スイス・ゴッタルドベーストンネル脱線事故「深刻な被害」完全復旧は1年近く先に



脱線事故で甚大な被害が発生した世界最長の鉄道トンネル「ゴッタルドベーストンネル」は、完全な復旧が1年近く先の来年2024年9月になる見通しだ。スイス国鉄(SBB)が今年2023年11月2日に発表した。

復旧工事が行われているゴッタルドベーストンネル。【画像:(C)SBB CFF FFS】

SBBによると、線路が7km以上に渡って損傷。当初の予想を大きく超える深刻な被害が発生した。2万個以上の枕木と枕木を固定したコンクリートブロックを交換する必要があるほか、高速走行に対応した分岐器や安全運行システムの部品も交換する必要がある。損害額は現時点の推計で約1億~1億3000万スイスフラン(約167億~217億円)という。

復旧作業も当初の予想より大幅に長い時間がかかる見込み。SBBはこれまで完全復旧の時期を数カ月後と見込んでいたが、11月2日の発表では完全復旧の想定時期を2024年9月とした。

ゴッタルドベーストンネルは2016年に開通した、アルプス山脈のゴッタルド峠付近を南北に縦断する鉄道トンネル。東側と西側の単線トンネル2本で構成される。全長は約57kmで鉄道トンネルとしては世界最長だ。ドイツ方面とイタリア方面を結ぶ物流の幹線ルート上にあり、事故前の1日の運行本数は貨物列車が最大で260本、旅客列車は最高速度250km/hで65本だった。

ゴッタルドベーストンネルの位置。【画像:OpenRailwayMap/OpenStreetMap、加工:鉄道プレスネット】

事故は2023年8月10日に発生。北寄りの坑口から約40km、東西トンネルの線路をつなぐ渡り線がある場所で、西側トンネルを走っていた貨物列車の30両編成中16両が脱線した。原因は車軸の損傷とみられている。この影響で線路が損傷したほか、脱線した車両の一部が西側トンネルと東側トンネルをつなぐ渡り線に進入してゲートを破壊した。

事故現場の概略図。西側トンネルを走っていた貨物列車が脱線し、一部の車両は東側トンネルにつながる渡り線に進入した。【作成:鉄道プレスネット、参考:スイス安全調査委員会資料】
線路が撤去されたゴッタルドベーストンネル(西側)の事故現場。西側トンネルと東側トンネルをつなぐ渡り線(右)の線路も撤去された。【画像:(C)SBB CFF FFS】

被害が少なかった東側トンネルの単線運行で暫定的に復旧しており、8月22日から貨物列車の運行を再開。旅客列車はゴッタルドベーストンネルの開通前に整備された山岳地帯の旧線に迂回して運行している。9月29日からは旅客列車も一部が東側トンネルを通るようになった。

東側トンネル経由の列車について、SBBは12月10日のダイヤ改正で平日の貨物輸送と週末の旅客輸送をそれぞれ増強する考え。月~木曜は東側トンネルの運行枠をすべて貨物列車に割り当て、金曜日から日曜日の夕方までは貨物列車と旅客列車を混在して運行する計画だ。

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