熊本市は7月23日、熊本市電で実証実験を実施した顔認証乗車システムについて、本格導入を見送る考えを明らかにした。乗車時間の短縮効果が薄くニーズが少ないうえ、コスト面でも利点が少ないと判断した。
熊本市電では昨年2023年12月から今年2024年3月まで、顔認証乗車システムの実証実験を実施。一部の車両(10編成)にカメラ付きタブレット端末を設置し、事前に顔の画像を登録した人がタブレット端末に顔をかざすと「顔パス」で乗車できるようにした。
熊本市によると実証実験の期間中、401人が登録して228件の利用があった。誤認証や誤決済などの大きなトラブルはなかった。一人あたりにかかった時間を熊本市が計測したところ、現金払いと全国交通系ICカードが2秒だったのに対し、顔認証はそれより長い3.2秒かかった。
また、毎年実施しているアンケート調査のなかで「本格導入したときに利用したいと思うか」と質問したところ「思わない」が66.4%を占めた。その理由としては「既存の決済手段で十分」と回答した人が42.3%で、「顔認証そのものに抵抗がある」という人も24.4%いた。
このほか、顔認証乗車システムを全車両に導入する場合のコストは約6000万円を見込み、これにランニングコストとして固定費は年間800万円、変動費として月9万円かかり、さらに決済手数料もかかるという。
こうしたことから熊本市は「スムーズな乗降に寄与したとは言い難い」「ニーズがあるというのも言い難い」「決して安価な額とはいえない」などとし、現時点での導入は見送るとしている。
全国交通系ICカードは「簡易型」移行か
熊本市電では現在、Suicaなど全国交通系ICカードを利用できるほか、地域限定ICカード「くまもんICカード」とクレジットカードなどのタッチ決済も利用できる。
一方、熊本県内のバス5社は6月、更新コストが高いとして全国交通系ICカードを終了し、2025年4月以降にタッチ決済を導入する計画を発表。熊本市も熊本市電での全国交通系ICカードへの対応を2026年に終了する方針を固めていた。
しかし、市議会や市民から終了に反対する声が挙がっていることから、熊本市は2024年7月23日、簡易型端末の導入案を新たに示した。簡易型端末ではICカードへのチャージはできず、ニモカ定期券にも対応できないが、全国交通系ICカードで乗車することはできる。
熊本市によると、更新コストは全国交通系ICカードを従来通り利用できるようにする場合で約2億円なのに対し、簡易型端末の導入案では約1億9000万円。全国交通系ICカードから離脱する場合は約1億1000万円かかるという。熊本市は今後、2025年度の早い時期に方針を決める考えだ。
※一部情報を追加しました。(2024年7月29日12時40分)
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