【鉄道コネタ】まだ廃止されていない札沼線 運転再開の可能性はある?



あまりにも唐突な幕切れだった。5月6日をもって列車の運転を終了し廃止されるはずだったJR北海道の札沼線・北海道医療大学~新十津川間。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて最終運転日が2度も前倒しされ、4月17日限りで列車の運転を終了してしまった。

新十津川駅で発車を待つ札沼線の普通列車。【撮影:草町義和】

これを受けて各メディアは、札沼線の最終運転の前倒しを報道。たとえば産経新聞のウェブサイトは、4月16日8時9分付けで「鉄道ファンに異例の来場自粛要請 JR北海道、札沼線廃止を前倒し」と題した記事を公開している。

しかし、実質的にはともかく、札沼線はまだ廃止されてはいない。4月18日以降は廃止の日が来るまで列車を運転しないということであって、5月の廃止に変更はない。「廃止を前倒し」とした産経新聞の記事タイトルは、厳密には誤りといえる。

■廃止に許認可は不要、ただし1年先

鉄道事業法では、鉄道事業者が鉄道事業を廃止しようとする場合、原則として廃止日の1年前までに、国に廃止を届け出なければならないと定めている。国から廃止の許可や認可を受ける必要はない。

つまり「廃止しますよ」という届出書を国に提出すれば、仮に沿線の自治体や利用者が廃止に猛反対したとしても、1年後には廃止できる。逆にいえば、廃止日が残り1年未満に迫った場合、廃止日を前倒しすることは原則的には不可能だ。

札沼線の場合、JR北海道が廃止を届け出たのは2018年12月21日。廃止日は届出日から1年5カ月後の2020年5月7日としていたから、鉄道事業法の規定に沿っている。

ちなみに、廃止日に列車が走っていたらおかしなことになってしまう。そのため、実際に列車を運転できるのは廃止日の前日まで。札沼線の最終列車も、当初の計画では廃止日の2020年5月7日ではなく、その前日の5月6日に運転されるはずだった。

いずれにせよ、JR北海道が4月17日をもって列車の運転を終了すると発表したのは4月16日。1年後どころか翌日だ。つまり翌々日(4月18日)を廃止日にするには、まったく日数が足りない。

■廃止の前倒しは可能だが…

ただ、廃止の前倒しは不可能ではない。鉄道事業法には廃止の繰り上げに関する手続きも盛り込まれている。

下北交通が運営していた大畑線(青森県)の場合、下北交通は2000年4月28日に大畑線の廃止を届け出ており、届出日から1年数日後の2001年5月1日を廃止日とした。しかしその後、廃止日の繰り上げ手続きを行っており、実際に大畑線が廃止されたのは当初の廃止日より1カ月早い2001年4月1日だった。

しかし、廃止日の繰り上げは廃止の届出と異なり、そう簡単にはいかない。

鉄道事業者から廃止の届出があった場合、国は関係する自治体や利害関係人(廃止される鉄道路線を毎日利用している人など)から意見を聴取する。その結果、廃止日を繰り上げても問題ないと国土交通大臣が判断した場合、その旨を鉄道事業者に通知する。

この通知を受ければ、鉄道事業者は廃止日を繰り上げることができるようになる。実際に繰り上げするかどうかの判断は鉄道事業者に任されており、繰り上げるなら改めて廃止日繰り上げの届出書を国交相に提出する必要がある。

札沼線も廃止の届出があってしばらくしてから意見聴取の手続きが行われており、それはすでに完了している。廃止日の繰り上げは不可能と考えられる。

■新型コロナ=天災事変なら運休で対応可

法令上は5月7日まで廃止できないということになると、最終運転日を前倒しするためには、廃止日まで列車を運休するくらいしかない。

札沼線の北海道医療大学~新十津川間は廃止日(5月7日)に先立ち4月17日限りで列車の運転が終了した。【画像:まこりげ/写真AC】

鉄道営業法を根拠とする国土交通省令の鉄道運輸規程では、天災事変などのやむを得ない事情や公益上必要がある場合を除き、時刻表に掲載されている列車の運転を休止することはできないと定めている。

逆にいえば、天災事変などのやむを得ない事情や公益上必要な理由があるなら、列車を運休できるともいえる。札沼線の場合、新型コロナウイルスの感染拡大が「天災事変」というやむを得ない事情と考えられるし、列車の運休を感染拡大の防止策として捉えるなら、公益上の必要性があるともいえるだろう。

なお、新型コロナウイルスが終息すれば、やむを得ない事情も消滅するから、その時点で列車の運転が再開される可能性はある。現実には5月6日までに新型コロナウイルスが終息するとは思えず、運転再開の可能性は限りなく低いが。

このほか、列車の運休ではなく路線自体を休止することも考えられる。この場合は廃止と同様、休止を国に届け出る必要はあるが、国の許可や認可を受ける必要はない。仮に新型コロナウイルスが終息しても廃止日まで列車を運転しないのであれば、路線の休止手続きがとられることになるだろう。