開業まで残り1週間を切った、路面電車タイプの軽量軌道交通(LRT)「宇都宮芳賀ライトレール線」(芳賀・宇都宮LRT)で8月21日、報道関係者向けの試乗会が行われた。開業初日の8月26日は午後から一般運行が始まる。

試乗会ではHU300形電車「ライトライン」のHU306編成とHU307編成を使用。記者は平石停留場を9時10分に発車する上り宇都宮駅東口行き(HU307編成)に乗り込んだ。「ライトライン」は軌道や停留場の地上施設と同様、宇都宮市と栃木県芳賀町が保有。第三セクターの宇都宮ライトレールが両市町から「ライトライン」を借り受けて運行する。



陸橋も走る鬼怒通りの路面電車
宇都宮駅東口停留場には9時25分ごろに到着。JR宇都宮駅と1年前にオープンしたばかりの大型複合施設「ウツノミヤテラス」に挟まれる格好で島式ホーム1面2線を設けている。ここでHU307編成は下り芳賀・高根沢工業団地行きに変わり、9時34分ごろに発車。ウツノミヤテラスの脇を通り抜け、鬼怒通りを東に進んだ。



道路の中央に併用軌道を設置。上下線のあいだに柵と架線柱を設けている。途中停留場のホームは屋根付きで2面2線だが、交差点を挟んで互い違いに配置されている。信号機には路面電車用の矢印信号が追加されていた。その姿は各地の路面電車と大差ない。とはいえ施設はどれも真新しく、歴史の古い路線が多い日本の「路面電車界」では異質な存在といえる。
車内は思っていたほどうるさくなく振動も小さい。2本のレールはコンクリート製の道床版に設けられた溝に樹脂を流し込んで固定されており、騒音や振動を軽減しているという。



駅東公園前停留場を過ぎると、HU307編成は峰町交差点をまたぐ陸橋に入る。この陸橋は以前からあり、補強工事を行って軌道を敷設した。陸橋を通る路面電車はかつて京都市電など各地にあったが、それらはすべて廃止されており、宇都宮で久しぶりに復活することになる。



高架橋から「快速対応」の停留場へ
宇都宮大学陽東キャンパス停留場を過ぎてしばらくすると軌道だけ上り勾配になり、右カーブして鬼怒通りの南側車線をまたぐ。軌道はレールの下に枕木と砕石(バラスト)を敷いた「普通の鉄道」に変化。併用軌道から専用軌道に移る。すぐに下り勾配になって左カーブすると、平石停留場に到着した。




平石停留場は車両基地につながる軌道が分岐するほか、島式ホーム2面4線の配置が路面電車では珍しい。芳賀・宇都宮LRTでは各駅停車のほか一部の停留場のみ停車する快速も運行する計画があり、平石停留場で各停を待避させて快速を先行させることになるはず。ただし開業時は各停のみで、快速の運行は2024年以降になりそうだ。

鬼怒川の雄大な流れ
平石停留場を発車してしばらくすると、車窓に鬼怒川の雄大な流れが広がった。その前後は田園地帯で、まるでローカル線の風情。市街地の公共交通というイメージが強い路面電車の車窓とは思えない。鬼怒川を渡った先は周囲の田んぼや集落より高い位置に軌道を設けており、飛山城跡停留場も高架駅のようになっている。






「実質専用軌道」で工業地帯を走行
相対式ホーム2面2線の清陵高校前停留場で丘陵部の清原工業地帯に入る。ここからは道路と一体化した併用軌道のはずだが、実際は道路の片側に枕木・バラストの複線軌道を整備しており、実質的には専用軌道だ。

清原地区市民センター前停留場の北側には各種交通の乗り継ぎ拠点となる交通結節点(トランジットセンター)が整備され、バス停留所やタクシー乗り場、パーク&ライドの駐車場が見える。軌道はここで北に向きを変え、道路の東側に設置した枕木・バラストの専用軌道を進む。


グリーンスタジアム前停留場は、Jリーグの栃木SCがホームグラウンドとして使用している栃木県グリーンスタジアムの最寄停留場。交差点を挟んで下りホームが南側、上りホームが北側に配置されており、上下ともに島式ホームで快速と各停の接続が可能だ。
また、下りホームと上りホームをつなぐ渡り線が設けられており、折り返し運転が可能。所定ダイヤでもグリーンスタジアム前発着の列車が設定されているが、試合や大規模イベントの実施時には臨時増発も行われるだろう。


ロードサイド店舗のなかを走る
さらに北上して軌道は高架橋へと移り、野高谷交差点の脇を通り抜けて鬼怒通りに合流。ゆいの杜西停留場で再び道路の中央に軌道を敷設した併用軌道に変わって東に進む。



このあたりから「ゆいの杜」というニュータウンのエリアに。道路の両脇は住宅だけでなくロードサイド店舗も多く、自家用車でのアクセスを前提に開発されたことが分かる。こうした地域で路面電車のような公共交通が定着するのかどうか、気になるところだ。


60パーミルの勾配を抜けて終点へ
ゆいの杜東停留場を過ぎて宇都宮市から芳賀町に入り、周囲は工業団地になる。芳賀町工業団地管理センター前停留場で向きを変えて北上。この先は丘陵部に挟まれた谷間を通り抜けるため60パーミルという急勾配になり、1997年に廃止された信越本線・横川~軽井沢(碓氷峠、66.4パーミル)に匹敵する。ちなみに「ライトライン」は法令上の限界値である67パーミルまで対応できるよう設計されており、急勾配を難なく通過した。


この急勾配を抜けて10時21分ごろ、終点の芳賀・高根沢工業団地停留場に到着。宇都宮駅東口停留場からここまで14.5km、47分ほどかかった。この停留場は正式な名称が決まるまでの仮称が「本田技研北門」で、すぐそばに本田技研の事業所がある。


宇都宮市から芳賀町にかけて連なる工業団地は自家用車で通勤する従業員が多く、本田技研など工業団地に事業所を構える企業も宇都宮駅と工業団地を結ぶ通勤用の送迎バスを多数運行している。このため、宇都宮市の市街地と工業団地を結ぶ道路は朝ラッシュ時の渋滞が激しい。自家用車や送迎バスで通勤している人がLRTにシフトし、道路渋滞の緩和につながるかどうかが大きな注目点の一つといえる。


開業初日の8月26日は午前から開業イベントが開催され、一般運行は15時開始の予定。混雑が予想されることから、15~16時台の宇都宮駅東口停留場からの乗車は乗車時間を指定した整理券が必要で、当日朝から配布される。
※車内や車窓は2023年8月21日、車外は2023年8月20・21日に撮影。
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