JRローカル線「輸送密度2000人未満」全59線データ 国鉄時代と比較



ローカル線の廃止が加速しそうな気配だ。4月から7月にかけJR西日本とJR東日本は輸送密度が2000人未満の線区の収支を開示。沿線自治体との協議を通じてローカル線の「在り方」を検討する考えを示唆した。国土交通省が設置した公共交通の有識者会議も7月、JR各社のローカル線については当面、輸送密度が1000人を下回っている線区を「一つの目安」とし、ローカル線の今後の在り方を検討すべきと提言している。

釜石線の列車。輸送密度は1977~1979年度が3000人台だったが2019年度は1000人を割り込んだ。【撮影:草町義和】

2019年度に輸送密度が2000人未満だったJR線は59線(大糸線と紀勢本線は分割民営化後の運営各社ごとにカウント)。このうち1000人未満の路線は33線で半数を超える。地域的には北海道のほか東北地方と中国地方の山間部に集中している。

これらの路線の国鉄時代はどうだったのか、おもに1977~1979年度と2009年度・2019年度のデータで各線の輸送密度を線名ベースで比べてみた。

輸送密度が2019年度時点で2000人未満だったJR線。【作表:鉄道プレスネット】

路線全体の区間は現在の旅客流動とは必ずしも合致しておらず、とくに長距離の路線では区間によって利用者数に大きな差があることも多い。このためかJR東海を除くJR旅客5社は近年、一つの路線を複数の区間に区切った「線区」ごとに輸送密度を公表している。しかし国鉄時代の輸送密度は線区ベースのデータを入手できなかったため、ここでは線名を基準に比較した。

こうしてみると、輸送密度は全線で大幅に縮小しているのが分かる。留萌本線(北海道)や山田線(岩手県)、陸羽西線(山形県)など10分の1以下に縮小している路線もある。この40年で道路の整備による自動車交通の発達や少子高齢化による人口減少で鉄道の利用者が減ったとみられる。

ただ、1977~1979年度の輸送密度をよく見ると大半の路線が4000人未満で、2000人未満の路線も11線ある。そもそもこの時点で利用者は少なかったのに、かなりの数の路線が存続したことになる。

この頃、国鉄再建法に基づく国鉄線の整理が行われ、同法の施行令で輸送密度による区分を実施。原則として輸送密度が8000人以上の路線を「幹線」とし、経営改善策を実施しても経営が厳しい8000人未満の路線は「地方交通線」とした。

そのなかでもとくに利用者が少ない4000人未満の線区は原則として「特定地方交通線」に指定。鉄道を廃止してバス転換するか、第三セクターなど国鉄以外の事業者に引き継がせることになった。

特定地方交通線として廃止されバス転換された国鉄(JR北海道が暫定継承)名寄本線の上興部駅跡。【撮影:草町義和】

しかし、国鉄再建法では輸送密度が小さい場合でも特定地方交通線に指定しない「除外規定」を設けていた。これはバスへの転換が物理的に不可能なケースがあることを考慮したもの。具体的には次のいずれかに該当する場合、特定地方交通線の指定を免れた。

(1)ピーク1時間あたりの最大旅客輸送人員が1000人以上
(2)代替バスを運行できる並行道路が未整備
(3)代替バスを運行できる並行道路が積雪により1年あたり10日超不通
(4)平均乗車距離が一人あたり30km超で輸送密度が1000人以上

現在存続している2000人未満のJR線の大半は、この除外規定により特定地方交通線の選定から外されている。その一方、同時並行的に進められていた国鉄分割民営化の準備のなかで「除外路線」をどう扱うかの議論はほぼ行われず、そのままJR旅客各社が継承した。

これで除外路線を抱える沿線自治体は「安心」してしまったのか、地域の人口・経済規模や実情に見合った公共交通再構築の検討を行うことがほとんどなかった感がある。JRもコスト削減や観光列車の運行といった活性化策をある程度は講じていたが、地域との協議が十分だったとはいえないだろう。こうしたことが結果的に各線の衰退を加速させた面もあると思われる。

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