リニア中央新幹線「静岡県にもメリット」国交省が調査、経済効果10年で1600億円超



国土交通省の鉄道局は10月20日、リニア中央新幹線の開業後の東海道新幹線について、静岡県にもたらす影響の調査結果を公表した。県内にある東海道新幹線の駅の利用者が増え、大きな経済波及効果が見込まれるとしている。

南アルプストンネルを通って静岡県を通過するリニア中央新幹線のイメージ。【撮影:草町義和、加工:鉄道プレスネット】

調査結果によると、中央新幹線・東京都~大阪市の全線開業で東京~名古屋・大阪の直行輸送需要の多くが中央新幹線にシフト。東海道新幹線の輸送密度は3割ほど減少する可能性があるとした。

これにより東海道新幹線は「のぞみ」など静岡県内の駅を通過する列車が減り、輸送力に余裕が生まれる。調査ではこの輸送余力を活用する形で東海道新幹線の静岡県内6駅(熱海・三島・新富士・静岡・掛川・浜松)に停車する列車が増えるケースを想定。現在の6駅の停車回数は1日あたり33~49本だが、1.5倍ほどの60~80本に増えれば利用者の利便性が大きく向上するとした。

静岡県内6駅の停車回数が1.5倍になるケースのイメージ。【画像:国土交通省】
静岡駅を通過する「のぞみ」。【撮影:鉄道プレスネット(AT)】

静岡駅の場合、現在は最大待ち時間(前の列車が出発した直後に駅に到着)を加えて100分で到達できる範囲に品川駅や名古屋駅は含まれてないが、停車回数が現在の1.5倍になれば品川駅や名古屋駅に100分以内で到達できる。

また、現在の静岡駅の停車回数(1日あたり)は新幹線がおおむね53本なのに対し、在来線はおおむね95本。新幹線への接続がない在来線列車は単純計算で42本になる。一方、新幹線の停車回数が1.5倍ほどの80本になった場合、新幹線への接続がない在来線列車は15本に減少。新幹線と在来線の乗り継ぎ利便性が向上する。

この「停車回数1.5倍ケース」では、静岡県外からの来訪者数が年間で約67万人(1日あたり1830人)増え、県内の新幹線利用者数も年間約71万人(1日あたり1933人)増加。観光などによる消費額は県外来訪者によるものが年間93億5000万円の増加で、県内利用者に由来するものも年間22億1000万円増える。経済波及効果は2037~2046年の10年間で1679億円に及び、年間約1万5600人の雇用効果も見込まれるという。

静岡県内の駅の停車回数が1.5倍になったケースでの経済波及効果。【画像:国土交通省】

中央新幹線・品川(東京都)~名古屋の部分開業では、東海道新幹線の利用者は1~2割ほど減少する可能性があり、静岡県内駅の列車の停車回数を1.1~1.2倍程度にすれば利便性が向上するとした。経済波及効果は2027~2036年の10年間で245~585億円、雇用効果は年間で2300~5400人という。

一方で調査結果は「今後、運営主体であるJR東海において、運行計画を策定するに当たっては、本調査も参考にしつつ、社会・経済情勢や、車両や地上設備などの運行上の諸要素を総合的に勘案される可能性があることに留意」としており、静岡県内6駅の停車回数が増えるかどうかはJR東海次第であることを示唆した。

リニア中央新幹線と東海道新幹線の位置関係。【画像:国土交通省】

中央新幹線は全長約25kmの南アルプストンネルで山梨・静岡・長野3県の山岳地帯を通り抜ける。山梨県と長野県には中央新幹線の駅が新設されるが、静岡県内には駅を設置する計画がない。

2027年の品川~名古屋の部分開業に向け各都県で工事が進められているが、静岡県は計画ルートの近くにある大井川の水量が減少する懸念があるとして南アルプストンネル静岡工区の着工を認めておらず、協議が難航。2027年の開業は難しい情勢だ。国交省は中央新幹線の駅が設けられない静岡県にも経済的なメリットがあることを示すことで、同県との協議を前進させたい考えだ。

《関連記事》
リニア中央新幹線・北品川の調査掘進「また中断」掘削機が一部変形、来春再開へ
新幹線「喫煙ルーム」完全廃止へ 残るは「サンライズ」「四季島」「瑞風」と近鉄