賛否両論「ハピラインふくい」まだある珍しい理由 福井の並行在来線を引き継ぐ三セク



北陸新幹線の並行在来線(北陸本線)のうち、福井県内の経営を引き継ぐ第三セクターの社名が「ハピラインふくい」に決まり、ネット上で話題になっている。

開業時の社名が「ハピラインふくい」に決まった福井県並行在来線準備のウェブサイト。【画像:福井県並行在来線準備】

北陸本線の金沢~敦賀間は、北陸新幹線の敦賀延伸(2024年春開業予定)にあわせてJR西日本から分離される。このうち福井県内の区間は新設の第三セクターが経営を引き継ぐことになり、2019年8月に「福井県並行在来線準備株式会社」が設立された。社名は準備会社としての仮の名前のため、開業時の社名を一般から募集。3月28日に「株式会社ハピラインふくい」に決まったことが発表され、7月頃にはこの名称に変更される予定だ。

社名決定を最初に報じたのは福井新聞(記事のタイムスタンプは3月28日15時14分)とみられるが、その2分後に福井新聞のツイッターアカウントが当該記事をツイートしたところ、3月29日14時頃までにリツイート数は合計4400を越え、いいね数も3300近くに達した。

外来語に由来するカタカナに「福井」のひらがな表記を組み合わせたもので、「鉄道」の漢字2文字は含まれていない。鉄道会社の名称としては珍しいこともあり、福井新聞のツイートに対して賛否両論のコメントが多数寄せられている。

ハピラインふくいは、ほかにも鉄道会社の名称としては珍しいことがある。それは「株式会社」の位置。鉄道会社としては珍しい「前株」表記を採用したのだ。

鉄道会社の多くは「後株」

会社法では「会社は、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならない」(第6条第2項)と定めている。

しかし、商号のどの位置に「株式会社」などの文字を入れるかは規定していない。名称の前に付ける「前株」と後ろに付ける「後株」のどちらを選んでもいい。非常にまれだが「○○株式会社○○」という「中株」も法的には問題ない。前株・中株・後株のどれにするかは、会社を設立する人の自由だ。

一般的には、前株は株式会社であることを強調でき、信用を得やすいというメリットがあるとされる。一方で後株は名称を強調するため、社名やブランド名をユーザーに覚えてもらいやすいメリットがあるといわれる。

株式会社の鉄道会社は、そのほとんどが後株だ。会社名=路線名であることも多いため、沿線住民に社名(路線名)を覚えてもらいやすい後株を選ぶことが多いのかもしれない。もっとも、鉄道会社に限らず会社名を呼ぶときは「株式会社」の部分を省略することが多いし、メリットにせよデメリットにせよ、あまり大きな意味があるようには思えないが。

ハピラインふくいが経営を引き継ぐ北陸本線の福井駅。【撮影:草町義和】

福井県並行在来線準備はなぜ、開業時の社名として前株を採用したのだろうか。同社に取材したところ、有識者で構成された会社名の検討委員会では前株・中株・後株のどれにするかは決めておらず、福井県並行在来線準備が前株を選んだ。「とくに明確な理由はないが、実際に『株式会社ハピラインふくい』と読んでみたときに音の響きや流れがいい」として前株に決めたという。

このほか、社名に「鉄道」を入れなかったことについては「『ライン』に鉄道の意味が含まれている」と話した。

「前株」は6社だけ

ちなみに、国土交通省鉄道局監修『鉄道要覧』(2019年度)の「鉄道・軌道事業者の主な株主一覧表」(2019年3月31日現在)によると、株式会社の鉄道・軌道事業189社のうち前株を採用しているのは次の6社。

●株式会社ゆりかもめ
臨海副都心の新交通システム「新交通ゆりかもめ」を運営。

●株式会社舞浜リゾートライン
東京ディズニーリゾート内のモノレール「ディズニーリゾートライン」を運営。

●株式会社横浜シーサイドライン
横浜市内の新交通システム「シーサイドライン」を運営。

●株式会社東海交通事業
JR東海の子会社。同社から受託している駅業務などが本業といえるが、JR東海から城北線(愛知県)の線路を借り受けて列車を運行する第2種鉄道事業者でもある。

●株式会社大阪港トランスポートシステム
通称「OTS」。もともとはトラックターミナルなど流通施設の管理を行っていた大阪市の第三セクター。現在は中央線・大阪港~コスモスクエア間と南港ポートタウン線・コスモスクエア~トレードセンター前間の線路を保有して大阪メトロに貸し付けている第3種鉄道事業者でもある。

●株式会社ラクテンチ
大分県別府市内の遊園地「ラクテンチ」を経営。遊園地へのアクセス路線となるケーブルカーも運営している。

東海交通事業が運行する城北線の列車。【撮影:草町義和】

普通鉄道(2本のレール上を自走する車両が走る標準的な鉄道)を運営しているのは東海交通事業と大阪港トランスポートシステムの2社だけで、残り4社は新交通システムなどの特殊鉄道のみ運営。また、鉄軌道事業が本業といえる会社はゆりかもめ・舞浜リゾートライン・横浜シーサイドラインの3社だけ。ほかの3社は鉄軌道事業が本業とはいえず、その起源も鉄道会社とは言い難い。普通鉄道の運営を本業とする株式会社で前株にしたのは、かなり珍しいといえるだろう。

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