阪神なんば線「スゴク低い橋」淀川橋りょう架替工事のいま 前後の線路と駅も変化



水面すれすれの「スゴク低い橋」として知られる、阪神なんば線・福~伝法間の淀川橋りょう(大阪市西淀川区・此花区)。ここでは現在、背の高い新しい橋に架け替える「阪神なんば線淀川橋梁改築事業」が進められている。10月23日に現地を訪ねたところ、工事は思っていたより進んでいた。

架替工事が進む阪神なんば線の淀川橋りょう。【撮影:草町義和】

列車と「同じ高さ」の橋脚

伝法駅で下車し、淀川左岸(南側=伝法寄り)の堤防道路の踏切を訪ねてみると、コンクリート製の堤防を切り欠くようにして線路が敷かれており、淀川橋りょうにつながっているのが見えた。線路が堤防より1.8m低いため、堤防が途切れてしまっているのだ。

堤防より低い位置にある阪神なんば線の線路。【撮影:草町義和】

この踏切の脇に、赤い大きな鉄板が設置されている。これは「陸閘(りっこう)」と呼ばれるもの。堤防が何らかの理由で途切れている場合、川が氾濫すると途切れた部分から水があふれ出て、周囲が水没してしまう。そこで水位が上昇して洪水の恐れが高まった場合、陸閘を線路がある部分まで動かして堤防をふさぐのだ。

踏切の脇にある陸閘。【撮影:草町義和】
水位が上昇して洪水の恐れが高まった場合、陸閘(右上)を線路まで移動させて堤防をふさぐ。【撮影:草町義和】

淀川のほうを見てみると、桁橋とトラス桁橋を組み合わせた淀川橋りょうが見える。桁の位置は確かに水面すれすれだ。とくに天候が悪いわけでもないのにそう感じるのだから、悪天候で増水すれば桁や線路が水没してしまうことは容易に想像できる。橋脚の数も多く、増水時には川の流れを相当阻害するだろう。

増水していなくても橋桁は水面すれすれだ。【撮影:草町義和】

淀川橋りょうの河口側を並行している道路橋(伝法大橋)に回ってみると、すでに4本の真新しい橋脚が姿を現しているのが見えた。このうち中央側の2本は梁(はり)の構築まで完了している。梁の上面は現在の橋りょうを走る列車の屋根と同じくらいの高さ。線路はさらにその上に敷かれることになる。

新しい橋りょうの橋脚が姿を見せている。【撮影:草町義和】
梁の上面は現在の橋りょうを走る列車の屋根と同じくらいの高さ。【撮影:草町義和】

阪神なんば線の淀川橋りょうは、阪神電鉄の伝法線(のちの西大阪線、現在の阪神なんば線)・大物~伝法間の開業にあわせて1924年1月に使用開始。すでに100年近い歴史を持つ。全長は約760mで、中央はトラス桁橋、その前後は桁橋で構成されている。

国土交通省の淀川河川事務所によると、大阪湾の最低潮位から桁下までの高さは4.28m。計画堤防高より3.82m低いばかりか、計画高潮位と比較しても約900cm足りない。しかも、淀川橋りょうの橋脚は39本。多数の橋脚が水の流れを阻害してしまい、洪水発生時には上流で堤防が決壊する恐れがある。

こうしたことから淀川橋りょうの架け替えが計画された。現在の橋りょうより桁下高ベースで約7m高い橋りょうを建設し、橋脚も29本減らして10本に抑える。事業費は約563億円とされている。完成すれば、線路の位置が高くなるため陸閘は不要に。悪天候でも線路閉鎖になる確率は低くなり、列車の安定運転の向上も期待される。

「踏切解消」兼ねた事業

この工事は橋りょうの架け替えだけではない。線路の位置が大幅に高くなるため、前後の低い位置にある線路に接続するための線路(アプローチ部)も整備される。そのため、淀川橋りょうの架け替え区間は約760mでも、事業全体の区間は約2.4kmという長さになる。

淀川橋りょうとその前後の平面図(上)と縦断面図(中:事業実施前・下:実施後)。橋りょうの架け替えだけでなく前後の線路の高架化も事業に含まれている。【画像:国土交通省】

橋りょう東側の伝法寄りは盛土構造で、伝法駅は盛土の両脇に相対式2面2線のホームを設けている。この工事では現在の線路の南側に高架橋を建設して淀川橋りょうに接続し、伝法駅も高架化される。工事はあまり進んでいないように見えたが、駅西端の南側では仮土留工などが施行されている様子がうかがえた。

盛土の部分に設置された伝法駅の現在のホーム。将来は高架化される。【撮影:草町義和】
伝法駅ホームの西端から淀川橋りょう方面を望む。線路の脇に仮設の柵が見え、工事を行っている様子がうかがえる。【撮影:草町義和】

橋りょう西側の福駅付近は工事がかなり進んでいた。こちらは仮線工法による高架化が計画されており、現在は上り線(大阪難波方面)を北側にずらして仮線化する工事が進行中。淀川橋りょう付近のみ仮線化が完了していた。

西側の堤防道路から淀川橋りょうを望む。3本の線路が並んでおり、奥=下り線(尼崎方面)、中央=旧上り線、手前=仮線化された上り線だ。【撮影:草町義和】
淀川橋りょうから西へ少し進んだところの立体交差。古びた下り線(左)と真新しい仮上り線(右)のあいだにあった旧上り線の橋桁は撤去済みだった。【撮影:草町義和】

それ以外の部分でも仮上り線の敷設に向けた工事が進んでおり、福駅では上り線側の仮駅舎が完成して使用開始済み。仮上り線ホームの構造物や架線柱も姿を現していた。下り線(尼崎方面)は上り線の仮線化が完了したのち、仮線化される計画だ。

福駅上り線側の仮駅舎は使用開始済み。【撮影:草町義和】
福駅の上り線ホームから撮影。北側(右側)に仮上り線のホーム構造物や架線柱の姿が見える。【撮影:草町義和】

新橋りょうの整備と前後の高架化で線路の位置が高くなるため、事業区間内では阪神なんば線と道路の平面交差も立体化され、5カ所の踏切が解消される。実質的には連続立体交差事業(連立事業)を兼ねた高架化だ。正確には福駅とその前後の約1.0kmが「都市計画道路福町十三線立体交差事業」と橋りょう改築事業の共同事業区間となっている。

工事完了は10年以上先だが

工事は2018年に着工しており、今年2021年で4年目。見た限り順調に進んでいるようだが、現在の計画では事業完了が2032年度の予定で、残り10年以上はかかる。橋りょうの架け替えだけではなく前後の線路の高架化も含まれているため、どうしても時間がかかるのだ。

淀川橋りょう前後の線路の高架化で5カ所の踏切が解消される。写真は右岸堤防道路の踏切。【撮影:草町義和】

ただ、事業完了時期には現在の橋りょうの撤去期間も含まれており、新しい橋りょうや高架橋はもう少し早く完成する。淀川河川事務所が公表している工程表(2021年度)によると、線路が新橋りょう・高架橋に切り替えられるのは下り線が2026年度、上り線が2029年度の予定。順調に進めば5年ほど先には新橋りょうの使用が始まる見込みだ。

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