熊本空港アクセス鉄道「肥後大津ルートに将来の発展性」知事答弁、建設費安く直通も



熊本県の蒲島郁夫知事は9月16日、ルートの再検討が行われている熊本空港アクセス鉄道について、豊肥本線の肥後大津駅から分岐するルート案が優位とする考えを示した。

豊肥本線の電化区間と非電化区間の接続地点になっている肥後大津駅。【撮影:鉄道プレスネット】

同日開かれた熊本県議会の代表質問で答弁した。蒲島知事は豊肥本線の三里木・原水・肥後大津の各駅と熊本空港を結ぶ三つのルート案について「さまざまな効果まで含めて考えると、私は肥後大津ルートに将来の発展性を感じている」と述べた。

熊本県の企画振興部が9月9日に公表した追加検討の中間取りまとめによると、整備延長は肥後大津ルートが最も短く約6.8km。三里木ルートは約8.8kmで原水ルートは最も長い約9.1kmとした。これにより概算事業費(税抜き)は整備延長が短い肥後大津ルートが約410億円で最も安く、次が約490億円の三里木ルート。原水ルートは約530億円で最大となった。

熊本空港アクセス鉄道の各ルート案。【画像:熊本県】

工事期間は環境影響評価などの準備期間に4年を加えた8年とし、開業時期は2034年度末を想定した。豊肥本線との接続は三里木ルートと原水ルートが列車の乗り換えで、肥後大津ルートは直通運転を行うものとした。

豊肥本線を含む熊本~熊本空港の距離は三里木ルートが最も短い約24.6kmで、これに原水ルートの約28.0km、肥後大津ルートの約29.4kmが続く。所要時間は三里木ルートが最も短く約41分、これに原水ルートの約43分が続き、最長は肥後大津ルートが約44分となった。ただし肥後大津ルートで快速列車を走らせた場合は約39分となり、3ルートのなかで最短になる。

この結果、各ルートの需要は1日あたりで三里木ルートが約5800人と最多。このうち中間駅の利用が約400人あるとした。次に多いのが肥後大津ルートで約4900人だが、快速列車を運行する場合は5500人まで増加する。最も少ないのは原水ルートの約4700人だった。

収支採算性は現行の補助制度(総事業費のうち国と県が18%ずつ補助)においては3ルートとも40年以内に黒字転換しないと予測。一方で国・県の補助率を各3分の1に引き上げた場合、三里木ルートは34年で黒字転換し、肥後大津ルートは36年(快速列車を運行する場合は30年)で黒字になると予測した。原水ルートは補助率を引き上げたケースでも40年以内の黒字転換はないとした。

費用便益比(B/C)の予測でも開業後30年で三里木ルートが1.01、肥後大津ルートが1.03(快速列車を運転の場合は1.21)で社会的効果が事業費を上回る「1」以上となったが、原水ルートは0.72にとどまった。開業後50年のB/Cは三里木ルートが1.18、原水ルートが0.82、肥後大津ルートが1.21(快速列車運転の場合は1.42)。

追加検討の中間取りまとめで公表された3ルートの比較。【画像:熊本県】

半導体メーカーの進出受け再検討

熊本空港アクセス鉄道は三里木ルートを基本に検討され、2019年2月には熊本県とJR九州が同ルートによる整備で基本合意していた。しかし昨年2021年11月、豊肥本線沿線の菊陽町に世界大手の半導体メーカー「台湾積体電路製造(TSMC)」の工場を建設することが決定。熊本県は情勢の変化を受け、改めて3ルート案の検討を行っていた。

熊本空港の滑走路。【撮影:鉄道プレスネット】

三里木ルートの採用を前提とした2019年の熊本県・JR九州の合意内容によると、総事業費は概算で380億円。熊本県の第三セクターが空港アクセス鉄道を整備して施設を保有し、JR九州に列車の運行を委託するものとしていた。豊肥本線は単線で上下列車の交換を行える駅が少なく増発が難しいことから直通運転は行わず、三里木駅での乗り換えを想定していた。

豊肥本線は肥後大津駅を境に熊本寄りが電化区間で大分寄りが非電化区間。熊本寄りを走る電車の普通列車は肥後大津駅で折り返し運転を行っており、大分寄りを走る気動車の普通列車と同駅で連絡している。このため肥後大津ルートを採用した場合、現在運行されている肥後大津発着の列車を熊本空港まで延長することで、運行本数を増やさず熊本~熊本空港を直通運転できるという利点がある。

JR九州とは三里木ルートで基本合意しているため改めて調整が必要だ。しかし今年2022年1月、JR九州の青柳俊彦社長(当時)が肥後大津ルートでの整備を熊本県に提案する考えを明らかにしており、整備ルート自体で調整が難航することはないとみられる。

このほか、熊本地震で被災して一部運休中の南阿蘇鉄道が来年2023年夏頃の全線再開をめどに肥後大津駅に乗り入れることを計画しており、観光客の増加が見込まれる。蒲島知事はこうした点も挙げて肥後大津ルートの優位性を強調。今後は費用負担などについて国やJR九州と協議を進め、県としての方針を早期に固める考えだ。

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