阿佐東線・海部~甲浦間では、鉄道・道路の接続地点(モードインターチェンジ)の整備工事などが進行中。冬頃からDMV運行開始まで工事のため運休し、バスによる代行輸送が行われる予定だ。

DMVの運行時間帯は6~18時台で、最終便は現在の阿佐東線より2時間早くなる。平日は現在の阿佐東線より6往復少ない10往復。休日は観光客の増加を見込んで日中の本数を増やし、13.5往復とする。このうち1往復は運行区間を室戸方面まで拡大。阿波海南文化村~阿波海南~甲浦~海の駅東洋町~廃校水族館~ジオパーク~室戸岬~海の駅とろむ間の約50kmを直通する。

DMVの運行ルート。阿波海南~甲浦間(赤)は鉄道を走り、前後の区間(青)は道路に乗り入れる。【作成:鉄道プレスネット編集部/国土地理院の地図を加工】

所要時間は鉄道区間の阿波海南~甲浦間が19分。道路区間を含む阿波海南文化村~宍喰温泉間は31分、阿波海南文化村~海の駅とろむ間は1時間28分としている。

運賃案は100円単位にして分かりやすくするとし、初乗り運賃は200円(鉄道5km以内、バス2km以内)。鉄道区間は阿波海南~甲浦間がいまより50円高い500円、海部~甲浦間は120円値上げの400円とした。鉄道・道路の直通区間は、阿波海南文化村~宍喰温泉間が800円で、阿波海南文化村~海の駅とろむ間が2400円としている。

需要予測と収支予測によると、DMV運行開始後5年間の輸送人員は1年平均で7万5000人。いまより約2万人の増加を見込む。少子高齢化の影響で定期券の利用者は減少するが、牟岐線の編入区間の利用者や観光利用により増加するとした。

収支はDMV運行開始後の2021~2028年(鉄道・道路区間の合計)で、1年平均4802万3000円の赤字と予測。黒字化は困難としつつ、約1400万円の収支改善が図られるとしている。DMVへの乗車自体を目的とした新規の観光需要などにより、鉄道で約1100万円、バスで約600万の増収が見込まれるという。

阿佐東線の年間輸送人員は、実質的な開業初年度だった1992年度が17万6893人だったのに対し、2019年度は3分の1以下の5万2983人。2012~2019年の収支は1年平均で6848万4000円の赤字だった。徳島県は阿佐東線へのDMV導入で沿線の活性化や地域公共交通の維持・充実などに寄与するとしている。

徳島県は今後、DMV性能試験の見学会などを行って運行開始に向けた機運の醸成を図り、本年度2020年度内の運行開始を目指す。また、モードインターチェンジの見学・撮影スポットを整備。DMVの運行ではカバーできない観光施設を周遊しやすくするよう、シェアサイクルの導入の検討なども行い、観光客の誘致を図るとしている。

鉄道と道路の接続地点になる甲浦駅。左側の鉄道高架橋から駅前広場につながる道路が整備された。【画像:徳島県】