熊本空港アクセス鉄道の検討委設置 県「立ち止まる」→「過去調査での課題明らかに」



熊本県は12月11日、熊本空港アクセス鉄道の検討委員会の第1回会合を開いた。鉄道延伸案の是非や経済波及効果などの検討を進める。

熊本空港に乗り入れる列車のイメージ。【撮影・加工:鉄道プレスネット編集部】

検討委は慶應義塾大学商学部の加藤一誠教授やJR九州熊本支社の赤木由美支社長、九州産交バスの森敬輔社長、熊本空港の運営会社「熊本国際空港」の新原昇平社長らで構成される11人。ほかにオブザーバーとして国土交通省九州運輸局鉄道部の白浜和之部長ら2人も参加する。委員長には加藤教授が就任した。

■利用者の増加見込まれ検討再開

熊本市の中心部と熊本空港を結ぶ軌道交通の構想は2004年頃に浮上。2005年度に鉄道延伸や熊本市電の延伸、磁気誘導式の自動運転バス(IMTS)などの交通システムの比較検討調査が行われた。2006年度と2007年度には、JR豊肥本線の三里木駅から分岐して延伸する案について、ルートの選定や事業費、需要量の調査が行われた。しかし2008年6月、多額の費用の割に需要が小さいと判断され、熊本県は検討の凍結を表明した。

熊本空港アクセス鉄道の分岐点として想定されている豊肥本線の三里木駅。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

その後、外国人観光客の利用者増加などを受け、熊本県は2018年度から本格的な検討を再開。2007年度までの検討では、1日の利用者数が2500人とされていたが、2018年度の調査では6900人とされた。また、事業費は鉄道(JR豊肥本線の延伸)が330~380億円、モノレール新設が2500億~2600億円、市電延伸が210億~230億円とされ、鉄道延伸が最も効果的で早期実現の可能性が高いと結論付けられた。

鉄道延伸案はJR豊肥本線の三里木駅で分岐する案のほか、原水駅からの分岐案と肥後大津駅の分岐案も検討。事業費は概算で原水ルートと肥後大津ルートが約330億円で、三里木ルートはそれより50億円高い約380億円とされた、1日の利用者数は三里木ルートが最も多い約6900人、原水ルートは約5900人、肥後大津ルートが約5800人とされ、費用対効果は三里木ルートが最も高かった。

2019年2月には、熊本空港アクセス鉄道の整備に関する基本的方向性で熊本県とJR九州が合意。(1)JR豊肥本線の三里木駅から分岐するルートを採用すること、(2)熊本県が中心になって設立する第三セクターが整備し、JR九州に運行を委託、(3)開通後にJR九州は既存路線増益効果の一部を第三セクターに支出(支出総額の上限は整備費の3分の1)するものとした。

また、豊肥本線への乗り入れについては「肥後大津・阿蘇方面の豊肥本線利用者の利便性維持のため」行わないとしつつ、豊肥本線への乗り入れを検討する場合は「負担等の一切を県が負う」として、乗り入れの可能性に含みを持たせた。

■2019年度の詳細調査で事業費増加

一方、2019年度の詳細調査では、三里木~県民総合運動公園付近(中間駅設置)~熊本空港間を結ぶ3ルート4案を比較検討。熊本駅から空港までの所要時間は約39~40分、1日の利用者数は約7500人とされたが、事業費は437億~561億円とされ、いずれの案でも従来の調査より事業費が大幅に増えた。国・熊本県・JR九州がそれぞれ3分の1ずつ費用を負担する場合は開業後40年以内の累積収支が黒字になるとしたが、一方で費用便益の分析では「改善すべき課題が判明」したとして具体的な数値を算出できなかった。

詳細調査で検討された3ルート4案の位置。【画像:熊本県】

こうしたことから熊本県の蒲島郁夫知事は、今年2020年6月の県議会定例会の本会議で「事業化の判断については、いったん立ち止まる」と答弁したが、9月の定例会本会議では「『いったん立ち止まる』と答弁したのは、まず昨年度調査の課題を明らかにする必要があると考えたため」「コロナ禍による社会の変化などを検証し、有識者からも意見を聴く必要があると考えたため」などとし、検討委の設置を表明した。

熊本県は現在、事業費の縮減に向けた検討を進めており、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)に検討を委託(委託期間:2020年7月31日~2021年3月26日)している。また、鉄道以外による公共交通の比較検証もトーニチコンサルタントに委託(委託期間:2020年9月9日~2021年3月26日)。以前検討した市電やモノレールのほかバス高速輸送システム(BRT)も含めて検討を行っている。

今年2020年12月11日に開かれた検討委第1回会合の内容を報じた熊本日日新聞の記事によると、訪日客はJRを自由に乗り降りできるフリー切符を使う人が多いため鉄道でつながるメリットが大きいとする意見が委員から出た一方、ほかの交通機関に対して鉄道が優位となる理由をはっきりさせないと県民の理解が得られないとする意見も出た。第2回会合は来年2021年3月をめどに開き、熊本県内への経済波及効果などを議論する予定。6月頃の第3回会合で事業化の是非を協議するという。