松本清張『点と線』九州の西鉄香椎駅、実は西武鉄道の東伏見駅 映画の「トリック」

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松本清張の推理小説『点と線』は、鉄道ミステリーの代表作として知られる。原作は旅行雑誌『旅』(日本交通公社)の1957年2月号~1958年1月号で連載。映像化も行われており、1958年11月に東映系の映画として公開された。

東伏見駅の東側にある踏切。【撮影:草町義和】

実在する鉄道を舞台に話が展開するミステリーだけに、映画でも駅を背景にしたシーンが登場する。ただ、原作とまったく同じ駅で撮影したわけではない。

たとえば、九州の国鉄鹿児島本線・香椎線が合流する香椎駅(福岡市)のシーンは、実際には総武本線・成田線の分岐点にある佐倉駅(千葉県)で撮影。国鉄香椎駅から西へ約200m離れた西日本鉄道(西鉄)宮地岳線(現在の貝塚線)・西鉄香椎駅のシーンも、西武鉄道新宿線の東伏見駅(現在の東京都西東京市)で撮影されたという。

「西鉄香椎駅」になったことがある西武新宿線の東伏見駅。映画撮影時の駅舎は残っていない。【撮影:草町義和】

■ポイントは線路の配列と屋根

映画では、島式ホーム2面3線で構成される「西鉄香椎駅」の脇の踏切を二人の刑事が渡り、地上駅舎のそばまで移動するところが映し出されている。駅舎の屋根には大きな看板が設置されていて、駅名の「香椎」が大きく描かれているほか、宮地岳線の主要駅名も記されているのが見えた。

しかし、この時代の西鉄香椎駅は島式ホーム1面2線の構造。西鉄がウェブサイトで公開している1953年の写真を見ても、駅舎の屋根には看板が取り付けられてはいるが、映画の「西鉄香椎駅」の看板とは形状が異なる。

一方で西東京市図書館がウェブサイトで公開している東伏見駅の写真(1963年)を確認したところ、屋根の看板はないが、屋根の形状に映画の「西鉄香椎駅」と一致する部分があった。駅の東脇には映画と同様に踏切があり、ホームと線路の構成も映画の「西鉄香椎駅」と同じ島式ホーム2面3線だ。

映画の撮影では西鉄香椎駅の看板に似たデザインのものを製作し、東伏見駅の屋根に取り付けたのだろう。しかし、さすがに駅舎の屋根や線路はいじれなかったらしい。何だか「トリック」を見破ったような気分だ。

このシーンに登場する刑事は「ここが西鉄香椎駅。まっすぐ行くと情死の現場に出ます」と語っているが、映画の「西鉄香椎駅」から伸びる道をまっすぐ行くと、実際は「情死の現場」である海岸ではなく、青梅街道に出てしまう。

東伏見駅の南口から伸びる道路。ここをまっすぐ行くと九州の海岸ではなく青梅街道だ。【撮影:草町義和】

■建物の「改築」で撮影断念

西日本新聞の1999年4月7日付け夕刊によると、この映画を監督した小林恒夫は、実際に香椎を訪ねてロケハンを行っている。しかしこのとき、原作で描かれていた国鉄香椎駅前の古びた果物屋(実際は食堂だった)は改築されたばかりで、原作のイメージから外れてしまう。ほかにもスケジュール上の都合があったようだが、いずれにせよ現地での本格的な撮影は断念された。

この映画の公開から60年以上が経過。西鉄香椎駅は2006年、連続立体交差事業(連立事業)により高架化されてホームの位置も変わり、当時の面影はない。東伏見駅も大きく変わった。1983年に駅舎が橋上化され、島式ホーム2面4線の構造に変わっている。

今年2020年11月22日、東伏見駅に立ち寄ってみた。映画撮影時にあった地上駅舎は消滅し、ホームも踏切のすぐ手前まで延長されている。それでも踏切の脇で東伏見駅のほうを眺めるてみると、線路や架線柱の配置がなんとなく映画の「西鉄香椎駅」のシーンと似ているような気がしないでもない。

踏切から東伏見駅の構内を見てみると、線路や架線柱の配置が「西鉄香椎駅」に似ている気がしないでもない。【撮影:草町義和】

しかし、東伏見駅を含む西武新宿線の井荻~西武柳沢間も西鉄香椎駅と同様、連立事業による高架化が計画されている。いずれ「気がしないでもない」とすら思えなくなるほど、景色が大きく変わることになりそうだ。

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