「青春18きっぷ」で乗れる列車・路線 昔は乗れたが「いまは乗れない」ケースも



夏季用の「青春18きっぷ」の発売が7月1日から始まった。7月20日~9月10日の期間、JR線の普通列車が乗り放題の企画切符。一人1日分を1回とし、1枚で5回分がセットになっている。一人で5日間利用したり、5人が同一行程で1日利用したりすることができる。

JR線を走る普通列車。【撮影:鉄道プレスネット】

発売額は1万2050円で1回あたりでは2410円。普通列車の速度や乗り継ぎ時間にもよるが、早朝から深夜まで乗り続ければ1日で1000km以上移動することも可能だ。1000kmだと所定運賃は本州JRの幹線で1万2000円程度だから、「青春18きっぷ」を使えば実質8割引くらいになる。

発売から40年が過ぎて一般にも定着し、鉄道マニアでなくても「青春18きっぷ」といえば「普通列車が乗り放題の格安切符」というイメージを持っている人は多いだろう。ただ、「青春18きっぷ」で乗れる列車や路線はこの40年間で変化しており、特例の新設などもあって、昔は利用できたがいまは乗れないケース、あるいはその逆も生じている。

利用できるのは「原則三つ」

「青春18きっぷ」で利用できるのは、原則として次の三つだ。

(1)JR線の普通列車の普通車自由席
(2)JRのバス高速輸送システム(BRT)
(3)JR西日本宮島フェリー

(1)は一般に知られている通りだが、JRでは快速列車も営業上は「普通列車の仲間」としているから「青春18きっぷ」で乗車できる。「新快速」や「特別快速」を名乗る快速列車も同様だ。

快速列車も「青春18きっぷ」で利用できる。写真は東海道本線(JR京都線)を走る新快速。【撮影:草町義和】

ただし、利用できる座席は普通車自由席のみ。それ以外の座席は「青春18きっぷ」だけでは乗れない。

普通車指定席は、指定席券を追加で購入する必要がある。グリーン車自由席も同様で普通列車用の自由席グリーン券を追加購入すれば利用できる。「ホームライナー」などと呼ばれている座席指定・定員制の快速・普通列車も、指定席券や整理券を追加購入すれば利用可能だ。

一方、グリーン車指定席はグリーン券を追加購入しても乗れない。

山口線のSL列車「SLやまぐち号」は「青春18きっぷ」で利用できる快速列車の扱い。ただし5両編成のうち4両が普通車指定席で、残り1両はグリーン車指定席。普通車自由席は連結されていない。普通車指定席は指定席券を追加購入すれば「青春18きっぷ」で乗れるが、グリーン車指定席は利用不可だ。

「SLやまぐち号」の普通車指定席。指定席券を追加購入すれば利用できる。【撮影:草町義和】
「SLやまぐち号」でもグリーン車はグリーン券を購入しても「青春18きっぷ」は使えない。【撮影:草町義和】

特急列車、急行列車は座席の種別にかかわらず、特急券などを追加購入しても「青春18きっぷ」では利用できない。すべての列車が特急の新幹線も同様だ。山陽新幹線の車庫回送線を活用した通勤路線の博多南線・博多~博多南(福岡県)は営業上は在来線扱いだが、列車はすべて特急のため「青春18きっぷ」では利用できない。

新幹線や特急・急行列車は座席の種別にかかわらず特急券などを追加購入しても利用できない。写真はJR九州の特急列車。【撮影:鉄道プレスネット】

BRTやフェリーも乗れるが……

(2)のBRTとは、線路敷地を再整備したバス専用道を走るなどして高速輸送を行うバスのこと。「青春18きっぷ」では、JR東日本が運行する気仙沼線BRT(宮城県)と大船渡線BRT(宮城県・岩手県)を利用できる。また、災害などで列車が運休している区間の代行バスも基本的には普通列車扱いで運行されており、「青春18きっぷ」で乗車可能だ。

ただし、BRT以外のJRバスは「青春18きっぷ」では利用できない。「かしてつバス」(茨城県)などJR以外のバス会社が運行しているBRTも、当然ながら利用できない。

バス専用道を走る気仙沼線BRTのバス。【撮影:草町義和】

2017年の水害で不通になった日田彦山線の添田以南(福岡県・大分県)は、「青春18きっぷ」でも利用できる代行バスが運行中。ただ、鉄道の復旧は断念されBRTに移行することになっており、今年2023年8月28日に日田彦山線BRT(BRTひこぼしライン)として再スタートを切る予定だ。

JR九州の東京支社は鉄道プレスネットの取材に対し、「青春18きっぷ」でBRTひこぼしラインを利用できるかどうかは「まだ未定となっている」と回答した(7月12日時点)。

《続報記事》
日田彦山線BRT「青春18きっぷ」など利用OK 取扱いできない切符も(2023年7月20日)

(3)は広島県内のJR系フェリーで、かつては国鉄~JR西日本直営の鉄道連絡船。宮島口フェリー乗り場(山陽本線の宮島口駅から徒歩約6分)と宮島(厳島)を結んでいる。

宮島口~宮島を結ぶ船は、ほかにも広島電鉄系の宮島松大汽船が運航しているが、こちらは「青春18きっぷ」では利用不可。JR九州高速船が運航する福岡~韓国(釜山)航路も利用できない。

宮島口~宮島を結ぶ船はJR西日本宮島フェリーのみ「青春18きっぷ」で利用できる。【画像:丸岡ジョー/写真AC】

勘違いしやすい「旧国鉄・旧JR」の鉄道

「青春18きっぷ」はJR線の企画切符だから、当然ながらJR以外の事業者が運営する私鉄や地下鉄、第三セクター鉄道などは原則として利用できない。

とくに「かつて国鉄・JR線だった第三セクター鉄道の路線」は勘違いしやすい。これらの路線の多くは、以前は「青春18きっぷ」で利用できたが、第三セクター化で利用できなくなった。昔は「青春18きっぷ」で利用できたからといって、いまも利用できるとは限らないのだ。

これらの路線のなかには、経営移管後もJR時代と同じ車両を使っていたり、あるいはJR線からの直通列車が運行されていたりすることもあるため、うっかり「青春18きっぷ」で乗ってしまい、現地でトラブルになるケースもあるから注意が必要だ。

かつてJR鹿児島本線だった肥薩おれんじ鉄道線は「青春18きっぷ」では利用できない。【画像:K.M=KARIBITO/写真AC】

ただし、JR線に乗り入れている私鉄や第三セクター鉄道などの普通列車は、JR線内であれば「青春18きっぷ」で利用できる。

北越急行が運営するほくほく線(新潟県)の場合、同線の普通列車の一部はJR東日本の上越線・越後湯沢~六日町と信越本線・犀潟~直江津に乗り入れている。上越線や信越本線の範囲内であれば、たとえ車両が北越急行のものだとしても「青春18きっぷ」で利用できる。

注意したいのは、JR線に乗り入れているように見えて、営業上は「並行する別事業者・別路線の扱い」になっている場合だ。利用できるケースと利用できないケースがある。

井原鉄道が運営する井原線(岡山県・広島県)の場合、総社~清音~神辺のうち岡山県側の総社~清音はJR伯備線の線路を走る。しかし、法手続上は井原鉄道がJR西日本から伯備線の線路を借り入れて列車を運行しており、営業上も別路線の扱い。このため、総社~清音では「青春18きっぷ」で井原鉄道の列車に乗ることはできない。

その一方、井原線の列車の一部は広島県寄りの神辺~福山でJR福塩線に乗り入れているが、こちらは通常の乗り入れの扱い。この区間では井原鉄道の車両で運行される普通列車も「青春18きっぷ」で利用できる。

七尾線の七尾~和倉温泉(石川県)も法手続上は総社~清音と同じで、のと鉄道がJR西日本から線路を借り入れて普通列車を運行。JR西日本はこの区間では特急列車しか運行しておらず、本来なら「青春18きっぷ」は利用できないはずだ。ただし、のと鉄道の普通列車は七尾~和倉温泉に限り、「青春18きっぷ」でも特例的に利用できる。

JR西日本と南海電鉄が線路を共同使用しているJR関西空港線・南海空港線のりんくうタウン~関西空港も営業上は別路線の扱いだが、りんくうタウン発→関西空港行きの列車はJRの切符で南海の列車に乗ったり、南海の切符でJRの列車に乗ったりできる特例がある。ただし「青春18きっぷ」は特例の対象外のため、この区間で南海の列車に乗ることはできない。

JR上越線に乗り入れている北越急行HK100形の普通列車。JR線内に限り「青春18きっぷ」で利用できる。【撮影:草町義和】
総社駅に停車中の井原鉄道の列車。総社~清音はJR伯備線と井原鉄道井原線が別路線の扱いになっているため、井原鉄道の列車に「青春18きっぷ」で乗ることはできない。【画像:忍者くん/写真AC】

特急列車を特例で利用できる線区

「青春18きっぷ」は原則として普通列車の普通車自由席のみ利用でき、特急列車や急行列車などは利用できない。ただ発売から40年のあいだに、特急列車しか運行されていない線区や普通列車が少ない線区を中心に「青春18きっぷ」だけで特急列車や急行列車などを利用できる特例が追加されている。具体的には次の線区だ。

●石勝線:新得~新夕張
※この区間内の相互発着の場合に限り特急・急行列車の普通車自由席を利用できる。

●奥羽本線:新青森~青森
※この区間内の相互発着の場合に限り特急・急行列車を利用できる。
※この区間内の相互発着の場合に限り全車指定席の普通列車は普通車指定席の空いている席を利用できる。

●佐世保線:早岐~佐世保
※特急列車の普通車自由席を利用できる

●宮崎空港線:宮崎~宮崎空港
※特急列車の普通車自由席を利用できる

宮崎空港線の特急列車。【撮影:草町義和】

特例で利用できる第三セクター鉄道も

第三セクター鉄道についても2010年以降、特例で利用できる線区が一部設定されている。これは整備新幹線の並行在来線がJRから経営分離され、並行在来線から分岐するJR線はほかのJR在来線との接続がなくなったため。その連絡ルートとして第三セクター鉄道を通過利用できるようにした。具体的には次の各線区になる。

●青い森鉄道線(旧・JR東北本線):八戸~青森
※八戸・野辺地・青森の3駅のみ途中下車可能

●あいの風とやま鉄道線(旧・JR北陸本線):高岡~富山
※高岡・富山の2駅のみ途中下車可能

●IRいしかわ鉄道線(旧・JR北陸本線):金沢~津幡
※金沢・津幡の2駅のみ途中下車可能

これらの線区ではJR線と同様、普通列車の普通車自由席のみ利用可能。特急列車や急行列車は利用できない。あいの風とやま鉄道線の「あいの風ライナー」はライナー券(指定席券)を追加購入すれば利用できる。なお、各線区の指定された途中下車可能駅を除き、途中駅では下車できない。

東京~八戸「青春18きっぷ」だけで移動できる?

これらの原則と特例を踏まえたうえで、東京駅から青森県の八戸駅まで普通列車を乗り継いで、「青春18きっぷ」だけで1日で移動するケースを考えてみる。

一番単純なのは、東北本線の普通列車をひたすら乗り継いで北上するルートだろう。列車の接続にもよるが、13~14時間程度で移動できる。しかし、このルートは盛岡~八戸がJR線ではない。

盛岡~八戸はかつて東北本線の一部で、普通列車は「青春18きっぷ」で利用できた。しかし、2002年に東北新幹線・盛岡~八戸が延伸開業した際、東北本線の同区間は第三セクターのIGRいわて銀河鉄道(岩手県内の区間)と青い森鉄道(青森県内の区間)に移管された。このため「青春18きっぷ」は利用できなくなり、IGRいわて銀河鉄道・青い森鉄道の乗車券(盛岡~八戸で3110円)を購入して乗らなければならない。

ただ、「青春18きっぷ」だけで移動できるルートがないわけではない。JR線だけで日本海側に回り込んで青森駅から八戸駅に向かうルートなら、青森~八戸はJR線ではなく青い森鉄道線になるが「青春18きっぷ」で通過利用できる特例を使える。

青い森鉄道線の青森~八戸は「青春18きっぷ」で通過利用できる。【画像:watanos/写真AC】

早朝の5時台に東京駅を出発し、上越線や新潟駅、羽越本線を経由して青森に入るルートや、東北本線・北上線・奥羽本線を経由して青森に向かうルートなら、八戸駅まで「青春18きっぷ」だけで1日で移動できる。

●東京→八戸をJR線の普通列車だけで1日で移動するプラン(一例)
1本目:東京5時53分→大宮6時25分(高崎行き)
2本目:大宮6時34分→宇都宮7時51分
3本目:宇都宮8時02分→黒磯8時58分
4本目:黒磯9時08分→新白河9時32分
5本目:新白河9時52分→郡山10時31分
6本目:郡山10時41分→福島11時26分
7本目:福島11時40分→白石12時15分
8本目:白石12時19分→仙台13時08分
9本目:仙台13時39分→小牛田14時23分
10本目:小牛田14時45分→一ノ関15時31分
11本目:一ノ関15時44分→北上16時22分(盛岡行き)
12本目:北上16時48分→横手18時03分
13本目:横手18時07分→秋田19時12分
14本目:秋田19時23分→青森22時18分(快速)
15本目:青森22時21分→八戸23時52分(青い森鉄道線の特例利用)

ただし、全体の所要時間は東北本線~IGRいわて銀河鉄道線~青い森鉄道線のルートより4~5時間長くなる。接続時間が短い乗換駅もあり、ちょっとでも列車が遅れると1日で到達できなくなる可能性が高くなるから注意が必要だ。

昔に比べるとルールが複雑になり使い勝手が悪くなった面は否めないが、それでも汎用性の高い格安切符であることは確か。ルールを把握したうえで「普通列車の旅」を楽しんでみてはいかがだろうか。

※営業上は別の事業者の別路線の扱いになっている区間について補足しました。(2023年7月14日2時40分)

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