富士山の山麓と5合目を結ぶ「富士山登山鉄道」について、山梨県の構想検討会(会長:御手洗冨士夫)は2月8日、東京都内で理事会を開き、構想案を了承した。
構想案によると、複数のルートと機種を比較検討。富士山有料道路(富士スバルライン)に路面電車タイプの軽量軌道交通(LRT)の軌道を敷設することが「最も優位性が高い」とした。富士山の景観への影響を考慮し、車両への電気の供給は「架線レス方式」を採用。架線や架線柱を設けないものとした。
整備区間は東富士五湖道路の富士吉田料金所に近い胎内交差点から5合目までの約25~28km。勾配は最大で8.8%になる。これにより富士スバルラインは併用軌道になるが、軌道の整備後はバス・タクシーを含む自動車の通行を規制。ただし有事には緊急車両も通行できるようにする。軌道を単線・複線のどちらで整備するかは「専門的かつ多角的な観点から検討が必要」とし、明確な方針は示していない。
駅は起点の山麓駅と終点の5合目駅のほか、登山道などにアクセスするための中間駅が必要とした。山麓駅は既存の交通極点からのアクセスなどを考慮して場所を選定する方針。5合目駅は半地下式を想定した。中間駅は展望景観に優れる場所や、既存の遊歩道などとの結節点に整備。既存の駐車場を有効活用する方針だ。
車両のイメージは1編成の寸法が長さ30m・幅2650mm・高さ3600mm。軌間はバッテリーなどの搭載を考慮して1435mmの標準軌を採用する。最高速度は40km/h(5合目からの下りは25km/h程度)で、急カーブの最低速度は16km/h。登坂性能は8.8%と想定した。座席のみの利用を想定し、1編成の定員は120人とする。所要時間は上り(麓→5合目)が約52分、下り(5合目→麓)が約74分とした。
年間の利用者数は往復運賃を1万円とした場合に約300万人、2万円の場合は約100万人と試算。概算整備費は全長約28kmの複線で中間に4駅(既存の駐車場への設置)を整備し、1編成の長さが30mの車両を48両導入した場合、約1400億円とした。
収支については、往復運賃1万円、年間利用者約300万人、整備費約1400億円とし、事業主体は民間事業者、資金調達は資本金20%と借入金80%、運営経費は国内山岳鉄道の5年平均の実績、設備更新は開業20年目にインフラ外設備の更新を行うものとしてシミュレーションを行ったところ、事業成立の可能性が高いとした。
課題山積、スケジュール示さず
富士山に登山鉄道を整備する構想は古くからあった。国立公文書館の所蔵文書によると、戦前の1920~1930年代には、民間の起業家によるケーブルカー計画の申請が少なくとも3回あったことが確認できる。しかし、富士山が信仰の山であることや環境保護、景観上の問題などから反対意見が多く、国は計画を認めなかった。戦後も1963年に富士急行がケーブルカーの計画を申請したが、自然保護を重視するとして1974年に取り下げている。
今回の構想は、富士山を訪れる登山客や観光客の増加による環境負荷を軽減することを目的に浮上したもの。富士スバルラインを走る自動車を電車に転換すれば排出ガスが大幅に減り、環境負荷の軽減が期待される。
一方で課題は山積しており、構想案では整備スケジュールを盛り込まなかった。架線レスシステムの電車は実例があるものの、それらの多くは自然環境がさほど厳しくない平地の路線に導入されており、厳冬期を含む富士山の厳しい自然環境や急勾配に対応できるかどうかの検証が必要だ。ほかにも、構想案では運営方式や整備財源、富士山が噴火した場合の危機管理などを課題として挙げており、さらなる検討の深度化が必要な状況だ。
地元も一枚岩ではない。富士吉田市の堀内茂市長は2月10日の定例記者会見で、富士山登山鉄道の構想に反対する姿勢を表明。すでに実施されているマイカー規制で一定の効果が上がっており、電気自動車のバスも普及しているとして、別の方策で環境負荷の軽減を図るべきとの考えを示した。
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