京成電鉄「単線区間の複線化など必要」成田空港の機能強化で考え示す



京成電鉄は5月21日、成田空港の機能強化への対応策を明らかにした。同日公表した中期経営計画(2025~2027年度)に同社グループとしての考えを盛り込んだ。需要の増加に対応するため、単線区間の複線化などの改良が必要としている。

機能強化が図られる成田空港。写真左下付近に新旅客ターミナルが整備される。【撮影:草町義和】

京成電鉄が今回公表した中期経営計画は「成田空港の機能強化による中長期的な需要増加に対応するため輸送力の増強が不可欠」「事業エリア全体で大規模かつ多種多様な投資が必要」とし、その投資規模は2025年4月の概算値で8000億円程度(京成電鉄以外の事業者や自治体、国による負担が想定される分も含む)としている。

具体的な輸送力増強策としては、「京成高砂駅付近の改良」「既設路線の改良」「単線区間の複線化」「新旅客ターミナルの駅整備」「宗吾車両基地の拡充」「新型有料特急の導入」「次期スカイライナーの長編成化」「成田空港発着の高速バスの増便」などを挙げた。

京成電鉄が中期経営計画で挙げた空港アクセスの輸送力増強策。【画像:京成電鉄】

京成高砂駅は本線・金町線・成田スカイアクセス線・北総線が乗り入れており、高砂車庫も隣接。このため線路の配線が複雑になっている。中期経営計画は同駅付近を「輸送におけるボトルネック箇所」「輸送力増強に向けては鉄道施設の改良が必要である」とした。

京成高砂駅付近は東京都が連続立体交差事業の準備中区間と位置付けている。同駅付近の線路を立体化して踏切を解消するほか高砂車庫の移転も考えているが、事業化のめどはたっていない。

京成高砂駅付近は複数の路線が乗り入れているのに加え高砂車庫(左)もあり、線路の配線が複雑になっている。【画像:たぐぱん/写真AC】

既存路線の改良は成田スカイアクセス線を挙げて「線路容量や線形等の施設上の課題がある」「当該課題の解決により、更なる輸送力の増強や速達性の向上が見込める」とし、検討を進めるとした。複々線化や最高速度の向上などが考えられるが、京成電鉄の経営統括部は鉄道プレスネットの取材に対し「具体的な施策を言える段階ではないが、成田空港の利用者数が今後1.8倍に増える見通しのなか、現状のままでは厳しいところがある」と話した。

千葉ニュータウンを横断する成田スカイアクセス線。【撮影:草町義和】
成田スカイアクセス線を走るスカイライナーの最高速度は160km/h。【撮影:草町義和】

また、成田湯川~成田空港は線路がほぼ単線で、運行本数を増やすのが難しい状況。このため中期経営計画は「輸送力の増強に向けて、単線区間を複線化し、線路容量を拡大することが必要である」とした。

成田空港内にある空港第2ビル駅と成田空港駅は、本線と成田スカイアクセス線の縦列運用になっており、運行の順番に制約が生じて列車の折り返しにも時間がかかっている。中期経営計画は「新旅客ターミナルに伴う駅整備に合わせ、折り返し機能の改善を図ることが必要」とした。

成田湯川~成田空港の線路と空港第2ビル駅・成田空港駅の課題。【画像:京成電鉄】
成田湯川~成田空港の大半は複線の路盤を京成(左)とJR(右)が分け合っているため両線とも単線になっている。【撮影:草町義和】
空港第2ビル駅のホーム。【撮影:草町義和】

法定検査に対応した車両工場を含む宗吾車両基地は、拡充に向けた工事が進行中。現在は車両工場の移転・建替工事が進められており、2029年3月には新工場が完成する予定だ。中期経営計画は成田空港の機能強化に伴う需要増に対応するため、新工場の整備とともに留置線の増設を行うとしている。

宗吾車両基地の新工場の予定地。【撮影:草町義和】

新型有料特急は2028年度の導入に向け推進。現在のスカイライナーとは別に押上~成田空港を結ぶ。次期スカイライナーは段階的に増えていく空港輸送の需要増加への対応策として、車両の整備を検討する方針。現在のスカイライナーは8両編成だが、9両以上の長編成化を含めた輸送力増強を視野に入れる。

押上~成田空港を結ぶ新型有料特急のイメージ。【画像:京成電鉄】

成田空港に関連する鉄道構想としては、泉岳寺駅から東京駅付近を経由して押上駅に至る都営浅草線のバイパス線(都心直結線)もあるが、今回の中期経営計画では触れていない。本線・成田スカイアクセス線と同様に成田空港内に乗り入れている東成田線の処遇についても触れなかった。成田空港の機能強化策のなかには貨物地区の移転もあり、これが東成田線の利用状況に影響する可能性がある。京成電鉄の経営統括部は東成田線の将来について「現時点では何も分からない状況」と話し、現状を維持するかどうかも明らかにしなかった。

東成田線の東成田駅(写真は通常使用していないホーム)。【撮影:草町義和】

成田空港は現在、B滑走路の延伸工事とC滑走路の新設工事が進行中。2028年度末にはB・C滑走路の使用を開始する予定だ。続いて現在三つある旅客ターミナルを新旅客ターミナルに統合するワンターミナル化を図り、2030年代に順次使用を開始することが考えられている。

成田空港の年間発着容量は約30万回だが、滑走路の延伸・新設とワンターミナル化による機能強化で2037~2053年には約50万回に増加。旅客数と従業員数は約2倍、貨物取扱量も約1.5倍になると想定されている。

滑走路の延伸・増設や旅客ターミナルのワンターミナル化が図られる成田空港。【撮影:草町義和】

こうしたことから、鉄道を含む成田空港アクセスの強化も課題になっている。有識者で構成される「『新しい成田空港』構想検討会」は2024年7月、現在のJR成田線成田空港支線と京成電鉄の本線・成田スカイアクセス線を新旅客ターミナルに乗り入れさせるなどの構想を取りまとめていた。

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