京成トラベルサービスが企画した日帰りツアー「京成電鉄 駅遺産巡りの旅」が8月27日に行われた。鉄道プレスネットはツアーに同行。東成田駅(千葉県成田市)の閉鎖された「幻のホーム」のほか、20年近く前に廃止された旧・博物館動物園駅(東京都台東区)を見学した。いずれも通常は非公開の場所だ。
まず京成上野駅で3400形8両編成の貸切列車に乗車。ツアー参加者は前方の1~4号車に乗車し、5~8号車はスタッフや報道関係者の控車のような扱いだ。4号車と5号車は幕で遮られ、幕の5号車側にはなぜか「この車輌は行商専用車です」と書かれていた。
列車は9時9分頃に発車。地下トンネルをゆっくり進むが1分ほどで列車は停車し、窓の外には薄汚れた地下ホームが見える。早くも旧・博物館動物園駅の地下ホームだが、まずは東成田駅の見学が先……というより博物館動物園駅は廃駅の扱いだから降りることはできず、ドアも開かない。壁には営業していた頃の落書きなのか、「まどか 大好き! あいしてる!!」と大きく描かれていた。
ドアが開かないまま1分ほどで発車し、車内で抽選会などを行いながら1時間ほどで成田空港内の東成田駅へ。地下に設けられた島式2面のホームのうち南西側のホームに入線した。構内は暗く、天井からは「なりたくうこう」と記された古びた駅名標がぶら下がっているのが見える。
南西側のホームは1978年、成田空港駅(初代)として開業したときに空港アクセス特急「スカイライナー」の専用ホームとして使われていた。1991年には旅客ターミナルビルに直結する成田空港駅(2代目)が開業し、それに伴い「スカイライナー」も新しい成田空港駅に乗り入れるように。初代の成田空港駅は現在の東成田駅に改称されて普通列車のみ停車する駅になり、「スカイライナー」専用ホームは閉鎖された。
専用ホームは車両の留置スペースとして現在使われており、ホーム上には成田空港駅時代の案内やポスターなどがいまも残されている。近年は「幻のホーム」として注目を集めるようになり、京成電鉄は2018年に一般公開を実施。その後も「幻のホーム」に列車で乗り入れるツアーが行われている。
博物館動物園駅は営業時代と変わらぬ雰囲気
東成田駅「幻のホーム」を見学後、空港第2ビル駅に移動して「スカイライナー」に乗り、京成上野駅に戻る。ここから上野公園を1kmほど歩いて東京国立博物館の西側にある交差点にたどり着くと、国会議事堂の塔屋に似た建物が現れた。旧・博物館動物園駅の地上出入口の駅舎だ。
大柄な鉄扉を開けてなかに入ると、目の前には地下に伸びる階段。天井はドーム状だが実際にドーム形のしっくいを作ってはめ込んでおり、複数枚のタイルなどをはめ込んだものではないのが特徴だ。ここの壁にも営業休止前に書き込まれたとみられる落書きが多数残されていた。
階段を降りて地下のコンコースへ。板で閉鎖された切符売場の窓口が三つ並び、その脇には男女別のトイレの入口とその案内板が見える。窓口が複数あったということは、定期券を使う客より乗車時に乗車券を買う客が多かったと思われる。駅の周辺は開業当時から上野公園が広がっていて上野動物園や帝室博物館(現在の東京国立博物館)などがあったから、観光客の利用が多かったのだろう。
ここからさらに階段を降りていくと木製のゲートが懐かしい改札口。晩年使われていた切符売場の小屋も残っていた。小屋の上部には同駅の晩年の時刻表(1996年7月20日ダイヤ改正)が貼られている。列車が停車するのは7~18時台(土曜・休日は7~17時台)に限られ早朝と夜の列車はない。停車本数は時間帯によってかなりばらつきがあり、平日11時台の上下線など1時間に1本しかない時間帯もある。土曜・休日の上り13時台に至ってはゼロ。東京都心の駅としては非常に少なかった。
改札口は上り線(京成上野行き)ホームと直結しており、今回のツアーではこのホームまで入ることができた。線路の反対側には下り線(京成成田方面)ホームが少しずれて設置されているのが見え、上り線ホームの京成上野寄りには下り線ホームにつながる階段が設けられている。階段の脇にある柱には、下り線ホームへの案内板が設置されていた。
どこもかしこも薄暗くて薄汚れているが、記者が数十年前に下車したときと雰囲気はたいして変わらないように思う。ホームの壁には営業当時の紙製ポスターが貼られていたが、風雨にさらされていないせいか状態は比較的良好だ。ホーム脇の線路を列車が頻繁に通過し、ツアー参加者もカメラを構えてシャッターを頻繁に切っていた。
都心の駅なのに利用者は1日100人台
博物館動物園駅は1933年、現在の京成本線・京成上野~日暮里の開業にあわせて開設。上野公園を貫く地下トンネルの中間に4両ほどの長さがある相対式2面2線のホームが設けられた。
近くにある東京国立博物館や上野動物園のアクセス駅として使われたが、戦後は輸送量増加に伴い列車が6両、8両と長くなると、ホームの長さが4両ほどしかない博物館動物園駅に列車を停車させるのが困難に。一部の列車は同駅を通過するようになった。
通過列車が増えたことで駅の存在自体が認識されにくくなり、利用者も減少。1990年代前半には乗車人員が1日あたり100人台まで落ち込んだ。駅構内の修繕もほとんど行われず、人の気配がほとんどない闇の中に薄汚れた地下ホームがひっそり浮かぶという、一種独特な雰囲気に。そのことで逆に注目されたこともあり、『週刊少年ジャンプ』の漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治)でも「幻の駅」として取り上げられた。
しかし、列車の長編成化が進むにつれて停車本数はさらに減少。地下トンネル内の駅のためホームを拡張して停車できる列車を増やすことも難しく、1997年の営業休止を経て2004年に廃止された。
その後はトラブル発生時の避難口として扱われていたが、地上に残る出入口部分の建造物が2018年4月、「旧博物館動物園駅駅舎」として東京都選定歴史的建造物に指定。さらに京成電鉄と東京芸術大学が連携して駅舎のリニューアルを行い、同年11月に廃止後初となる一般公開が行われた。
現在はホームの部分を除きイベントスペースとして活用されている。2021年には参加者を限定した見学会やツアーが行われ、ホームに入れる機会も増えている。
今回のツアーに参加した千葉県船橋市の50代男性は「(博物館動物園駅の)存在は知っていたが営業中の頃は来たことがなかった。レトロな雰囲気が残っていてよかった」といい、今後については「あんまりきれいにしないで往時の雰囲気のまま残してもらって、気軽に見られるような施設にしてもらえるとうれしい」と話した。
京成電鉄によると、8月27日のツアーは募集人数が80人だったのに対し、その6倍の480人が応募した。9月17日にも同じツアーが実施される予定だが、こちらも85人の定員に対し440人の応募があったという。
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