熊本空港アクセス鉄道の黒字転換「2年→33年」に 熊本県、2020年度の調査結果



熊本県は6月28日、熊本空港アクセス鉄道について昨年度2020年度の調査結果を公表した。前回2019年度の調査より利用者数を厳しく見て検討したところ、黒字転換時期は大幅に遅れて33年に。鉄道の整備により発生する社会的効果を示す指標(費用便益費=B/C)は社会的効果が整備費を上回るとした。

JR豊肥本線の三里木駅。熊本空港アクセス鉄道の分岐が想定されている。【撮影:鉄道プレスネット編集部】

この調査では、前回調査したJR豊肥本線・三里木駅と熊本空港を結ぶ3ルート4案のうち、全長約9.0kmで国道57号沿線の密集市街地を地下で通り抜ける「Bルート」を基本に検討。途中に中間駅を一つ設ける。所要時間は三里木~中間間が4.2分、中間~空港間が5分、熊本~空港間が39分。運行本数(片方向)は1日49分、1時間あたり2.5本で、運賃は三里木~中間間が220円、中間~空港間が300円、三里木~空港間が420円、熊本~空港間が800円とした。

熊本空港アクセス鉄道(Bルート)の平面図。豊肥本線の三里木駅から分岐する。【画像:熊本県】
熊本空港アクセス鉄道(Bルート)の縦断面図。【画像:熊本県】

概算事業費(税別)は前回調査で459億円だったのに対し、今回の調査では435億~450億円に縮小。橋りょうやトンネルの構造を見直すなどして65億~78億円の縮減を見込んだ一方、環境対策や施工単価の見直しなどで54億~55億円の増額になり、全体では9億~24億円の縮減が図られるとした。建設期間は働き方改革に伴う週休2日制の導入などを反映させ、前回調査より2年長い8年間とした。

需要は前回調査(2029年の開業を想定)で1日あたり7500人が利用すると想定していた。今回の調査では、開業時期の想定を4年遅い2033年とし、基本ケース(2051年度の航空旅客数が目標値の622万人、三里木~空港間の運賃が420円)の場合で2500人少ない5000人とした。

航空旅客の利用者は前回調査より900人多い3000人。それ以外の利用者(一般交通利用者)は3400人減って2000人としている。定時性の向上が航空旅客利用者に評価されると想定した一方、一般交通利用者は前回調査で車・バスの方が有利であるにもかかわらず鉄道に算定されていた者を除外したことから、大幅に減少した。

熊本空港アクセス鉄道の波及効果は、工事に伴う経済波及効果が632億円、沿線経済活性化に伴う経済波及効果が920億円、税収効果が70億円あるとした。B/Cは30年で1.04、50年で1.22とされ、いずれも社会的な貢献度が整備費用を上回る「1」を超えた。

事業採算性は前回の調査では、現行の補助制度(国と県がそれぞれ18%補助)ではどのようなケースでも黒字転換せず、国と県がそれぞれ3分の1ずつ補助する場合は2年で黒字転換するものとしていた。今回の調査では、国・県が3分の1ずつ補助する場合に33年で黒字転換するとした。熊本県は、鉄道事業の補助制度の採択基準とされる「開業後40年以内に累積資金収支が黒字化」は達成できるとしている。

熊本空港アクセス鉄道の構想は2004年頃に浮上。熊本県が調査を行ったが、2008年には採算性が確保できないと判断され、調査が凍結された。外国人観光客の利用者の増加などを受けて、熊本県は2018年度から再び調査を実施したが、2019年度の調査で事業費が大幅に増加したことやコロナ禍による社会の変化などを踏まえ、2020年度に改めて調査が実施された。

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