昭和天皇など皇族が利用した貴賓室が駅舎内にあることで知られるJR桜井線(万葉まほろば線)の畝傍駅(奈良県橿原市)について、橿原市は民間事業者を対象に駅舎などの活用事業の提案の募集を始めた。一時は駅舎解体の方向だったが、一転して保存に向け動き出した。

法人や個人事業主、任意団体などが提案できるが、提案者自身が事業者(運営者)になるか、あるいは提案者がほかの事業者を選定して事業を実施することが条件。駅舎に加え駅前広場などの活用に関する事業の提案を募集している。
まず現地見学会(9月13日締切、9月20日実施)や質問の受付(9月27日締切、10月4日に回答)を実施する。参加表明書の提出期限は10月11日で、企画提案書の提出期限は11月1日。結果公表は12月中旬以降になる。最優秀提案者を交渉権者として事業化に向けた協議を行い、市議会の承認を条件に来年2025年8月ごろまでに事業化を決定。合意内容に基づく整備工事を行い、2028年4月ごろの事業開始を目指す。
畝傍駅は明治期の1893年、大阪鉄道の駅として開業。大阪鉄道はのちに関西鉄道への合併を経て1907年に国有化された。現在の社寺風木造建築の駅舎は1940年の皇紀2600年記念事業にあわせて建造されたもの。近くに橿原神宮や神武天皇陵があることから、これらを参拝する皇族向けに貴賓室が設けられた。橿原市は「市を象徴する誇るべき存在」としている。
畝傍駅は1984年に無人化。近年の利用者数(1日平均の乗車人員)は400人台で推移していた。貴賓室は閉鎖され通常は公開されていない。2017年にはJR西日本が橿原市に対し、老朽化した駅舎の無償譲渡を打診。同市は駅舎の活用策を検討したが、整備に多額の費用がかかることから無償譲渡の受託を断念。一時は駅舎を解体する方向に傾いていた。
しかし今年2024年3月、橿原市は民間資本の活用による駅舎保存の方針に転換。JR西日本に対し改めて無償譲渡を要請していた。橿原市は方針の転換について「新型コロナウィルスの位置づけが5類に移行したことにより経済活動が回復基調となるなど無償譲渡を断念した時点から状況が変わっていること、また駅舎を残したいとの思いを持たれている民間事業者等から複数の活用提案を受けた」ためとしている。
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