近江鉄道「新駅」検討や「キャッシュレス」導入など 地域公共交通計画に明記



近江鉄道や滋賀県、近江鉄道線の沿線自治体で構成される「近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会」は10月1日、「近江鉄道沿線地域公共交通計画(案)」を全会一致で承認した。近江鉄道線の上下分離方式への移行に向け、同線の活性化を図る。

近江鉄道の列車。【撮影:草町義和】

地域公共交通計画の計画期間は2021~2033年度の13年間。今後、2024~2033年度を計画期間とする鉄道事業再構築実施計画を策定し、2024年度に近江鉄道線の上下分離を図る。

現在は近江鉄道が近江鉄道線の施設を保有して列車を運行する第1種鉄道事業者。上下分離移行後は、沿線自治体が設立する鉄道施設管理団体が第3種鉄道事業者として施設を保有する。近江鉄道は管理団体から施設を借りて列車を運行する第2種鉄道事業者に変わる。

地域公共交通計画は近江鉄道線の再生・活性化や二次交通の充実、沿線のまちづくり推進、公共交通の利用促進、情報通信技術(ICT)の活用による多様なニーズへの対応を基本方針として掲げ、それぞれ具体的な項目を定めた。また、2021~2023年度を上下分離移行前の運営改善期間とし、この期間中に実施、検討する項目を重点事業として位置づけた。

重点事業として位置付けられたのは、上下分離方式への移行に向けた準備のほか、増便や乗り継ぎ改善、所要時間の短縮、新駅の設置、車内設備・乗り心地の改善、割引切符の導入、キャッシュレス決済の導入など。このほか、二次交通の維持・確保・改善や、人の移動実態などの定量的な把握・分析なども行うとした。

上下分離方式への移行の準備は、2021年度中に上下分離スキームの詳細を検討。2022年度には鉄道施設管理団体を設立する。その後、鉄道施設管理団体が保有する資産を近江鉄道と協議して決定し、2023年度に資産の譲渡契約を締結する計画だ。

増便や乗り継ぎ改善、所要時間の短縮、新駅の設置、車内設備・乗り心地の改善については2023年度まで実施方法を検討し、施策の優先順位を決定。原則的には上下分離移行後の2024年度以降、優先順位に応じて実施するものとした。

キャッシュレス決済は、交通系ICカード「ICOCA」とクレジットカードを用いた非接触決済「Visaタッチ」の比較検討を行い、早ければ上下分離移行前の2023年度に導入することを目指す。

近江鉄道の新八日市駅。【撮影:草町義和】

近江鉄道線は滋賀県南部の近江鉄道本線・米原~貴生川間と多賀線・高宮~多賀大社前間、八日市線・八日市~近江八幡間で構成される全長59.5kmの鉄道路線。年間利用者数は1967年度で1126万人だったが、自動車の普及などの影響を受け、2002年度には369万人まで減少した。近江鉄道の鉄道事業も1994年度以降、営業赤字が続いている。

その後は新駅整備などの活性化策で持ち直し、コロナ禍前の2019年度は475万人に増加。しかし施設の老朽化などもあって経営の厳しさは変わっておらず、2019年度は約5億円の赤字だった。こうした状況を受け、近江鉄道は沿線自治体と協議を開始。2020年3月に上下分離方式を導入して存続を図ることが決まった。

地域公共交通計画では、2023年度の年間利用者の目標値を約459万人に設定。テレワークの進展を考慮し、コロナ禍前の2019年度より4%低い数値としている。

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