JR東日本「輸送密度」推移(1979~2022)コロナ禍からの回復どこまで進んだ?



JR東日本は7月7日、2022年度の路線別の平均通過人員(旅客輸送密度)を公表した。コロナ禍が収束に向かうなか多くの路線で増加しており、コロナ禍が本格化する前に比べ7~8割ほど回復している。一方で一部のローカル線は回復傾向がみられず、厳しい状況が続いている。

只見線の列車。【画像:leo51/写真AC】

JR東日本が公表したのは、同社が運営する新幹線と在来線の輸送密度。一部の路線は複数の区間に区切った線区別の輸送密度も公表し、新幹線は3路線13線区、在来線は66路線190線区を公表した。この記事では、これに国鉄時代の1979年度(地方交通線は1977~1979年度)や分割民営化時の1987年度、コロナ禍の期間を含む2018~2021年度の輸送密度を加えてリストを作成した。

新幹線は東北新幹線が4万2149人で、前年度2021年度に比べ59%の増加。上越新幹線は3万3341人(54%増)、北陸新幹線・高崎~上越妙高は2万8186人(66%増)だった。コロナ禍が本格化する前の2019年度との比較では71~83%回復した。

東北新幹線の列車。【画像:こうたろう0125/写真AC】

在来線は線区別で見た場合、輸送密度が最も大きかったのは山手線の品川~新宿~田端で87万2143人。2021年度に比べ14%増加し、2019年度(112万1254人)との比較では78%の回復となった。

2位は赤羽線(埼京線・池袋~赤羽)の69万9849人、3位は中央本線の神田~高尾(54万2056人)、4位は東北本線の大宮以南(51万4206人)、5位は東海道本線の大船以北(51万1926人)が続いた。いずれも2021年度に比べ1割以上増加し、2019年度との比較では80%前後まで回復した。

山手線の列車。【撮影:草町義和】

輸送密度が最も小さかったのは陸羽東線・鳴子温泉~最上の44人で2021年度と同じ。宮城・山形県境部の山岳地帯で人口が少なく、2019年度でも79人で100人を割り込んでいた。コロナ禍が本格化した2020年度に41人に落ち込んで以降、回復傾向がほとんどみられない。

陸羽東線の列車。【画像:しげあき/写真AC】

次に小さいのが久留里線・久留里~上総亀山(54人)。2021年度(55人)より微減し、2019年度との比較では6割ほどしか回復していない。JR東日本は2023年3月、地元自治体に対し同区間の「総合的な交通体系に関する議論」を行いたいと申し入れており、鉄道廃止・バス転換を視野に入れた協議が行われるとみられる。

久留里線の終点、上総亀山駅。【画像:放浪のカズ/写真AC】

その次の花輪線・荒屋新町~鹿角花輪は55人。2019年度は78人で2020年度には60人に落ち込み、その後も減少が続いている。同線は秋田県寄りの鹿角花輪~大館が2022年の大雨で長期不通(2023年5月再開)となり、これも減少の一因になっているとみられる。

2022年の大雨では、ほかにも青森県の津軽線・中小国~三厩(2019年度:343人→2022年度148人、運休区間は蟹田~三厩)や、山形県と新潟県を結ぶ米坂線の小国~坂町(2019年度:169人→2022年度:80人、運休区間は今泉~坂町)が長期不通となっており、存廃問題が浮上している。

山田線・上米内~宮古は64人で2021年度に比べ3人増えた。このエリアは古くから所要時間・運賃が山田線とほぼ同じで運行本数が多い急行バス「106急行」のシェアが高く、山田線の利用者は少ない。これに加えて2021年4月に全通した宮古盛岡横断道を経由する「106特急」が運行を開始。「106急行」より所要時間を40分ほど短縮し、山田線の追い打ちをかける格好となっている。2019年度との比較では半分ほどしか回復していない。

東北新幹線・上越新幹線・北陸新幹線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
東海道本線・山手線・赤羽線・南武線・鶴見線・武蔵野線・横浜線・根岸線・横須賀線・相模線・伊東線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
中央本線・青梅線・五日市線・八高線・小海線・篠ノ井線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
大糸線・東北本線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
常磐線・水郡線・川越線・高崎線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
上越線・吾妻線・両毛線・水戸線・日光線・烏山線・仙山線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
仙山線・石巻線・気仙沼線・大船渡線・北上線・釜石線・田沢湖線・山田線・花輪線・八戸線・大湊線・磐越西線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
磐越西線・只見線・奥羽本線・米坂線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
左沢線・男鹿線・五能線・津軽線・羽越本線・白新線・陸羽東線・陸羽西線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
信越本線・飯山線・越後線・弥彦線・総武本線の輸送密度の推移。【作成:鉄道プレスネット】
京葉線・外房線・内房線・成田線・鹿島線・久留里線・東金線の輸送密度の推移。【画像:鉄道プレスネット】

2021年度からの増加率が最も高かったのは、只見線の会津川口~只見で6.6倍近く膨れあがった。2011年の水害で長期不通となっていた同区間が2022年10月に再開し、鉄道マニアや観光客が押し寄せたとみられる。輸送密度自体は12人(2021年度)→79人(2022年度)で、かつて「日本一の赤字線」として有名になった北海道の国鉄美幸線(1977~1979年度で81人、1985年廃止)と同じレベルになっている。

会津若松~只見の再開に際しては上下分離方式を導入。線路施設は福島県が保有し、JR東日本は同県から線路を借りて列車を運行する体制になった。JR東日本は福島県に線路使用料を払う必要はあるが、減免措置を受ける。当面は存続できる体制が整ったものの、通常なら経営が成り立たない線区なのは確かで、長期に渡り存続できるかどうかは福島県の財政次第だ。

増加率2位は成田線の成田空港支線で、2021年度の6400人に対し2022年度1万3897人と2倍以上になった。水際対策の緩和による訪日客の増加が寄与したとみられる。ただし2019年度との比較では5割ほどしか回復していない。

2019年度からの増加率が最も高かったのも只見線の会津川口~只見で、コロナ禍前から3倍近くの増加。2位は上越線・越後湯沢~ガーラ湯沢(上越新幹線のガーラ湯沢支線)で2割ほど増えているが、同線は基本的に冬季限定の営業路線で、2019年度の冬季はコロナ禍が始まったころ。コロナ禍の影響をまったく受けなかった2018年度との比較ではやや少ない。3位は東北本線・黒磯~新白河(116%)で、4位は東北本線・小牛田~一ノ関と只見線・只見~小出(106%)、6位は只見線・会津坂下~会津川口(102%)が続く。

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