JRの会社名「旅客」が含まれている理由 貨客分離だけじゃない、ある大手私鉄の存在



日本の北海道から九州まで網羅する鉄道網「JR」は「Japan Railways」の略称。旅客運送を担う地域別の旅客6社と全国一元で貨物運送を担う貨物1社に分かれており、資本関係はないが「JRグループ」を構成している。もともとは全国一元経営の国鉄を分割民営化したもの。旅客6社は「JR東日本」など「JR」に地域名を付けた名称で旅客列車を走らせ、貨物1社は「JR貨物」として旅客6社から線路を借りて貨物列車を運行している。

JR線を走る電気機関車(1999年)。国鉄時代に製造されたものだが、分割民営化に伴い「JR」のロゴマークが貼り付けられた。【撮影:草町義和】

ただし、正式な会社名は「JR○○」ではない。たとえばJR北海道の場合、会社名は「北海道旅客鉄道」で、地域名+旅客+鉄道の組み合わせになっている。ほかの旅客5社も同様で、JR東日本なら「東日本旅客鉄道」、JR東海は「東海旅客鉄道」。全国一元経営のJR貨物の会社名は「日本貨物鉄道」だ。

国鉄は1987年の分割民営化で旅客6社と貨物1社に分かれた。当時、会社名に「旅客」を入れた鉄道会社は存在せず珍しかったが、旅客と貨物を分ける貨客分離を行ったのだから、会社名に「旅客」「貨物」を入れるのは不自然とはいえない。ただ、旅客6社の社名に「旅客」の2文字を入れたのは、ほかにも理由があった。

国鉄は新幹線の建設や大都市圏の鉄道整備などで巨額な債務を抱えたうえ、自動車や航空などほかの交通モードの発達などによる収入の減少もあって、経営が極度が悪化。末期には毎年1兆円の赤字を垂れ流していた。このため政府は1982年、国鉄分割民営化の方針を決定。分割民営化の具体的な方法は1983年に発足した国鉄再建監理委員会で検討された。こうして1985年、国鉄再建監理委は国鉄を旅客6社と貨物1社に分割民営化することを答申する。

この答申では、旅客運送を行う会社を「旅客鉄道会社」、貨物運送を担う会社を「鉄道貨物会社」と呼称。さらに旅客鉄道会社は地域別に「北海道会社」「東日本会社」「東海会社」「西日本会社」「四国会社」「九州会社」と呼称した。

答申で使われている各社の会社名は仮称のようなものだったが、運輸省(現在の国土交通省)はこの名称をそのまま受け継ぐ方向で会社名を検討した。しかしここで問題となったのが、おもに北陸・近畿・中国の国鉄線を引き継ぐ西日本会社、つまり現在のJR西日本の会社名だった。

中国地方の国鉄線はJR西日本が引き継いだ(写真は山口線)。【撮影:草町義和】

西日本会社の場合、鉄道会社の名称として一般的な「地域名+鉄道」を採用すると「西日本鉄道」になるが、これでは九州の福岡を中心にバス・鉄道事業を展開している大手私鉄の西日本鉄道(西鉄)と同じになってしまう。そこで「旅客」の2文字を加えることが考え出され、ほかの旅客5社も「旅客」を加えることで統一された。こうして西日本会社の会社名は「西日本旅客鉄道」になった。

西鉄の天神大牟田線を走る列車。【撮影:草町義和】

それでも似たような名称で不正競争防止法に抵触する可能性があると考えられたことから、政府は内閣法制局を中心に検討を進めた。その結果、西日本会社と西鉄は営業範囲が異なっているとし、さらに利用者が間違えないよう略称を工夫するなどの配慮を行えば問題ないと判断している。

福岡には西日本会社も山陽新幹線で乗り入れるから、営業範囲が完全に異なっているとは言い難いように思うが、ガッツリかぶっているわけではないし、略称の工夫で対応できると考えられたのかもしれない。

ちなみに、会社名が公にされたのは1986年2月21日のこと。この日の『朝日新聞』東京夕刊によると、西日本旅客鉄道という会社名について「西日本鉄道も新会社の社名を了承した」というから、会社名の検討に際して西鉄への事前の根回しがあったようだ。

《関連記事》
賛否両論「ハピラインふくい」まだある珍しい理由 福井の並行在来線を引き継ぐ三セク
特急「やくも」新型273系に「ちょっとした遊び」案内表示で列車の歴史を再現