「りんかい線は1年間の売り上げの半分をコミックマーケット(同人誌即売会、コミケ)で稼いでいる」という話が、SNSで流れていた。りんかい線の年間運賃収入の半分をコミケ参加者が占めている、という意味だ。
りんかい線は、京葉線の新木場駅から東京国際展示場(東京ビッグサイト、東京都江東区)などがある東京臨海副都心を経由し、埼京線の大崎駅(品川区)までを結ぶ、全長12.2kmの鉄道路線。東京都やJR東日本などが出資する第三セクターの東京臨海高速鉄道が運営している。1996年に新木場~国際展示場~東京テレポート間が開業し、その後2002年までに全通した。
コミケ会場のビッグサイトは、りんかい線の国際展示場駅から約500mのところにあり、ゆりかもめ社の東京臨海新交通臨海線(新交通ゆりかもめ)とともに、ビッグサイトへの主要なアクセス交通機関となっている。当然、コミケの開催期間中はコミケの参加者の多くがりんかい線やゆりかもめを使う。
実際、コミケの開催期間中は駅構内が激しく混雑し、国際展示場駅からビッグサイトまで長い行列ができているのを、私も何度となく見てきた。コミケ開催期間中はりんかい線・ゆりかもめともに、列車を増発する。
■実際は非常に小さかった
しかし、年間の売り上げの半分を占めるほど、コミケ参加者の存在はりんかい線にとって大きいものなのだろうか。
2019年度の夏季コミケ(8月9~12日)と冬季コミケ(12月28~31日)をあわせた参加者総数は、合計8日間で148万人とされる(コミケの公式ウェブサイトより)。これに対してりんかい線の2019年度の乗車人員は、9470万5820人(東京臨海高速鉄道の2019年度決算概要に記載されている1日あたり乗車人員から推定)。コミケ参加者の63倍だ。
仮にコミケ参加者が全員、会場へのアクセスでりんかい線を1往復利用したとしても、同線の利用者全体に占める割合は約3.2%に過ぎない。コミケ参加者の多くは単価が高い定期外客(定期券以外の切符を利用する客)だろうから、運賃収入における割合はもう少し上昇するだろうが、それでも売り上げの半分にはほど遠いだろう。
■開業直後も調べてみたら……
ただ、いまはともかく、開業したばかりのころなら、コミケ参加者が占める割合はもっと大きかったかもしれない。りんかい線の新木場~東京テレポート間が開業したころ、沿線の東京臨海副都心はほぼ未開発の状態。オフィスビルや観光スポットなどがほとんどなく、りんかい線を毎日のように利用する通勤客はかなり少なかった。
新木場~東京テレポート間は1995年度が終わろうとしていた1996年3月30日に開業しているから、実質的な開業初年度は1996年4月1日以降の1996年度。コミケもこの年度の夏から会場をビッグサイトに移している。
そこで運輸省の統計資料(鉄道局監修『鉄道統計年報』)をあたってみたところ、りんかい線の1996年度の輸送人員は558万2000人。一方、コミケの公式ウェブサイトによると、1996年度の夏冬4日間あわせたコミケ参加者数は57万人だった。仮に参加者全員がりんかい線で1往復したとすれば、コミケ参加者の輸送人員は114万人になり、年間輸送人員の約20%を占めていたことになる。
実際はりんかい線だけでなく新交通ゆりかもめもすでに開業していたし、ほかにも路線バスや水上バスがあったから、20%はおろか10%にも満たなかっただろうが、少なくともいまよりはコミケ参加者の占める割合はかなり高かったに違いない。
本年度2020年の夏季コミケは東京オリンピック・パラリンピック開催の影響を受け5月開催に前倒しされたが、新型コロナウイルスの影響を受け中止に。冬季コミケもこのほど中止が発表された。りんかい線も、本来ならコミケ参加者輸送にオリンピック観戦輸送も加わり、利用者は大幅に増えるはずだったが、どうやら大幅な減少は避けられそうにない。