芳賀・宇都宮LRT「HU300形」形式の意味は? 将来の「直通・延伸・増強」考慮



報道陣に公開されたHU300形「ライトライン」の第1編成。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

宇都宮芳賀ライトレール線(芳賀・宇都宮LRT、2023年3月開業予定)に導入されるHU300形電車「ライトライン」。開業まであと2年弱だが、第1編成がこのほど完成して報道公開された。法令上認められている「限界」まで車体を大きくして輸送力を高めただけでなく、さらなる増強の可能性も考慮している。

芳賀・宇都宮LRTは宇都宮市と栃木県芳賀町が軌道と車両を保有し、第三セクターの宇都宮ライトレールが両市町から軌道・車両を借り入れて運行する公設型上下分離方式。HU300形も宇都宮市・芳賀町が保有し、宇都宮ライトレールに貸し付ける。

HU300形は3両編成(3車体連節)の低床車両。製造元は新潟トランシスで、同社はこれまでにも3車体連節の低床車両である福井鉄道F1000形電車を製造している。

軌道法に基づく車両設計認可は2018年11月に申請し、翌2019年3月に取得した。第1編成の3両の番号は、宇都宮駅東口寄りからHU301-A+HU301-C+HU301-B。パンタグラフはHU301-Aに搭載されている。

既存路線への直通も視野

車体外観は黄色と黒の2色でデザイン。黄色は宇都宮の別名「雷都(らいと)」にちなんだ稲妻を表現した、芳賀・宇都宮LRTのシンボルカラーだ。黒は黄色を引き立たせるために用いられている。先頭部は軽量軌道交通(LRT)の「L」をモチーフにした色使いと流れるような形状を採用した。乗降用のドアは片側4カ所に設けている。

軌間は1067mmの狭軌で、架線電圧は直流750V。低床車両の場合は1067mmより広い標準軌の1435mmのほうが製造上の制約は少ないはずだが、芳賀・宇都宮LRTは周辺の既存路線への直通運転の可能性も考慮して1067mmを採用した。実際、東北新幹線を除くと周辺の路線はすべて1067mmだ。

ただ、JRの東北本線(宇都宮線)・日光線と東武鉄道の宇都宮線・日光線は架線電圧が直流1500V。750VのHU300形がそのまま直通することはできず、仮に直通運転を実現させるなら複電圧車に改造する必要がある。JR烏山線と真岡鉄道真岡線は電化されておらず、路線自体の電化が必要だ。

芳賀・宇都宮LRTの周辺にある既存路線は東北新幹線を除き軌間1067mmの狭軌を採用している。写真は東武宇都宮線。【撮影:草町義和】

勾配は67パーミルまで対応。軌道法の軌道建設規程で定められた限界値だ。軌道運転規則では車両の運転速度が最高40km/h、平均30km/hと定められており、HU300形も法手続上の最高速度は40km/hとなっている。

「法令の原則」ギリギリのサイズ

1編成の寸法は長さ29.52mで、HU300形とほぼ同じタイプの福井鉄道F1000形より約2.4m長い。軌道法の軌道運転規則では、車両を連結して運転する場合の長さを原則として30m以内にしなければならないと定めており、これも法令上の限界に近い長さだ。特別な認可を受けた車両を除くと、国内の低床車両の路面電車としては最大級の長さを誇る。幅も国内低床車両では最大級の2650mmを確保した。

HU300形と同じ新潟トランシス製、3車体連節低床車両の福井鉄道F1000形。【撮影:草町義和】
HU300形はF1000形より約2.4m長い。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

高さ(パンタグラフ折り畳み時)はF1000形より約190mm高い3625mmで、これは芳賀・宇都宮LRTの宇都宮駅西口側への延伸構想を考慮して設定された。現在の構想では、宇都宮駅東口停留場からJR在来線の上と新幹線高架橋の下を通って同駅の西口に抜けて延伸する。在来線・新幹線との立体交差があるため、車両の高さもそこを通り抜けられるよう設定する必要があった。

法令の限界ギリギリまで車両を大きくしたことにより、定員は国内の低床車両では最大となる約160人(うち座席50人)を確保。座席は標準的な鉄道の通勤電車と同程度の幅を確保しつつ、可能な限り座席数を増やしたという。実際に報道公開で車内を見て回ったところ、思っていたほどには狭さを感じなかった。

車内も外観と同様、黄色と黒をベースにデザイン。窓のロールカーテンは宇都宮の伝統工芸「宮染め」のイメージでデザインした。車椅子スペースは1編成につき2カ所(運転台後方)に設置。中間車にもフリースペースを1カ所設けた。フリースペースはベビーカーや大型荷物の持ち込みなどに対応するが、自転車の持ち込みへの対応も今後検討し、必要に応じて自転車を固定する設備などを整備する考えという。

法令の「原則限界」まで車体を長くして定員を約160人としたHU300形の車内。【画像:鉄道プレスネット編集部】
フリースペースは自転車持ち込みへの対応も検討する。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

運賃収受はワンマン方式を採用し、運転台の後方に運賃箱が設置されている。ただし、すべてのドア付近にICカードリーダーを設置しており、ICカードを使えば運転台まで移動することなく、中間車のドアからも乗り降りできる。全ドアへのICカードリーダー設置は日本では初めてという。芳賀・宇都宮LRTではICカードでの利用を基本とすることで、速達性・定時性や利便性の向上を狙う。

「1」「2」飛ばして「3」の意味

「301」という数字が将来「401」に変わることはあるのだろうか。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

なお、HU300形は中間車を増結して4両編成(4車体連節)にできるよう準備されている。また、法手続上の最高速度は40km/hだが、性能上の最高速度は70km/hだ。4両編成への増強や70km/hでの運転は特別な認可を受ける必要はあるものの、将来の輸送力増強も視野に入れて開発されたといえる。

ちなみに、形式名のアルファベットの意味は、宇都宮ライトレールが事前に公式ツイッターで明らかにしており、「H」は芳賀(Haga)、「U」は宇都宮(Utsunomiya)にちなんでいる。

新線に導入される最初の車両では、形式名の数字に「1」を使うことが比較的多いが、HU300形は「1」「2」を飛ばして「3」を使っている。報道公開時に関係者から聞いたところ、「3」は3両編成(3車体連節)を意味しているという。仮に将来4両編成に増強した場合、増結車のみ「HU400」とするのか、それとも編成全体を改番するのかどうか、気になるところだ。

HU300形は計17編成が導入される計画。現在は車両基地に搬入された第1編成のほか、第2~8編成が製作中だ。

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