千葉港で出発待つ「ジャカルタ行き通勤列車」武蔵野線205系、最後の輸出へ



京葉工業地帯の拠点港である千葉港の千葉中央ふ頭(千葉市中央区)。10月18日の朝に訪ねたところ、線路のないスペースに鉄道車両が置かれていた。

千葉港の「保税地域」に置かれた205系。背後に貨物船の船体が見える。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

国鉄末期の1980年代に開発され、これまで山手線などの通勤路線で運用されてきた205系電車だ。見える範囲では、武蔵野線用として他線から転属して改造された車両(5000番台)が16両ある。ただ、背の高いネットフェンスで囲まれていて、車両に近づくことはできない。

205系が置かれている保税地域は高いフェンスに覆われていて近づけない。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

このフェンスの内側には、「保税」の二文字が大きく書かれた倉庫らしき建物もある。「保税地域」に205系が置かれているのだ。

保税地域とは、輸出許可の下りた貨物を船や飛行機などに積み込むまで置いたり、船や飛行機から下ろした貨物を輸入許可が下りるまで置いたりするスペースのこと。手続き上は「国外」に相当するため、高いフェンスなどで隔離されていることが多い。205系は輸出に向け、船積みを待っている状態ということになる。

205系の近くには「保税」と書かれた建物がある。【撮影:鉄道プレスネット編集部】
中国・天津港の保税地域に置かれているキハ28形。天津到着後に輸入がキャンセルされた状態になり、保税地域に置かれたままになっている。【撮影:草町義和】

先頭車の行先表示器を見ると、カタカナで「ジャカルタ」と記されている。まるで千葉発・ジャカルタ行きの通勤列車のようだ。もちろん千葉からインドネシアの首都ジャカルタまで走ることはできないが、船積みしてジャカルタに向かい、同地の都市鉄道で再び通勤列車として走る。武蔵野線の車両の保守を担当している現場社員の発案により、「ジャカルタ」の文字を記した幕を掲出して搬出しているという。

先頭車の行先表示器に「ジャカルタ」の文字が見える。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

武蔵野線では長らく205系が使われていたが、JR東日本は2018年2月、同線で運用している205系の全336両を、インドネシアの鉄道事業者「ケレタ・コミューター・インドネシア」に譲渡すると発表。同年3月以降、引退した編成から順次、インドネシアに輸出している。JR東日本は以前から、新型車両の導入などで余剰になった205系をジャカルタの都市鉄道に譲渡しており、武蔵野線用の205系の譲渡も、その流れの一つといえる。

武蔵野線の205系。写真のM31編成は2020年3月に引退した。【撮影:草町義和】
インドネシアの都市鉄道で運用されている205系。【撮影:草町義和】

205系は貨物船でインドネシアに運ばれているが、まずは貨物船に載せるため、港に運ぶ必要がある。そのため、千葉港で船積みを待つ205系が見られるようになったのだ。

武蔵野線の205系の搬出ルートとしては、これまで新潟と千葉の2ルートが使われてきた。このうち千葉ルートは、205系が所属する車両基地(京葉線・新習志野~海浜幕張間にある京葉車両センター)から機関車がけん引して京葉臨海鉄道の千葉貨物駅に搬入。同駅からトレーラーに積み替えて千葉港に搬入している。

ここ数年、武蔵野線の車両基地から205系を港に搬出する作業がずっと続けられてきたが、この作業は近日中にも終了する見込みだ。今年2020年10月18日時点で国内に残っている武蔵野線用の205系は、すでに引退して千葉中央ふ頭に留置されている車両のほかは、M20編成(8両)の1本だけ。この編成もまもなく営業運転を終了し、港に運び込まれるとみられる。

武蔵野線では最後の205系となったM20編成。【撮影:鉄道プレスネット編集部】