富山地鉄の路面電車、上滝線への乗り入れ「優先順位は大きく後退」富山市長が答弁



富山市の森雅志市長は12月7日、富山地方鉄道(富山地鉄)が運営する富山市内の路面電車(富山軌道線)の上滝線への乗り入れ構想について、早期の実現は困難との考えを示した。同日開かれた富山市議会本会議で、自民党の竹田勝議員からの質問に答えた。

富山地鉄の南富山駅(南富山駅前停留場)。路面電車の奥のほうに上滝線の線路とホームがある。【撮影:草町義和】

森市長は「(実現に向けた)思いはいまも変わらないが、状況が大きく変わった」とし、新型コロナウイルスの影響で富山地鉄の売り上げが大幅に落ち込んでいることや、富山駅付近の連続立体交差事業(連立事業)の完成を国から強く言われており、富山地鉄の本線の高架化が残っていること、常願寺川にかかる地鉄の橋の改修・補強も新たな問題として浮上していることを挙げた。

そのうえで「地鉄にしてみると、取り組むべき課題の優先順位からいうと、上滝線の検討については大きく後退してしまっている現状にある」とし、まずは富山地鉄の経営改善が必要との見方を示した。

一方で乗り入れの協議については「途絶えることのないように連携していく。中断させるとよくないと思っているが、地鉄はいま期待できる状況にはない」とした。

■「電圧」「高速走行」技術的課題も

富山軌道線は富山大学前~南富山駅前間などを結ぶ路面電車線。南富山駅前停留場で、南富山~岩峅寺間を結ぶ富山地鉄の鉄道路線(上滝線)と連絡している。上滝線は不二越線などを経由して電鉄富山駅(富山駅に隣接)に乗り入れる列車が運転されているが、富山軌道線からの乗り入れ運転が図られれば、上滝線から乗り換えなしで富山市中心部の各エリアに直接アクセスできるようになる。

南富山駅の上滝線ホーム。中央やや左奥に路面電車が見える。【撮影:草町義和】

乗り入れ構想は2007年に浮上。富山市が同年策定した公共交通活性化計画に盛り込まれ、同市は調査や富山地鉄との協議を行ってきた。2014年3月の時点では、富山市は2020年以降の乗り入れ開始を目指していた。

今年2020年12月7日の定例会本会議では森市長のほか、活力都市創造部の中村雅也部長が昨年度2019年度に行った検討内容について答弁。解決の見通しが立っていない技術的な課題のうち、電圧の違いと上滝線内での路面電車の高速運転について、車両メーカーのヒアリングを実施したと話した。

架線電圧は富山軌道線が600Vなのに対し、上滝線は1500V。現在の富山軌道線の路面電車が上滝線に乗り入れることはできず、600Vと1500Vの両方に対応した電車(複電圧車)が必要だ。複電圧車の開発について中村部長は「技術的には可能だが、多額の費用を要することを確認している」と述べた。

このほか、最高速度は富山軌道線が40km/hなのに対し、上滝線は70km/h。低床車両を上滝線で70km/hの速度で走らせた場合に安全性の課題があるといい、「低床車両は重心が高く、安定性に劣る。上滝線では鉄道車両のみ走っている現状より高い水準の保守・管理が求められるようになり、走行試験により安全性を判断する必要もある」とした。

南富山駅から発車する上滝線の岩峅寺行きの列車(右)。【撮影:草町義和】
富山軌道線(赤)からの乗り入れ構想がある上滝線(青)。【画像:国土地理院地図/加工:鉄道プレスネット編集部】

中村部長はさらに、「これら(車両メーカーのヒアリング)を踏まえて交通事業者(富山地鉄)と協議した結果、乗り入れ後についても相当厳しい収支の状況であると推測される」とし、まずは上滝線の利用者増加に向けた取り組みが必要との認識を示した。